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風のゆくえには~たずさえて30-1(菜美子視点)

2016年10月01日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2016年6月19日(日)


 中学の同級生の潤子の結婚式まであと一週間となった。
 今日は二次会の軽いリハーサルと最終的な打ち合わせをするために、潤子と須賀さんカップル、そして幹事の明日香と溝部さん、そして山崎さん、の6人で集まることになっている。


「……で? 最近どうなのよ? 山崎さんとは」
「どうって………」

 朝10時半に会場集合のため、先に女子3人だけで近くの珈琲店に集まった。まだ朝の9時半だ。

 恒例の近況報告会での明日香の問いに、うーん……と首を捻る。

「この一か月、個人的には一度も連絡取ってない」
「はあああ?!」

 明日香と潤子、ハモってる……

「何それ? 付き合ってるんだよね?」
「うん……たぶん」
「たぶんて!」

 なにそれ!どーなってんだよ山崎!とか怒っている二人に、「あ、違うの」と訂正をする。

「私が連絡取りたくないって言ったの。仕事と両立できる自信がつくまでは……って」
「えー………」

 信じられない……と呆れたように言う潤子の横で、明日香が冷静にツッコんでくる。

「それで? 自信ついたの?」
「…………」

 自信……ついたかどうか分からない……


 とりあえず、1つ前進したのは、目黒樹理亜のことだ。
 樹理亜自身のことは、二週間に一度の診療はそのままに、渋谷先生のご両親にお任せすることにした。

 今まで一緒に暮らしていた陶子さんとララも猫のミミもようやく帰ってきたそうだけれども、母親に居場所を知られないためにも、そちらは引き払ってもらうことにしたのだ。

「元々は、樹理の当座の居場所のつもりで引き取ったのよね。それが気がついたらもう一年も……」

 陶子さんは遠い目をしながら言った。
 一年以上前、母親に追い出され、住むところと働く場所を突然失った樹理亜に、その両方を提供してくれ、見守っていてくれた陶子さん……。

「ま、こんなかわいいノンケの子が店にいるのは目の毒だって、一部から文句も出てたしね。ちょうど良かったわ」

 そう、ふざけたように言ってから、「元気でね」とギュウッと樹理亜を抱き締めた。
 樹理亜が、ふと気がついたように言う。

「陶子さん、ララのママ見つかったの?」
「見つかったけど……ララはこれからもこっちで暮らすって」
「陶子さんがララのママになるの?」

 首をかしげた樹理亜に、陶子さんはふんわりと微笑んだ。

「そうよ。でも、ララのママもママのまま。離れていても、会えなくても、ママはママよ」
「……………」

 樹理亜はゆっくりと瞬きをしてから……

「うん。そうだよね」

 大きく、大きくうなずいた。


 その樹理亜のママの店に、私は、週に二度、お客として通っている。

 院長であるヒロ兄には「関わりすぎだ」と怒られるから、絶対に言えないのだけれども、ヒロ兄の病院からわりと近いので、そちらの勤務日の帰りに寄っているのだ。
 あの毒々しいピンクも見慣れてしまえば、そんなに気にならなくなり、樹理亜の母の『おまかせカクテル』も、評判通りおいしいし、行きつけにしている人の気持ちがわからないでもない。何というのだろう……「ダメな自分を受け入れてもらえる」という雰囲気があるのだ。

 はじめは警戒心丸出しだった樹理亜の母だったけれど、私がただ飲んで帰るだけ、というのを7回繰り返したら、8回目でようやく少し話をしてくれた。

「あたしさ、物心ついたときから母親はいなくて、どーしようもない父親と二人暮らしで、中学くらいからは家にもあんま帰ってなかったからさ……」

 親子って何なのか、家族って何なのか、イマイチ分かんないんだよね、とポツリと言った樹理亜の母。

「親子の数だけ、親子の形があると思います」

 お互いにとって一番良い形になれるといいですよね、と続けると、眉間にシワをよせられた。

「なに、その良い形って。普通の親子ってこと?」
「いえ、普通とかそういうんじゃなくて……樹理ちゃんとお母さんがそれぞれ1人でも幸せで、2人でも幸せでいられる関係になれたらいいなと思ってます」
「……そんなの無理に決まってるじゃん」
「いえ」

 人差し指を立ててみせる。

「この『おまかせカクテル』いつもすごくおいしいんです。その人の好みに合わせて作ってくださってるんですよね? その対応力とか観察力とか、すごいなっていつも思ってて……」
「…………」

「たぶん樹理ちゃんのことも、離れた場所から見てみたら、樹理ちゃんに合ったカクテルを作ることができると思うんです。今までは少し……近くにいすぎたんだと思います」

 近くにいすぎて、自分の所有物と思いこんで、娘の意思などお構いなしに、自分の好きにできるのが当然と思ってたんでしょ?……ということまでは指摘しないでおこう。

「……あんたさ」
 呆れたように樹理亜の母は肩をすくめると、

「変な人だねえ」
と、言って……笑った。笑ってくれた。

 少しずつ……少しずつでいいから、変わっていってくれるといい。それで、何年かかってもいいから、樹理亜と笑って一緒に過ごせる日がくるといい。
 

***


 一か月ぶりにあった山崎さんは……少し、疲れているようだった。

「山崎、疲れた顔してんなー。片付いたのか?」
 溝部さんの問いかけに、山崎さんはうーんと唸りながらうなずいた。

「まあ、なんとか……、昨日ようやく荷物の整理も落ちついたとこ」
「?」

 荷物の整理?

