創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~須藤友と友達の話(前編)

2020年03月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

不安な状況が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

次に書くのは「2つの円」のその後の話、もしくは、浩介父とその友人の話、と思っていたのですが、悩んだ結果、過去話をしようかな、と思いまして。
で、ふいに思い出したのが、慶の勤務先の病院の事務の男の子。

長編『〜あいじょうのかたち』23で、慶が勤務先の病院でカミングアウトしたことに対し、

「大半は表向きは好意的に受け取ってくれたけれど、皆が皆そうだったわけではなく………。
 あからさまに避けてくる人、嫌みを言ってくる人、逆に「実は自分も……」とこっそり打ち明けてくる人、様々だそうだ。 」

と、浩介が説明しておりまして。
その「実は自分も……」と打ち明けてきた人です。
一応、端役でもそれぞれ設定あるもので……
慶よりも2センチ背が高い、目がクリッとした短髪でオデコ出てる男の子(子っていっても、就職2年目の23歳)

これ、2015年5月のお話でした。あれから5年近く経つんですね!ビックリ。
時が経つのは早いものです。

ということで、こんなことがありました、のお話です。



【須藤友視点】


 渋谷慶先生がゲイだと、掲示板にかかれて以来、院内はその噂で持ち切りになった。

 数日後、本人が認めて、今まで隠していたことを侘びたことで、小児科看護師を中心とした女性陣は、ほぼほぼ全員、好意的に受け入れた感じになった。でも、男性陣の中には良く言わない人がチラホラいて……。渋谷先生の人気を妬んで、ここぞとばかりに悪く言ってる人もいるみたいだけど……。

 そんな男性陣の数人が、院長の元に文句(?)を言いにいったところ、

『渋谷を辞めさせたい奴は、渋谷くらい顔が良くて腕もいい小児科医を連れてこい。そしたら考えてやる。まあ、そんな奴は日本中探してもいやしねえけどな』

と、院長が言った、らしい。その話を聞いて、胸がドキドキしてきたのは気のせいじゃない。

(院長と渋谷先生って、やっぱり……)

 院長自らがスカウトしてうちの病院にやってきた渋谷慶先生。完璧な美形で、芸能人みたいなキラキラオーラを放っている上に、仕事もできて、社交的で明るくて優しくて。色が白くて、小柄で、人形みたいで、男女問わず、渋谷先生に見惚れてしまう人は多い、というか、初見で見惚れない人はまずいない。

 院長は、50過ぎならではの男の色気が溢れ出てる人で、絶対的な指導者の貫禄があって、それでいて、朗らかで、全然気取っていなくて、職員全員の名前を覚えてくれていて気さくに声をかけてくれて……

(お似合い……だよなあ)

 はあ……とウットリとため息をついてしまう。

 院長はどちらか分からないけれど、渋谷先生は本当に本物のゲイらしい。テレビの中と、ネットの向こう以外で、本物に出会えるなんて思ってもみなかった。

(この病院で働いてて良かった)

 しみじみとそんなことを思っていたところ、後ろでコソコソ話している声が聞こえてきて、書類探しの手を止めた。

「二人、出来てんじゃねーの」
「うわ、それって……」

 迷惑そうな声。背中がヒヤッとなる。

(やっぱりこういう風に言われるんだ……)

 理解がすすんできたとはいえ、まだまだ、偏見は根強い。もしかしたら、50年くらいたって、世の中がジェンダーレスの教育をされてきた人間ばかりになったら、こういう偏見もなくなるのかもしれないけど……それまではこうして息をひそめているしかないのかなあ……

(って、そのころには、僕、73歳かあ……)

 全然、想像がつかない。……と、

「何言ってるんですか? 先生方」

 刺々しい声に我に帰った。看護師の西田さんだ。

「院長にはご家庭があるし、渋谷先生にだってお相手が」
「相手がいるっていってもさ」

 ふっと鼻で笑った石橋先生。

「恋愛対象がオレらってことに変わりはないでしょ。オレ狙われるかもしれないから気をつけないと!」
「は!?」

 そばで聞いていた看護師軍団が一斉に抗議の声を上げた。

「自分が相手にされるとでも思ってるんですか?!」
「石橋先生になんか誰も興味ないですよ!」

 図々しい!とか有り得ない!とか、ただでさえ「イジラれキャラ」の石橋先生、言われ放題だ。でも、

「何だよ、ひでー言われようだなあ」

 そう言いながら、ちょっと喜んでる風の石橋先生。……マゾなのかな。

 マゾは良くて、ゲイはダメ?

