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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係21

2018年11月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】

 村上享吾が松浦暁生を殴った件は、あっという間に学校中に知れ渡った。
 タイミング悪く、殴った瞬間を学年主任の先生に見られてしまったことと、お喋り女子二人がたまたまその場を通りかかったことは、もう運が悪かったとしか言いようがない。


「三角関係のもつれってやつ?」
「は?」

 翌日の昼休み、西本ななえに大真面目な顔で問われて、意味が分からず「は?」としか言えないでいると、

「テツ君のことを、享吾君と松浦君で取り合ったんでしょ?」
「……………。誰がそんなこと言ってんだ?」
「一部の女子」
「…………」

 意味が分からない……。と思っていたら、西本はちょっと笑って、

「まあ、冗談はさておき」

といって、また真面目な顔に戻った。

「享吾君、まずいね。渋谷君を怪我させた件に引き続きだから、ちょっと……」
「だからそれはわざとじゃないって」
「わざとじゃないにしても、関係してることは確かでしょ」
「………」

 ピシャリと言われて黙ってしまう。そうだけど……

「それに、今回の件、松浦君は『享吾は悪くない。ちょっとした言葉の行き違いだ』って言ってるじゃない?」
「うん………」
「それで余計に、松浦君の評判が上がって、享吾君の評判が下がってるのよね」
「…………」

 二人は具体的に何を言い争っていたのかは教えてくれないので、どちらが悪いのかは結局、誰にも分からない。でも、理由はどうあれ、暴力をふるったのは村上享吾だけなので、村上享吾の方が分が悪い。

「で?」
「え?」

 メガネの奥の鋭い目で見られて、ドキリとする。心の中をのぞきこむような光で、西本がこちらをのぞき込んできた。

「テツ君はさ」
「………うん」
「どっちの味方なの?」
「え」

 どっちの、味方?

「やっぱり、昔からの親友の松浦君? それとも、最近やたら仲の良い享吾君?」
「…………。そんなの……」

 そんなの………決められない。オレは、どっちの味方もしたい。それじゃダメなんだろうか。





【暁生視点】


 村上享吾という男が嫌いだ。
 享吾に関わると、せっかく作り上げてきた完璧な『松浦暁生』にヒビが入っていく。『松浦暁生』は完璧でなくてはいけないのに。いつでも、何に対しても、完璧でいなくてはならないのに。


**


 学級委員会が始まる前に、渋谷慶に笑いながら問いかけられた。

「松浦ー、お前昨日、享吾に殴られたんだってー?」

 あいかわらずのキラキラを振り撒きながら、渋谷が不思議そうに言う。

「なんで殴り返さなかったんだよ?」
「……普通、殴り返さないだろ」
「普通、殴り返すだろ!」

 シュッと拳骨を繰り出す仕草をした渋谷。渋谷は女みたいに小柄で綺麗な顔をしているくせに、昔から喧嘩っぱやくて、いまだにしょっちゅう殴り合いの喧嘩をしている。

「松浦が殴り返してれば、喧嘩両成敗だったのにさ。享吾だけ自宅謹慎になっちゃって、可哀想に享吾」
「なんだよそれ。オレ、被害者だからな?」

 渋谷の妙な言いがかりに、笑いながら肩をすくめてみせる。でも、

「でも、享吾だけ悪い、みたいになるのはオレも本意ではないんだけどな」

 なんて、思ってもないことを言ってやる。そういうとみんなが「さすが松浦は優しいな」とか言うからだ。

 と、思ったけれど……

「そうだよな」
「え」

 渋谷はあっさりと首を縦に振った。

「享吾が殴るってことは、松浦がよっぽどのこと言ったんだろ? それなのに享吾だけ自宅謹慎じゃ、松浦も寝覚めが悪いよな?」
「……………」

 渋谷……

 グツグツグツと腸が煮えた気がした。他の奴がいうならともかく、渋谷が享吾をかばうようなことを言うなんて……


 渋谷とは小学校3年生で同じクラスになったのをキッカケに友人になった。

 渋谷もオレと同じく、周囲からの期待を背負っている奴だ。頭が良くて、スポーツができて、容姿がよくて、リーダーシップも取れて。お互い、委員長職、応援団長、リレーの選手等々、ありとあらゆる「代表」と言われるものをやらされてきた。出来て当然、と言われ続けてきた。そのプレッシャーを理解し合えるのは、渋谷だけだと思う。

