原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

短答のアドバイス

2011-10-15 | 勉強法全般
1つ前の記事では論文について書きましたので,今日は短答について。過去に書いたことと重複する内容もあるかと思いますが,来年に向けての対策が本格化している時期ですので,もう一度書きます。まず,私自身の「過程」から紹介して,適宜,アドバイスを。なお,勉強の進捗状況次第では,私の対策は適切な方法でない場合もあるので,そこは注意して読んでください(詳しくは,適宜述べていきます)。

まず,現役時の夏のTKCは,無対策で行って,トータル5割強でした。185点くらいだったように記憶しています。で,この時の分析ですが,条文・判例問題をぼろぼろ落とした,ということ。考えて解ける問題についても,詰めが甘く,絞った挙句に間違える,こんな状況でした。要するに反省点としては,①条文・判例をきっちり押さえていかなくてはいけない(まだこの時期は,主要判例の結論だけしか押さえていないような状況でした),②基本原理原則を確固たるものにしなくてはいけない,ということでした。

それで何をしたかというと,①については,まずは判例六法を買ってきて,条文(国会法・借地借家法・裁判員法などの周辺法令含む)を正確に入れていきました。要件に青,効果に黄色のチェックを入れていきました。会社法の組織再編のあたりや親族・相続なんかも含め,とにかく,全部の条文について。そのうえで,判例について,規範となる部分に赤,その他事案のポイントや結論に緑のチェックを入れていきました。有斐閣の判例六法は,百選とリンクしていますので,過去も含めて百選掲載歴のある判例については全部やりました。そして,最新の百選に掲載されているものは,もう少し詳しい判例集(百選などが該当します。ただ,私は百選以外の判例集を結構使いましたが…)で事案や規範を導く論理や事実認定のポイントについて押さえていきました。

②については,基本書に還りました。LS在学中,薄目の基本書(神田会社とか潮見民法入門(全)とか芦部憲法とか)を通読してあったので,目次を見て,自分の理解が不十分なあたりを読み込みました。

結果的に,私にとっては効果的な方法になったのですが,それは,185点くらいだったものの,ある程度,基本原理原則の理解ができていたからです。注意してほしいのが,①は,基本原理原則の理解がない段階でやると,単なる丸暗記になってしまう,広がりを持たない,時間ばかりがかかる,ということです。判例六法は,基本的に,セミプロ以上用に作られています。引用部分が極めて短いので,「もともとその判例を知っている人が確認するため」に作られています。本来,インプット用ではありません。また,判例の挿入によって,条文の流れが分断されてしまっているので,条文の構造を構築できている人が使うものです。やみくもに判例六法を入れていくのは,不合格になってしまう人の典型的勉強法でもあるので,ここは注意してください。

では,判例六法を使いこなすに至らないレベルの場合はどうすべきかというと,基本原理原則を固めていく必要があります。王道は,基本書の通読です。薄いもので構いません。ただ,時間がかかる。時間を短縮させたければ,入門講座を受講してしまうのが手っ取り早い。先だって,入門講座の受講をお勧めしましたが,それはなぜかというと,近時の短答の出題傾向の変化を踏まえてのことです。3~4回目くらいまでの司法試験の短答の問題は,知識問題が圧倒的に多かった。だから,短答不合格≒条文・判例の知識不足だった。しかし,それ以降は,基本原理原則の理解が試される思考型の問題が多くなった。つまり,短答不合格は条文・判例の知識不足ばかりでなく,原理原則の骨太な理解が不十分であることも意味するようになった。そこで,その部分(②の部分)を補強する必要性が大きくなったために,入門講座をお勧めしたのです。

さて,私の「過程」に話を戻しますと,10月からスタ短に行きはじめまして,演習を重ねました。ただ,最初は5~6割がせいぜいでした。でも,それは4割~5割「も」復習によって新たに知識を得られることを意味し,私にとっては意味ある5~6割でした。上述した①と②の対策も並行してやっていって,第2クールでは6割を超えていくようになって,全国模試・総択では7割くらいでした。本番(平成19年本試験)では,7割弱くらいでした。

平成20年の本試験に向けては,上記の①と②の対策を,「もう一度やる」ことからスタートしました。やはり反復は重要です。この2回目(2周目)で,定着していったように感じます。スタ短も第1クールから受講していたのですが,8割を切ることはなくなり,9割を超えることもありました。全国模試・総択では,いずれも290点台。本番(平成20年本試験)では,298点。

平成21年の本試験に向けては,もう短答対策は一切しなくていいだろうと思い,本当に一切やりませんでした。全国模試で270点くらいで(総択は受けず),本番(平成21年本試験)は,268点。

以上が,私の短答「過程」です。ちなみに,今年(平成23年)の問題は,280点弱でした。特に対策をしなければ,何度やっても260~280くらいかな,細かい条文・判例チェックをしたうえでやれば300点くらいまでいくかな,と思います。こういう「過程」を経てきた私が,短答についてアドバイスというかそういうものをするなら,以下の通りです。

1.目指すべきは8割(280点)。それくらいに至れば,確実な知識,基本原理の骨太な理解があると言え,最終合格の可能性が高いといっていい。確実な合格を目指すなら,7割(245点)を目標にしないでほしい。

2.上に述べた私の点数レベルの感覚からすると,短答の問題は,①知識で解ける問題,②考えればわかる問題,③若干の「知らない」問題,に分かれ,①はだいたい即答する(時間をかけない)。②も,思考パターンはスタ短等で一度は経験済みのものが多いので,そんなに時間はかからない。結果,全科目,時間は結構余る。

