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BL小説・風のゆくえには~一歩後をゆく裏話とおまけ

2019年03月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

短編『一歩後をゆく』は、浩介就職3ヶ月、慶大学4年生、浩介の一人暮らしのアパートでラブラブ半同棲生活送り始めたころのお話です。

本日は、その二人の元を訪れた保険外交員・荻野夏希さん視点をお送りします。
荻野さんは二人の高校の同級生。元バスケ部。慶とは中学も一緒でした。


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【荻野夏希視点】


 雑談を交えながら保険の契約の説明をしている最中、

「じゃあ、おれの保険金の受取、慶にするって………できる?」

 桜井君の真剣な目にドキッとした。

(え、この二人って、まさかやっぱり、そういう関係……)

って、思ったことは一瞬のうちに奥にしまい込んで、自信たっぷりに、肯いてあげる。

「もちろん。できます」
「そう……」

 桜井君の引き続きの真剣な表情。その桜井君を心配げに見つめる渋谷君の瞳……

(ふーん……)

 渋谷君にそんな顔させられるなんて……やっぱり桜井君は渋谷君の『特別』なんだねえ……


**


 中学の時、バスケ部に入部したのは、渋谷君の影響だった。

「とにかくすんごいカッコイイんだから!」

と、渋谷君と同じ小学校だった子達に誘われて、バスケ部の練習を見にいって、一発で落ちたのだ。

 渋谷君は、とにかく綺麗な顔をしている。そして、その小柄で中性的な容姿に反して、バスケがメチャメチャ上手でカッコイイ。その上、性格は気さくで人懐こい。仕切りも的確。笑顔がカワイイ。

「アイドルみたい」
「そうそう。みんなのアイドル」

 だから抜け駆け禁止だよ。みんなで応援するだけだからね。

 そんなことを言って、密かにファンクラブまで作って、みんなで盛り上がっていた。本人は自分がここまで人気があるということに気がついていなくて、その恋愛に疎くて鈍感なところも可愛くていいって話になっていた。

 渋谷君は頭も良かったので、高校は学区一番の白浜高校に進学した。
 女子で同じ高校に行けたのは私だけだったので、みんなから相当羨ましがられた。でも、クラスは違うし、渋谷君はバスケ部入らないし、で、全然接点持てず……

 でも、高校生活が一ヶ月ほど過ぎた時に、転機は訪れた。
 うちのクラスの桜井君という男子のもとに、渋谷君が頻繁に訪ねてくるようになったのだ。なんだか知らないけれど、二人は友達らしい。

(初めてだな……)

 中学時代の渋谷君はみんなに囲まれているという印象があって、特別仲の良い友達はいない感じだった。でも、桜井君とは二人きりで一緒にいることが多い。

 その上……

『えーじゃあ、何にする?』
『その前に、お前、教えろよ』
『ちょ……っとっもうっ慶!』

 誰もいない教室の中から、楽しげな二人の声が聞こえてきて、思わず立ち止ってしまった。

『やめてよっ。書き終わらないでしょっ』
『教えてくれたらやめる』
『もー慶、慶ってばっ』

(え……『慶』って呼んでる……)

 日直の日誌を書いている桜井君のことを、渋谷君が楽しそうに邪魔している……

(うそ……)

 衝撃的すぎる。

 渋谷君が名前の『慶』で呼ばれることを嫌がる、というのは有名な話だった。
 小さい頃、それでトラブルになったことが何度もあるらしいし、中学に入ってからも、しつこく言ってきた男子のことを殴って、歯を折った、という話も聞いたことがある。
 だから、入部早々に、中3の先輩から『仲良くなれるように名前で呼び合うこと』を強制されていた男子バスケ部の中で、唯一名前呼びを免除されていたくらいなのに……

 思わず、「えーーーー、ビックリ」と声を上げてしまうと、渋谷君が眉を寄せて振り返った。

「なにがビックリ?」
「桜井君が渋谷君のことを『慶』っていってることにビックリ!!」

 そう突っ込んで色々言ってやると、渋谷君はアッサリと、何でもないことのように、答えてくれた。

「こいつはいいんだよ。こいつは特別だから」

 そして、ふわりと微笑んだ。

「こいつだけはいいんだよ」

 その笑顔! キュンとなりすぎて倒れそうになったことは、なんとか誤魔化したつもりだ。


***


 桜井君の一人暮らしのアパートは、角部屋で明るくて、掃除も行き届いていて、とても居心地が良かった。それに、なんだかポヤッとしている渋谷君がとにかく可愛いすぎて、目の保養すぎる。こんな渋谷君を堪能できる桜井君がうらやましい。

(歯ブラシ2つだし……)

 お手洗いをお借りしたついでにチェックしてしまった。歯ブラシも2本あるし、渋谷君のマグカップも明らかに『渋谷君用』な感じだし、サイズピッタリの上下トレーナーの部屋着きてるし、一緒に住んでいない、とは言っていたけれど、これは確実に半同棲状態だ。

「じゃ、お客さんと約束があるから~」

と、早々に退散したのは、せっかくの休日をお邪魔するのも悪いかな、と思ったからだ。

「……新婚さんみたいだったなあ」

 本当のところ、二人がどういう関係なのかは、分からない。分からないけど……

『こいつは特別だから。こいつだけはいいんだよ』

 そう言った時の、渋谷君の幸せそうな笑顔が今も変わらず続いているってことが、なんだか嬉しい。

「幸せにしてあげてよ? 桜井君」

 二人のいる部屋の窓に向かって、小さくエールを送ってみた。

 皆様の夢を応援することがワタクシの喜びでございます。




【おまけ・現在の浩介視点】

(2019年3月4日夜)