 それに、オレは少年野球、渋谷はミニバスで、市選抜に選ばれるほどの実力を持っていたため、中学でも野球部とバスケ部で一年生の頃からレギュラーの座を勝ち取ってきた。その苦労も渋谷とは分かち合える。その苦労を乗り越えてお互い頑張ってきた。

 それなのに、渋谷は最後の大会を、村上享吾のせいで途中から出られなくなってしまったのだ。

「……渋谷は、享吾のこと、許してるのか?」
「え?」

 思わず出てしまった言葉に、渋谷は「何が?」と首をかしげた。あいかわらずの可愛さに、余計にイライラしてくる。

「何がって、足のことだよ。享吾のせいで……」
「享吾のせいじゃねえよ」

 渋谷は盛大に眉を寄せると、バンバンバンッとオレの腕を叩いてきた。

「あれは事故。どっちのせいとかねえ」
「でも、そのせいでお前、バスケできなくなっただろ。お前だったら、あのあと大会で活躍して、バスケで特別推薦の話だって……」
「あはははは。ないない」

 再びバシバシ腕を叩いてくる渋谷。

「そもそもオレ、高校でバスケやる気ないし」
「は?!」

 何を言ってる?!

「それってやっぱり怪我のせい……っ」
「じゃない、じゃない」

 渋谷は苦笑すると、軽く手を振った。

「元々、バスケは中学までって思ってたんだって。これ以上バスケ嫌いになりたくないからさ」
「…………なんだよそれ」

 これ以上ってことは、今、嫌いなのか? でも……

「でも、親は何て言ってる? 小学校の頃からミニバスやらせてたってことは、続けて欲しいって思ってるんじゃ……」
「え? 親は関係ねえじゃん。勝手にしろって言われるだけだよ」

 ケロリと言われて愕然としてしまう。
 なんだよそれ……なんだよ……。

 うちは、野球を続けさせたい父親と、進学校に行かせたい母親の喧嘩が、いまだに続いてるのに。オレがどうしたいかなんて、二人は聞いてもくれないのに……

 渋谷………ズルいじゃないかよ、そんなの。
 理解者だと、ずっと思ってきたのに………


(………………テツ)

 思わず声に出そうになり、飲み込む。

 こういうとき、テツに……村上哲成に会いたくてしょうがなくなる。

 あのクルクルした目でオレを見上げて、

『暁生はすごいな!』

と、純粋な賛美を送ってほしくなる。

 テツは昔から、オレの言うことを何でも聞いてくれて、オレのために何でもしてくれた。テツといると、オレは完璧な『松浦暁生』を演じ続けることができる。

(それなのに………)

 中3になって、テツと同じクラスになった村上享吾が、せっかくの居心地の良い二人の関係を壊したのだ。

(テツも渋谷も、享吾のせいで……)

 それに何より、享吾の『才能を隠しているところ』が気に入らない。完璧を維持しようとしていることをバカにされている気がする。

(ああ、腹が立つ……)

 テツは何であんな奴と仲良くするんだ。仲良くするなと言ったのに。言ったのに……

 その苛立ちもあって、テツに嫌な言い方をしてしまっていた。それでもテツはオレを選ぶと信じていた。信じていたのに……


 イライラしたまま、委員会の時間を過ごし、終わって早々、教室を出ようとした、その時。

「……暁生」

 廊下から、小さく声をかけられた。

「……一緒に帰ろ?」
「テツ……」

 眼鏡の奥のクルクルした瞳を見て……なぜか心底ホッとした。



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