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BL小説・風のゆくえには~グレーテ15

2018年05月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【チヒロ視点】


『チヒロ、そういう気持ち、何ていうか知ってる?』

 コータが今までみた中で一番の優しい顔で言った。

『嫉妬。独占欲。情熱。……恋、だよ』

 ………恋?
 僕、真木さんに、恋してるの?
 でも、恋って何? 恋って……恋って………



「………ロ君、チヒロ君?」
「!!」

 気がついたら目の前に真木さんの綺麗な茶色の瞳があって、ビックリして飛びのいてしまった。

「えと………あの」
「コータ君なら帰ったよ」
「……………」

 あ、ホントだ。コータいなくなってる。いつの間に………

「寒くない?温かい紅茶いれたから」
「あ………、ありがとう……ございます」

 自分がバスローブ姿なことなんて忘れてた。真木さんもいつの間にバスローブを羽織ってる。さっき、コータにさわる前に脱いでたけど………

(……………痛い)
 途端に、コータの頬や肩をさわっていた真木さんの姿が頭の中に思い出されてきて、ブルブルブルッと首を振る。胸がチクチク……なんて生やさしいものじゃなくて、ぐっと掴まれたみたいに痛い……

「おいで?」
「………………はい」

 ソファの隣をトントンと叩かれたので、そこにストンと腰をおろす。促されるまま、紅茶を飲む。

「………おいしい」
「そう。良かった」

 真木さんは穏やかに言って、同じように紅茶を飲んでる。そのまましばらくシーンとした中で紅茶を飲んでいたけれど……

「チヒロ君」

 名前を呼ばれたので「はい」と返事をした。でも、真木さんはまた黙ってしまって……。それなので僕もずっと黙っていたら、真木さんがまた、穏やかに言った。

「俺は君のその、言葉数の少ないところ、とても気に入ってるんだけどね」
「?」

 言葉数少ないところ? 気に入ってる?

「でも……、今は少し、君の話が聞きたいな」
「?」

 話?

「そうだな……何から聞こうかな」

 真木さんは、うーん、と言ってから、カップをテーブルに戻した。

「君の『初めての人』は誰?」
「初めて?」

 初めてというのは? 聞くと、真木さんはピッと指を立てた。

「初めて、セックスをした人」
「ああ、それは」

 僕もカップをテーブルに戻して、真木さんを向き直る。

「タカシ先生です」
「先生? 学校の先生?」

 首を傾げた真木さんに、ブンブン頭を振ってみせる。

「いえ。姉の家庭教師の大学生で、その時僕たちは高校生で」
「ふーん……。その人が初めての恋人ってこと?」
「恋人……」

 うーん……。今度は僕が首を傾げてしまう。
 
「恋人の定義が分からないんですけど……」
「そうだねえ……」

 真木さんも、うーんと首を傾げてから、

「デートをしたり、セックスをしたりしたら、恋人かなあ」

 まあ、一概にそうとは言えないこともあるけど、と真木さんは小さく付け足した。ますます、うーんと唸ってしまう。

「デート……。二丁目に初めて連れてきてくれたのはタカシ先生でそれからも何度か連れてきてくれて」
「ふーん……」

 真木さんは軽く肯くと、「で?」と言った。

「そのタカシ先生とはどうなったの?」
「どうなった……」

 どうなったって言われても……

「姉がものすごい怒って追い出したので、それ以来会ってません」
「怒ってって、どうして?」

「タカシ先生が僕としてたから、です」
「え……、それってまさか」

 真木さんが眉を寄せた。

「チヒロ君、無理矢理、されたの?」
「いえ、そんなことはないです」

 ブンブン首を振る。

「姉に見られた時も、もう何回目かの時で」

 覚えているのは、夏の暑い日だったこと。僕の部屋のクーラーの調子が悪くて、先生も僕も汗だくだったこと。でもお互いの肌についた汗は冷やっとしてたこと。悲鳴が聞こえてビックリして振り返った先に立っていたアユミちゃんは、白い長袖のフリルのついたブラウスを着ていたから、アユミちゃん暑くないのかな?って思ったこと。

「タカシ先生は姉に『おもわせぶりな態度』をしていたらしくて、それなのにタカシ先生が僕としてたからって姉は怒って……」
「ふーん……なるほどね」
「?」

 よくわからないけれど、真木さんはしきりと「なるほどなるほど」と言ってから、また、「で?」と言った。

「そのあと、恋人は?」
「ええと……」

 ぐるぐるぐると思い出してみるけれど、また、うーん、と唸ってしまう。

「あの……セックスをしたら恋人、ってなると、僕……」
「あ、そうだよね」

 それは俺も人のこと言えない、と、真木さんはちょっと笑った。

「うん。その条件は外そう。えーと……そうだな。すごく会いたくなったりする相手、とか? 今までいた?」
「はい。一人だけ」

 思わず思いきり肯いてしまう。と、真木さんがちょっと眉を寄せて「誰?」と言った。ので、もう一度「はい」と思いきり肯く。そんなの、決まってる。

「真木さんです」

 それは断言できる。

「真木さんにはいつもすごく会いたいです」
「…………」
「…………」
「………そっか」
「はい」

 また、思いきり肯く。と………

「まいったなあ……」

 なぜか真木さんが困ったようにこめかみのあたりに手をあてた。

「このままあやふやなままで終わりにしようと思ってたんだけどなあ……」
「え?」

 終わり? 終わりって、何?

「チヒロ君」

 すいっと真木さんの瞳がまっすぐこちらに向いた。綺麗な瞳……

 思わず息を飲んでしまった僕に、真木さんは微笑んで、言った。

「俺の恋人になる? 期間限定だけど」
「え」

 恋人? 期間限定って……

「そうだな……3月末まで。あと一ケ月ちょっとってところだね」
「……?」

 3月末までの、恋人?
 恋人……恋人って結局………

「あの………恋人って結局、何をするんですか?」

 正直に聞いてみると、真木さんは、ふっと笑って、優しく言った。

「とりあえず、キスしようか」
「キス?」
「うん。そう」

 すいっと伸びてきた温かい手が頬を囲ってくれる。気持ちいい。そして……

「………」
「………」

 軽く、触れるだけのキス。
 ……なのに。ビビッて体が震えて、体温が一気に上昇した。温かいなんてものじゃなくて、ぶわっと、胸のあたり、喉のあたりも迫ってきて……

「……苦しい」
 思わず言ってしまう。

「さっき、真木さんがコータにさわってるの見た時は、心臓が痛くて苦しかったけど……」
「……………」

 真木さんがぎゅっとしてくれた。ああ、ほら……

「今は、なんか、体の中から、気持ちが溢れてきて………苦しい」

 真木さんの背中に手を回す。と、さらにぎゅっとしてくれた。ああ……なんか、本当に、溢れすぎて……

「溢れすぎて……、吐きそう、です」
「え」
「なんか………ホントに………」

 吐く。

「え」
「吐きそう……」

 頭がぐわんぐわんする……

「チヒロ君、大丈夫?」

 真木さんの心配そうな声。頭の中、グルグル回ってる。ふわっと体が浮いて、そして、柔らかいお布団の中………

「すみません………」
 夢うつつの中で謝ると、

「看病は恋人の役目だよ」
と、優しい声が言ってくれた。頭を撫でてくれる手が気持ちいい。

(恋人………、恋人)

 僕の恋人、真木さん………

 何だかとても幸せな気持ちに包まれながら、僕は眠りに落ちた。



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お読みくださりありがとうございました!
次回金曜日更新予定です。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

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おかげさまで残すところあと数話までたどり着くことができました。本当にありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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