 何なんだろうなあ……。

 嬉しそうな石橋先生を見ていたら、先ほどとは違うため息が出てしまった。

**

 その日の帰り、偶然、ロッカー室の前で渋谷先生が突っ立っているところに出くわした。

「渋谷先生?」
「え?!」

 声をかけると、ビックリした風に振り返った渋谷先生。抜群に可愛い。噂によるとアラフォーらしいけど、全然みえない。

「どうしたんですか?」
「いや……その……」

 先生は言いにくそうに口籠りながら、僕を見返した。

「ロッカー室、中に誰かいるか見てもらっても……いいかな?」
「?」

 何で?と思ったけれど、とりあえずノックして、開けて入ってみた。誰もいない……

「誰もいません……けど?」
「良かった。ごめん、悪いんだけど、ここでドア開けて待っててくれる?」
「?? はい……」

 頭の中、ハテナでいっぱいだ。
 でも、渋谷先生とは仕事では何度も話したことあるけど、プライベートで二人きりで話すなんて初めてで、ラッキー!ってテンション上がってきた。

(間近の渋谷先生、やっぱメチャメチャ綺麗だなー。顔小さいなー)

 ……なんて、感動を噛みしめるよりも早く、

「ごめん、ありがとう。助かった」

 渋谷先生がジャケットを手に慌てたように出てきた。

「須藤さん、仕事終わり?」
「あ、はい」

 渋谷先生は誰のことも「さん」付けで呼ぶ。僕的にはせめて「須藤君」とか、仲良くなって「とも君」とか「とも」とか呼んでもらいたいところなんだけど……

 って、これ、今まさに、お近づきになるチャンスじゃん!

 心臓の高鳴りを抑えながら、先生に問いかける。

「渋谷先生ももう帰りですか?」 
「うん」

 シュッとジャケットを着る姿、メチャメチャカッコいい。

 よし。頑張れ僕。頑張れ。と、自分を励ましながら、先生を見返す。

「じゃ、一緒に帰りませんか?」
「……え」

 またビックリしたような顔をした渋谷先生。だから可愛いすぎるって。同じくらいの身長なので、余計にその綺麗な顔が近くてドキドキする。

「僕、先生と帰る方向一緒なんです。せっかくだから」
「あ……そうなんだ」

 先生はニッコリとすると、

「じゃあ、一緒に帰ろう」

と、うなずいてくれた。やったー!っていうか、その笑顔、眩しすぎるー!

**

 帰り道、ロッカー室に入るのを躊躇していた理由を聞いてみた。はじめは誤魔化そうとした渋谷先生だったけれど、しつこく聞いたらようやく教えてくれた。

「おれがロッカー室にいるときには着替えたくないって言ってる先生がいるって聞いて……」
「え……」

 どうして、と言いかけて、引っ込めた。
 石橋先生のさっきのセリフを思い出したからだ。

『恋愛対象がオレらってことに変わりはないでしょ。オレ狙われるかもしれないから気をつけないと!』

 バカバカしい、と思う。誰もが対象なわけないじゃん……って、渋谷先生だって思ってるだろうに……

 渋谷先生が困った様子で続けた。

「小児科の診察室の中にスペース作ることにしたから、それが出来るまでは我慢してもらうしかないんだけど……」

 渋谷先生は、白衣を羽織っているだけで着替えてないから、置ける場所があれば充分なのだろう。

 だったら。

「先生、そしたら、それが出来るまで、僕のとこ使います?」
「え」

 僕のとこ?

 だから、そのキョトン顔、可愛すぎるって。という、ツッコミを飲み込んで、言葉を続ける。

「事務の中に倉庫あるでしょ? そこ入って右奥のとこ、僕、私物置いてるんです」
「そう……なんだ?」
「ロッカー室まで荷物置きに行くの面倒くさくて」

 昔の書類(そのうちデータ化する、といって、何年も放置されている)がダンボールに入って山積みされているスペースなのだ。棚にハンガー引っ掛けられるので、コートも置ける。

「ハンガー2個あるから、1個どうぞ」
「……いいの?」

 慎重な様子でこちらを覗き込んだ渋谷先生に、大きく、こっくりとうなずいてみせる。

「どうぞどうぞ」
「でも……」
「あ、噂のことなら気にしないでください」

 ビシッと手で抑えてみせる。
 お近づきになるなら、今、このチャンスをおいて他にはない!