「ねえ、今更なんだけど、本当に今更なんだけど、聞いてもいい?」

 今、ソファに並んで座って、スマホの画像を慶に見せている。昨日の高校バスケ部同窓会の写真だ。

「なんだ?」
「引かれると思ってずっと聞けなかったんだけど……」
「だから、今更何聞いても引かねえよ」
「……………。んー、じゃあ聞くけど」

 心を決めて言ってみる。

「慶って、上岡のこと『武史』って呼んでるよね? なんで?」
「あー、それは……」

 慶は答えかけたのに、「お~これ誰だっけ」とか言いながら、スマホの画面を大きくしたりして……

「ん? で? なんだっけ?」
「だから!どうして、上岡と仲悪かったのに、名前呼びなの?!」
「あ?ああ……武史?」
「……………」

 さっきも、慶は普通に「武史」と言っていた。というか、高校の時から、ずっと「武史」呼びだ。おれはこの四半世紀ずっとそれにモヤモヤしていたけれど、そんなこと、聞けないでいた。でも、この際だから、聞いてみる!

「どうして?」
「あー」

 慶は呑気な感じに首を傾げると、

「中1の時に3年の先輩から、チームメイトは名前呼びつけで呼ぶようにって言われたんだよ。おれは断固拒否したから呼ばれてないけど」
「え………そうなんだ」
「あ、これ、亨吾じゃん」

 画面をスライドさせながら、慶が呟いた。

(亨吾?)

 ああ、村上亨吾。……って!

「慶って村上のことも名前呼びだったっけ?」
「あ? そうだけど?」
「……………」

 そういえばそうだった気もする。……けど、会話の中に名前が上ることがないから、忘れてた。そういえば、上岡も村上のこと「亨吾」って呼んでたな。あれ?でも……

「でも、村上は上岡って呼んでる気がする……」
「ああ、亨吾は中2の時に引っ越してきたから、それでかな。おれらは何となく名前呼びが普通になってたから、亨吾のことも亨吾って呼んでたけど」

 なるほど。村上は、名前呼びつけを強制した3年生とは一緒に部活をしていないから……

「へー………今まで知らなかった……」
「話したことなかったっけ?」
「ないよ!初めて知った」

 思わず、慶の腰に手を回してぎゅっと抱きつく。

「こんなに一緒にいるのに、まだ知らないことがあったなんて、ものすごいショック!」
「なんだそりゃ」

 苦笑した慶。

「他は? 高校の時の友達で、名前呼びつけの人いる?」
「そりゃいるだろ」
「誰!?」
「誰って………」

 慶はうーんと唸ってしまった。おれも一緒に唸って考えてみる。

「あ、安倍のことも『ヤス』って呼んでたよね」
「ああ、クラスのみんなそう呼んでたからな」
「ふーん……」

 今頃、ヤスも何やってるんだろうなあ? と慶が呑気に言っている。

 慶と安倍は、大学時代は時々会っていたみたいだけど、安倍が就職してからは、連絡が途絶えているらしい。あんなに仲が良かったのに、不思議な感じだ。

「後は………」

 ふっと頭をよぎった眼鏡の小柄な男子生徒。そうだ。村上亨吾といつも一緒にいた……

「ええと、村上と仲良しだった、村上……」
「おお!テツな!」

 おおっと慶が手を打った。

「懐かしいな。あいつも今頃何やってんだろうな?」
「中学一緒だったんだよね? 家近所じゃないの?」
「全然近所じゃない」

 慶は軽く肩をすくめた。

「うち、学区の端だったから、小学校も中学校も遠かったし、テツ達とは最寄り駅も路線からして違ったから、偶然会うってことも全然なくて」
「ふーん………」

 そんな話も初めて聞いた……

「慶………なんか寂しい……」
「は?」

 眉を寄せた慶の胸のあたりに、グリグリと額を押し付けてやる。

「おれの知らない慶がいることが寂しい」
「……………アホか」

 慶は呆れたように言いながらも、優しく頭を撫でてくれる。その優しさに浸りたい。

「慶、もっと色々教えて?」
「何を?」
「おれの知らないこと。中学の時のこととか」
「んなこと言われても………」

 慶は再び、うーん、と唸ってから……アッサリと言い放った。

「めんどくせー」
「え?」
「おれ、基本的に昔の記憶あやふやだし。んなこと思い出すの面倒くせー」
「えええ!?」

 ひ、ひどい………

「慶ーひどいー」
「ひどくねえよ」
「わっ」

 力任せに体勢を変えられた。慶の綺麗な瞳が目の前に迫ってくる。

「んな昔の話なんかより、おれは未来の話がしたい」
「未来?」
「そう。未来」

 チュッと軽く合わさる唇。

「ゴールデンウィークの話とか」
「うん」
「今度の休みのこととか」
「うん」
「今日、このままここですんのか?とか」
「なにそれ」

 笑ってしまう。

「選択肢色々あるだろ? ちゃんと風呂入ってからするとか、ベッドでするとか」
「お風呂でするとか?」
「でもいいぞ? そうするか?」
「ん……」

 そう言いながらも、キスは続いていく。

 慶と一緒の未来……

 夢にまでみた未来がここにはある。

 

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お読みくださりありがとうございました!

「2つの円の位置関係」の亨吾と哲成の高校時代を追っていたら、浩介と慶のことも書きたくなりまして………
おまけの方が長くなるのはいつものことですね💦

荻野さんが思い出してるのは、「遭逢」14での出来事でした。片想い中の慶君、かわいい。

次回、金曜日……更新できるかな。
どうぞよろしくお願いいたします!

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