現在のお話。渋谷慶君（←あと数ヵ月で45歳になるのに、まだまだ君付けが似合う男！）視点からはじまります。慶君は小児科のお医者さんです。
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『風のゆくえには～ライン繋がる』
【慶視点】
訳あって、とうとうラインを始めた。
確かに便利だ。ホーム画面に浩介とのトークのショートカットを張りつけたので、本当にボタン一つで繋がるようになった。
それはいいんだけど…………
「わ～『今日も大好き❤』ですって！」
「！」
弁当を食べているところで、いきなり後ろから叫ばれて、飛び上がってしまった。声の主は、看護師の西田さんだ……
「彼、かわいいスタンプ持ってますね～！あいかわらずラブラブ～♪」
「………………」
勝手に人の携帯を覗かないでください……と言いたいけど、言っても無駄なので、言わない……。
西田さんは、根はいい人なんだけど、お節介で押しが強くて、かなりの噂好きなので、取り扱い要注意人物だ。
「で？ 先生は何て返すんですか？」
「いや、返さないでいいって言われてるから、返さない……」
「は！？」
「え」
いきなりすごい勢いで詰め寄られて、ビックリしてしまう。
「な、なに……」
「何も返さないなんてありえないでしょ！」
「そう言われても………」
何を返せと？
ほぼ毎日、浩介は色々なスタンプを送ってくる。
『送りたいから送ってるだけだから気にしないで～～』
というので、見はするけど、何もしない。でも、浩介いわく、
『既読がつくだけで、見てくれた～～❤って幸せになるから大丈夫～～』
だ、そうで………。
一応、時々はまともなことも送ってくるけれど、だいたいは❤がたくさんついたスタンプばかりで、返事のしようがない……。
「そのお弁当、彼が作ってくれてるんですよねえ？」
「ええ……まあ……」
西田さんはなぜか引き続き目を三角にしながら、
「じゃあ、『お弁当おいしかったよ』とか送ってあげればいいじゃないですか」
「えー、でもそれ………」
今日はたまたま休み時間を一人で過ごしているけれど、いつもは誰かと一緒なことが多い。それに、休み時間自体も、たいてい午前の診察が午後の時間に食い込んでいるから、悠長にメッセージなんか送っている場合ではなくて………
だから、今日は「おいしかった」と送れても、明日は送れない可能性がある。それでは、今日はおいしくて、明日はおいしくなかった、と思われそうで……
と、いうことを言うと、西田さんは盛大にため息をついた。
「あーやだやだ。言い訳言い訳！」
「そんなこと言われても………」
なんか絡まれてる……
「とにかく、何でもいいから送ってあげてください！」
「何でもって……」
「いいですね！？」
「……………」
西田さん、「なんで男の人ってこうなのかしら！」とかプリプリ言いながら行ってしまった……
（………。旦那さんと何かあったのかな……）
うーん………何でもいいからって何を………と、考えた結果、
『あ』
と、一文字だけ、送った。
【浩介視点】
慶から『あ』と送られてきた。
（誤送信？ 何だろう？）
慶はメールも用件しかない短い文章を送る人だけれども、ラインになったら、更にそれが加速して、短くなった。
「すげー楽でいい」
と、言っていたので、それはそれで良かった、と思う。慶の負担になることはできる限り排除してあげたい。
でも、こちらから送ることは許してもらってる。返事なんかなくていい。『既読』のマークがつくと、その瞬間、繋がった！って思えてすごく嬉しくなる。
それで、慶が困りそうな❤がいっぱいついているスタンプを送って、慶の困った顔を思い浮かべて、ニヤニヤしてしまうところは、おれって性格悪いなあと、自覚はある。
（それにしても『あ』……）
ちょっと待ってみたけれど、追加のメッセージはない。
（うーん。触っちゃっただけかな？）
だったら……と、思って、わざとふざけて、
『「愛してる」の「あ」？』
と、送ってみた。
そうしたら、すかさず、
『正解』
って！！
うわーうわーうわー！
幸せすぎて、倒れそうだ。
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お読みくださりありがとうございました！
大急ぎで書いてみた日常小話。失礼しましたー
次回、火曜日……更新できるか不安ですが、よろしければどうぞお願いいたします。
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