 女子三人と須賀さんの「?」の顔に、山崎さんが「あ」と手を振った。

「あ、すみません。気にしないでください。ただ……」
「こいつ、先週引っ越ししたんだよ。この歳でようやく一人暮らし」
「…………え」

 一人、暮らし? 
 山崎さん、ずっとお母さんと暮らしていたのに……


『ずっとお母さんと一緒にいてくれるよね』

 山崎さんが10歳の時に言われたという言葉……

『僕がお母さんのことも誠人のことも守るから』

 10歳の山崎さんが誓ったという言葉……


 先月、偶然お会いした山崎さんのお母さんは、樹理亜に向かって「親と子はそれぞれで生きていかないといけない」と言っていた。でも、たとえお母さんがそう言っても、山崎さんに打たれた杭はそう簡単には外れないだろう、と思っていた。

(だから、結婚したら同居だろうなって思ってたのに)

 お母さん、山崎さんと似て穏やかで感じの良い人だったし、同居でも大丈夫そうかな……なんて漠然と思ってたのに……

 一人暮らし?
 山崎さん、無理してない……?


「この歳でって、山崎さんっておいくつなんでしたっけ?」

 須賀さんの声に我に返る。須賀さんは溝部さんの会社の後輩なので、山崎さんとはそんなに親しくないのだ。

「だから、オレと同級生だって。41」
「あー……、2になる」

 溝部さんの言葉に、山崎さんが頬をかきながら訂正した。ん? 2になる?

「いつ?」
「明日」
「え!?明日!?」

 思わず叫んでしまい、はっと口を閉じたが遅かった……。

「知らなかったんだ……」
「彼女のくせに……」

 ぼそぼそと明日香と潤子に言われ、ぐっと詰まる。
 ええ、どうせ知りませんでしたよ。彼女のくせに……って、ホントに私、彼女なの? そこからして疑問だ。
 山崎さんも気まずそうにうつむいている。

「あー、えーと、それじゃあ」

 この微妙な雰囲気を壊したいかのように、須賀さんが手を挙げた。

「このチケット、山崎さんと菜美子さんに差し上げます。今日の午後空いてますか?」
「え」

 差し出されたのは、世界的に有名な少年合唱団のコンサートのチケット……

「一緒に行くはずだった友人が急に行けなくなったって、さっき連絡があって。潤子ちゃんはこういうのまったく興味ないから、僕一人で行こうかと思ってたんですけど」
「え」
「せっかく明日お誕生日ということなら、山崎さんと菜美子さんでご一緒にいかがですか?」
「………え、でも」
 
 潤子を振り返ると、軽く肩をすくめている。

「いいのいいの。須賀君、昨日も行ったんだよ。どんだけ?って感じでしょ?」
「だから、昨日と今日ではプログラムが違うんだって」
「だからって、結婚一週間前の彼女を置いて、土日2日とも予定入れるなんてありえないよね?」
「う……。だ、だから、このチケットは山崎さん達に譲るから……」

 潤子、目が三角になってる……。報告会では何も言ってなかったけど、実は揉めてたらしい。

「そ……そういうわけで、山崎さん、菜美子さん、どうぞ」 

 おどおどとチケットを再度差し出してくれた須賀さん……。
 山崎さんと顔を合わせる。「いいですか?」と問いたげな表情に、コクンと肯く。

「では、有り難くいただきます」
 深々と頭をさげた山崎さん。

(……デートだ)
 実は、付き合う、ということになってから、デートなんて一度もしたことがない。ちょっと嬉しい。

 ふいっと山崎さんを見ると、山崎さんも嬉しそうにチケットを眺めていて……

(………良かった)
 思わずホッとしてしまう。

 連絡を取らなくなって約1か月……。学生時代だったら、もう自然消滅とみなされ、次の恋人を探していてもおかしくない期間。
 でも、そんなことはなく、山崎さんはちゃんと待ってくれているようだ。


「んーじゃ、さっさとリハーサル終わらせようぜ!」

 溝部さんがいつものように明るく手を打った。

「それで、明日香ちゃん、オレ達も午後……」
「あ、ごめんなさい。私、午後用事があって」
「えええええ?! じゃ、昼食だけでも? ね? この近くに美味しいイタリアンが……」
「そうなんですか? それは是非、6人で行きましょうよ。ね、菜美子、潤子?」
「…………」

 溝部さんが気の毒になるくらいの明日香のかわしっぷり……

 苦笑しながら山崎さんを見ると、山崎さんもこちらをみていてくれて、目が合った途端に、ふっと目元を和らげてくれた。

(…………)

 こんな風に、自然に目があう感じが、とても幸せだと思う。



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お読みくださりありがとうございました!
またしても終わる終わる詐欺でm(__)m 予定より長くなりそうなので、ここで切ることにしました。

須賀君と潤子、ようやくまともに喋らせることができて安心しました……
須賀君は、山崎たちより5歳下。おっとりとしたお坊ちゃんで、趣味はクラシック鑑賞。
潤子ちゃんは、ツンデレ系女子。趣味はマラソン。毎朝、皇居のお堀走ってます。

こんな普通の男女の物語に、クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!おかげさまで山崎と菜美子にも幸せが訪れそうです。
もう少しだけ続きます。よろしければ、どうぞお願いいたします!

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コメント (11)
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