原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

自白について

2011-03-15 | 民訴法的内容
自白(民訴)についての考え方を,という声がありましたので,少し。

まず,自白の要件(≒定義)を簡単に確認すると,①口頭弁論期日(又は準備的口頭弁論期日・弁論準備手続期日)における,②相手方の主張と一致する,③自己に不利益な,④事実の陳述,と4つのポイントで押さえると良いでしょう。

①ですが,これは口頭主義・直接主義の表れです。準備書面に記載しただけの場合,書面による準備手続でなされた場合は自白とはなりません(アルマ・195頁)。陳述又は陳述擬制(158)が必要です。自白契約も訴訟外で行われただけでは訴訟法的に有効ではなく,訴訟においてその存在と有効性の証明が必要です(アルマ・195頁)。では,弁論準備手続ではどうか。これは難しいので,論文で出されてもおかしくない。短答的な答えから言うと,「成立する(しうる)」です。なぜならば,擬制自白の規定を準用しているからです(170Ⅴ)。ただ,準備的口頭弁論にせよ,弁論準備手続にせよ,その趣旨を考えると,口頭弁論弁論期日における自白と同じようには考えられない。証拠と争点の整理を十分に行うためには,自由闊達なやりとりがあった方がよく,簡単に自白が成立するのでは制度趣旨を没却してしまいます。ですから,自白の成立を少し厳格に考えるか,撤回を広く認めるべきか,こういった調整が必要になりましょう。

②は,答練で出されたことがありますが,意外な盲点のようです。自白は,相手方の主張との「一致」が必要です。一方当事者が不利益な陳述をしただけでは自白は成立しません。相手方が援用した時点で自白成立です(通説)。

③は,証明責任説と敗訴可能性説ですね。

④ですが,ここがややこしいところですかね。自白の対象って,主要事実に限られる?それとも,間接事実・補助事実も自白の対象になる??

この点を考える前提として,自白の効果を考える必要があります。自白の効果は,3つ。以下,アルマに加えて,藤田「解析」・70頁以下を参考にして書いていきます。

ア.証明不要効(179)。これは,条文上の効果です。裁判所は当事者に争いのない事実をそのまま判決の基礎に「できる」。

イ.審判排除効(裁判所拘束力)。これは解釈上の効果です。弁論主義の第2テーゼですね。裁判所は,当事者間に争いのない事実はそのまま判決の基礎にしなければ「ならない」です。この根拠については,弁論主義に基づく(当事者意思の尊重)とする見解,真実との合致の蓋然性とする見解,があります。

ウ.撤回禁止効(当事者拘束力)。これも,解釈上の効果です。根拠は,禁反言・自己責任と一般的に言われます。

以上を前提として考えます。まず,有力な学説は,以下のように考えます。

「自白の拘束力の根拠は,弁論主義である。イ(審判排除効)がまずあって,その結果として,ア(証明不要効)が導かれる。イ(審判排除効),すなわち,第2テーゼは,自由心証主義との関係から主要事実を対象にするものである。したがって,ア(証明不要効)の対象,つまり,179に言う「事実」とは,主要事実を指し,自白の対象は主要事実である」

これに対して,実務的な考え方は,必ずしもそうは考えない。実務的には以下のように考えられています。

「179に言う「事実」は,主要事実のみならず,間接事実・補助事実も含むと解すべきが素直である。したがって,主要事実・間接事実・補助事実のいずれについても179が適用され,証明不要効は肯定される。ただ,イ(審判排除効)とウ(撤回禁止効)は,自由心証主義との関係から,主要事実に限定される」

以上のような考え方が存在します。どういった場合に差が出るかというと,「間接事実の自白」の場合です。

有力説は,自白の対象は主要事実と考えるので,そもそも自白にあたらず,179も適用されず,証明不要効も生じない。よって,当該事実をそのまま判決の基礎とすることはできない。

実務的な考え方からすると,間接事実は審判排除効・撤回禁止効は生じないものの,179の適用はあり,証明不要効は生じる。よって,裁判所は,間接事実について,当事者の陳述が一致した場合,その事実をそのまま判決の基礎と「できる」。

とにもかくにも,法律学は「要件」「効果」が重要なのは周知のとおりですので,頭の整理をする際に参考にしてください。

<参考文献>

文中に示した通り,アルマと藤田「解析」

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