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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係36-1

2019年02月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 2月になった。受験本番まであと少しだ。
 同時に、卒業までもあと少し、というわけで、受験後に行われる球技大会の組決めや、卒業式で歌う歌の話し合いとか、卒業に向けてのイベントの準備も始まっている。始まってるのはいいんだけど……

「享吾君の人気、ここにきて急上昇中よ。これ、バレンタインもすごいことになるんじゃない?」
「……ふーん」

 西本ななえの言葉に、興味なさげに肯いたものの、正直内心面白くない。と、いうか、人気急上昇のきっかけを作ったのは西本なので、微妙に恨めしく思ったりもしている。

(まあ、しょうがないんだけどさ……)

 二週間ほど前、西本が風邪を引いて声が出なくなったため、学級会の司会を村上享吾がしたのだ。一応、二人で学級委員なので、今までも前には出ていたけれども、普段は西本が司会をして、村上享吾が板書をしていたから、司会をするのは初めてのことだった。でも、初めてとは思えない堂々とした司会っぷりで……

「享吾君ってやっぱりかっこいいよね」

と、女子達が噂しはじめたわけで……

「まー、松浦君が彼女できた宣言したから、余計にじゃない?」
「それはまあ……」

 そうなるのか? 実は、松浦暁生と村上享吾は少し似ている、ということは、オレもずっと前に思ったことがある。

 西本はちょっと頬を膨らませると、

「松浦君てばさ、私と同じで『親に高校決められた』って愚痴ってたのに、自分はさっさと進学先の高校の彼女作るなんて、ズルすぎるよ」
「…………」

 へえ、と思う。暁生と西本が愚痴をこぼしあえる仲だとは知らなかった。

(あ、もしかして)

 西本の『好きな人』って、暁生かな? そうか、そうかもしれない……

 なんてオレが考えてるなんて知らない西本は、「あ、それにさ」と話題を変えるようにパンッと手を打った。

「享吾君の人気の理由は、渋谷君のせいもあるかも」
「渋谷?」

 渋谷慶。オレと同じくらい背が低いのに運動神経抜群で、顔も良くて、頭も良くて……っていうすごい奴で、親衛隊もいるくらいのモテモテの同じ学年の奴だ。

「渋谷君、年明けからずっと、妙に暗~くなって話しかけにくいからさ。みんな新しいアイドルがほしいのかも」
「なんだよそれ」

 確かに渋谷は年明けから様子がおかしい。同じ白浜高校を志望しているけれど、ちょっと厳しいらしいので、追い詰められているのかもしれない。

「まあ、それを除いてもさ」

 西本は眼鏡の奥の瞳をキラッと光らせながら言った。

「ここ最近の享吾君、一皮も二皮も向けて、いい感じだもんね」
「…………」

 それは……否定しない。最近の村上享吾は……自由だ。あの日を境に少しずつ変わっていったのだ。



 あの日……今から一ヶ月近く前。白浜高校と花島高校の見学に行った日の翌日の朝。

 雨の中、村上享吾が傘をさして、オレの家の前にポツンと立っているから驚いた。

「おー、なんだよ? インターフォン鳴らしてくれれば良かったのに」
「ああ………うん」

 気まずそうに頬をかいた村上享吾。なんだろう?

「どうした? ま、とりあえず学校一緒に行こうぜ?」
「ああ……松浦と待ち合わせのところまでな」
「へ?」

 なんで? お前ら仲直りしたんだろ? そこからも一緒にいけばいいじゃん。

 そう言うと、村上享吾は軽く首を振って、

「仲直りはまあ……したけど、約束したから」
「約束?」
「中学までは、松浦がお前と登下校するって。でも、高校からは……オレが一緒」
「……っ」

 柔らかく微笑まれて、ドキッとしてしまう。ああ、朝から心臓に悪い……

 それを誤魔化すために、バシバシと腕を叩いてやる。

「なんだよそれ!オレのいないところでそんなこと勝手に決めてー!」
「ああ、もう、雨濡れるぞ。やめろよ」

 引き続き、柔らかい笑みを浮かべている村上享吾。ああ、もう、なんだよ……っ

「まあ、でも、そうだなっ。高校一緒に行こうな! 花島高校、平坦な道だからのんびり行けていいよなっ」
「………。そのことなんだけど」
「え」

 いきなり立ち止まられた。そして、雨に濡れる、とオレにはやめさせたくせに、村上享吾はオレの方に手を伸ばしてきて……

(………うわっ)

 すいっと頬を触られて、さっきの比でなく心臓が跳ね上がる。冷たい手。真剣な顔……

「あのな」
「う……うん」

 雨の音がドキドキを増長させる。なんだよ。なんだよ……

「言うことコロコロ変わって申し訳ないんだけど……」
「………」
「やっぱり、白浜高校を受けようと思う」
「え」

 あんなにつらそうに、白浜高校を受けるのやめるって言ってたのに?
 もしかして、親の説得に成功したのか?

 村上享吾は真剣な目をオレに向けて、ハッキリと言い切った。

「だから、お前も白浜高校を受けてほしい」
「……おお」

 頬を触ってくれている手を上からギュッと握りしめる。この冷たい手は、オレが温めてやる。

「よし! 一緒に、白浜高校、行こう!」

 前と同じようにそう宣言すると、村上享吾はまた、フワリと笑った。
 

---

お読みくださりありがとうございました!

補足1
神奈川県の公立高校の受験日は、現在はバレンタイン当日ですが、当時(1990年)はもっと遅かったです。

補足2
渋谷慶君が年明けから暗くなってしまったのは、大好きなお姉さんが彼氏と結婚するっていってきたからです。

わわわ、もう7時20分になるっ。とりあえず更新します……
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