3.短答で苦しんでいる方の原因としては,①基本原理の理解が不十分なままに点の知識を入れようとしているために本番で推測(応用)で解答できない,②知識の入れ方が甘い(判例の結論だけ押さえれば何とかなると思ってしまっている,条文を素読・精読して要件・効果を押さえない),③本番を想定した演習が足りない(聞かれるから間違いを発見し,知識を正せるということは多い),④対策の方向性は正しいが反復不足のために定着していない,かなぁと思う。

4.「勝負は論文。短答はそこそこでいい」とは考えない。論文で書いていく,一言一言の礎は,確実な短答知識である。短答知識の集積に,法的思考力,実務的事案解決の視点を「乗せた」ものが合格答案である。

ふぅ。久しぶりに長編になりました。確実な合格のための参考になれば幸いです。

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7 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-10-16 11:32:08
判例六法・基本書の読み込みとありますが、どのくらいの期間やるのですか?
また、何周ぐらいやりましたか?
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Unknown (はら)
2011-10-17 08:23:50
どのくらいの期間やる(べき)か、との点については状況ごと異なるので回答が難しいのですが、私の経験としてお話しすると、かなり直前まで、4月いっぱいくらいまでやっていました。もちろん、それだけやっていたわけではなく、答練に行って論文を書くトレーニングなども並行して行っていました。

何周か、という点は、これも経験からお話しすると、一度やっただけの部分もあれば、それこそ何度も見た部分もあり、何周とはなかなか言いにくいかな、といったところです。2年目に、同じことをまたイチからやって、それで300近くまで行く目処が立ったかな、と振りかえってみて思います。

以上は、あくまでも私の経験なので、あとはご自身の状況を踏まえてアレンジすることが必要かなと思います。頑張ってくださいね!
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付言 (はら)
2011-10-17 08:29:32
注意が必要なので付言すると、「読み込み」はインプットであるので、これができたうえで、十分なアウトプットのトレーニングが必要です。合格を確実にするには、アウトプットの方が重要でして、インプットはその前提です。
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Unknown (Unknown)
2011-10-17 10:15:57
いつも記事をありがとうございます。とても楽しみにしています。
昨年、先生のスタ短特訓を受け、今年初めて受験しました。短答は通過しましたが、最終まで行きませんでした。また、短答もギリギリだったため、以前の先生の記事「合格までの距離」の3タイプと思います。
十分なアウトプットが重要とのこと、それはたとえば、スタ短、スタ論などのことでしょうか?先生は受けていらっしゃったのでしょうか?「合格へのチェックリスト」に照らすと、私の場合、基本概念、判例の正確な理解、条文の素読など足りてないと思うのですが、スタ短、スタ論をやっても消化不良になるようにも思い、年内はそれに集中すべきか、でも、並行してやらないといけない気もして、迷っています。もしお時間があればお返事をいただけますでしょうか?よろしくお願いいたします。
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Unknown (はら)
2011-10-18 19:58:59
まず,順次お答えしますと,

アウトプットの方法については,おっしゃる通り,スタ論やスタ短です。私は,両方ともやっていました(ただし,3回目の年はスタ論のみ)。他の方法としては,論文対策として市販の演習書があるのですが,解説はあるんですが,答案スタイルのものがある演習書って案外ないんですよね。また,それも「実戦的」答案であるものはないんです。その意味では,スタ論なんかの答案,あるいは,上位者答案が最も実践的で参考になります。

インプットに集中すべきか,並行か,という点については,「完全な集中は避けた方がよく,一方を『重視』はすれど,並行であるべき」だと思います。というのは,仮にインプットに100%力を注いでしまうと,本当に「書けなく」なってしまうんですね。それを戻す時間はロスです。アスリートが一度引退して現役復帰するようなものだと思います。

インプットとアウトプットって,記憶の残り方,理解の深さに違いが出ます。インプットは,網羅性に富むのですが,最大の欠点は,理解しなくても先へ進めることです。次なる欠点は,自らの不理解・誤解に気付かないことです。アウトプットの過程で不理解・誤解を正していくなかで,確実な知識・理解が増えていくものです。

私はよく知らないのですが,旧司法試験の時代の受験生は,週2日程度の答練をペースメーカーに,インプットしてはアウトプットをし,そして,それを年々も繰り返すことで,確固たる知識・理解を備えていったと言います。合理的な勉強法だと思います。

アウトプットに消極的になる,「知識が入ってから演習を」を「貫徹」するのはよくないです(インプットがアウトプットの前提ではあるのですが)。消化不良になるってことはないはず。誰だって,「解けない」「書けない」んです。それを「解ける」「書ける」に変化させていくことが,アウトプットの効用。その意味では,「書けない」「解けない」は多いほうがいい。全部が「書ける」「解ける」にならなくてもいい。「書けない」「解けない」のうちのいくつを「書ける」「解ける」に変化させることができるか。それを最大化させる。こういう心持でアウトプットに臨んでください。それが,効果的な勉強法であると思います。「どんどんやる」が勉強を進めるうえで大切なんですね。

以上が,Unknownさんへのメッセージです。来年は合格の報告を待ってます!頑張ってくださいね!
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誤植訂正 (はら)
2011-10-18 21:27:36
「年々も」→「何年も」です。失礼しました。

また質問、相談等あれば遠慮なくどうぞー!
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Unknown (Unknown)
2011-10-18 23:15:39
お忙しい中、お返事ありがとうございます!!
なんだか、力がもりもり!湧いてきました~
また質問させていただくかと思いますが、よろしくお願いいたします☆
先生も、お体に気をつけてがんばってください!
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