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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係39-1

2019年02月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 村上哲成のことが『好き』だ。
 これは、恋愛対象としての『好き』。

 今までにも、そう思うことは何度もあった。でも、その度に、これは疑似恋愛的なものだと否定してきた。……けれども、もう、誤魔化しはきかない。

 バレンタインデーの帰り道、そっと重ねてみた唇……
 そこからは、愛しさしか伝わってこなかった。

 これは、正しい。村上哲成を好きだと思うオレの心は正しい。

 ただ……当たり前だけれども、それを村上に強要する気はなかった。

『答え……分かったら、教えてくれ。そうしたら、オレも言う』

 受験が終わったらでいいから、と村上には言ったけれど、受験が終わっても、村上からその話をしてくる気配はなかった。

(なかったことにするつもりか?)

 そんな感じもする。でも、村上がそうしたいのなら、それでいい。

 もちろん、その先を望んでいないわけではない。でも、それよりも、何よりも、

(村上と一緒にいたい)

 それが第一優先だ。オレはただ、村上哲成と一緒にいられれば、それでいい。


***


 母の退院はまだ先になるらしい。

「だから、卒業式は誰も出席できない」

 ごめんな、と父に謝られた。でも正直、安心した。これで気兼ねなく、卒業式でのピアノ伴奏を引き受けることができる。

 オレは兄と同じで、冷たい人間なのかもしれない。母が入院した当初は、母が心配で心が痛んだけれど、今ではもう、何の縛りもないこの日々を楽しんでいる。


 球技大会では、夏の大会同様、村上と一緒にバレーボールを選んだ。今回ははじめから全力だ。

「享吾がキャプテンになってくれ」

と、石田と林が言ってきたことは意外だった。落書きの件も謝られていないけれど、そう言ってきたことが、彼らなりの仲直りの言葉なのかもしれない。

 夏の大会では、オレ達のチームは渋谷慶率いるチームに負けた。だから今回はどうしても渋谷に勝ちたい、と石田達は言う。

「キョーゴなら出来る!」

 村上に背中を押され、キャプテンを引き受けた。村上がいてくれれば、オレはなんだって出来る。

 前回とは違い、今回は遠慮なくチームメイトに指示を出し、自分も遠慮なく攻撃に加わった。そして、無事に準決勝で渋谷慶のチームに当たり、僅差で勝利することができた。

 勝てたことも嬉しかったし、夏休み前に、オレのせいで大怪我をした渋谷が、元気に動き回っている姿を見られたことも、有り難かった。

「良い試合だったな!」

 キラキラの笑顔で渋谷慶がこちらに握手を求めてきた時には、充実感でいっぱいになった。自分の実力を出し切るってこんなに楽しいんだ……。

 次の決勝では、当然、松浦暁生率いる前回優勝チームとの対戦となったのだけれども………

「前の試合の疲れが残り過ぎてる……」
「もう動けない……」

 メンバー全員ボロボロで、特に体力のない村上は立っているのもやっとのようだった。

「なるべく動かないよう、効率よくいこう」

 松浦達だって疲れてるのは同じなんだから、と、みんなを励ましたけれど、結果は散々なものとなってしまった。

 それでも………楽しかった。

「これでオレの勝ち逃げだな」

 松浦にニヤリと笑われたのすら、楽しくて楽しくてしょうがなかった。


 卒業式でのピアノ伴奏も、簡易バージョンの伴奏譜もある曲だったのだけれども、音楽の先生に勧められ、難しい方を選んだ。こちらの方が合唱が華やかに聴こえるし、ピアノの見せ場もある。おかげで、

「今までの卒業式の中で一番良かったよ」

と、毎年卒業式に列席している来賓の方々に声をかけられるほど、演奏は大成功した。

 合唱大会の伴奏者賞の時は、少しも喜べなかったけれど、今回は、その称賛の言葉に「ありがとうございます」と素直に答えられた自分が、嬉しい。


 オレは、自由だ。



「享吾君、すっかり殻を破ったねえ」

 帰り際、西本ななえに冷やかすように言われた。

「もしかしなくても、テツ君と進展あった?」
「……………」

 無言で見返すと、西本は小さく笑った。

「せっかく身を引いてあげたんだから、頑張ってよ?」

 そして、スイッと耳元に顔を近づけてくると、コソコソッと言った。

「テツ君のこと、ちょっとつついてあげようか?」
「…………。余計なことしなくていい」

 せっかく、キスした後でも、ギクシャクしたりすることなく、今まで通り過ごせているのだ。これからどうするかは、すべて村上哲成の気持ちだけに任せたい。だから即座に断ったのだけれども……

「キョーゴ。帰り、うち寄ってくれ」
「………」

 誘ってきた村上哲成の顔がやけに真剣なのは、西本が余計なことを言ったからだろう……




---

お読みくださりありがとうございました!
一気に書こうかとも思ったのですが、せっかくの最終回、このまま駆け足でいきたくないので、ここで切ってスピード落とそうかと……
そんなわけで、次回こそ最終回(のはず^^;)
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