「実は……」
「うん」

 ちょうど駅前の信号待ちで止まったところで、声をひそめて言うと、渋谷先生がこちらに身を寄せてくれた。ドキドキが止まらない。

 ドキドキしながら、僕は人生で初めてカムアウトをする! ネットではあるけど、実際の知り合いにするのは初めてだ。

「実は……僕も、ゲイなんです」
「え」

 渋谷先生、目を見開いて……

「……そっか」

 ふっと、笑った。
 その笑顔は何だか儚げで……

(似てるなあ……)

 僕の友達のタツミの好きなアニメのキャラクターに似てる……と思ったら、無性にタツミに会いたくなってきた。先週も会ったばかりだけど。


後編に続く。

-----

お読みくださりありがとうございました!
慶君、職場仕様なので大人しめな上に、カミングアウト問題で弱ってて、いつもと違い過ぎてこそばゆい〜💦

お休み中もクリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当に本当にありがとうございます!

後編はほぼ書き終わっているので、金曜日に更新できると思います。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

BLランキング

ランキングに参加しています。よろしければ上二つのバナーのクリックお願いいたします。してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« BL小説・風のゆくえには~うちの旦那様、... | トップ | BL小説・風のゆくえには~須藤友と友達の... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
(無題←すみません) (TAKA)
2020-03-21 20:33:16
尚さま

ちゃんと、前書きに時期のリンクを貼ってくれておりましたのに、どっかに出てきたっけ? とハテナを頭に置いたまま 後編を読んで 「同窓会の頃かぁ~」とその辺を読み返して ニヤニヤしてました。

あー 私も 慶くんとお近づきになりたいわ!

お出かけが制限されている中、このような更新は非常に嬉しかったです♪
返信する
TAKA様! ()
2020-03-22 08:11:25
わ~TAKAさん!コメントありがとうございます~~!!

しかも昔の読み返してくださったなんて!!
嬉し過ぎます!!感激です!!

そうなんです。同窓会のころ……
5年近く前なんですよねえ……時が経つのが早すぎて。

この時初めて友達にカミングアウトして。
みんなに認めてもらえて。溝部とかに浩介の自慢できて。
そりゃもう、最強キラキラになるでしょうよって感じです~~。

慶くんとお近づき♥ありがとうございます!!
慶くん、ここまでの美形だと、お近づきになるには何かキッカケがないと~~って感じですよねえ。
気さくだし、人懐こいし、全然普通に話してくれるんですけどねえ。

慶くん、この美貌のせいで子供の頃から「人づきあいは広く浅く」になってしまっていたと思われます。
慶は全然、親しくなる気満々だけど、相手の方がビビっちゃうというか……

浩介も、高校の初めの一年は、心の中で「渋谷」と呼んで、ちょっと一歩引いた感じでしたものね……
それがあーなってこーなって。ああ、幸せになってよかった……

あ、そういえば、同窓会、5年ごとに行われているので、次は今年でしたっ。
いつも春先から夏頃にやってるんですけど……
今年はちょっと厳しそうですね😢夏になったらできるかな……


更新、非常に嬉しかった、なんてめちゃめちゃ嬉しいお言葉ありがとうございます!!!
いつになったら日常が戻ってくるのでしょう……
不安な日々が続いておりますが、TAKAさんもくれぐれもご自愛くださいませ。

なんだか体にモヤモヤしたものが纏わりついていましたが、TAKAさんのコメントで一気に吹き飛びました。
本当にありがとうございます!!!

実はもう少しで、ブログ開設5000日なんです。(今日4973日でした)
5000日にはせっかくだから何かしら更新したいなあとは思っているのですが……

そんな感じのこんな不定期更新にお付き合いくださり本当に本当にありがとうございます!

コメントのおかげで元気でました。本当にありがとうございました!!
返信する

コメントを投稿