創作小説屋

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ベベアンの扉(17/22)

2006年11月25日 23時55分24秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 先に進んでみたけど、いつまでたっても人影は現れない。
 ずんずん進んでいったら、ロープの限界が来てしまった。しょうがないので、ロープを近くにあった木に巻き付けてから先に進む。
「緑澤くーん!」
 いつまで歩いても草原だけだ。その先に山もない。ひたすら草原だけ。動物もいない。花も咲いていない。ただひたすら、草。時々、木。
「と、思ったら、岩があった!」
 忽然とあらわれた岩に近寄ってみると・・・
「緑澤・・・君?」
 六年ぶりに見る緑澤君。元々痩せた男の子ではあったけど、眼鏡をかけていないせいかさらに輪をかけて痩せてみえる。と、いうかやつれてみえる。
 軽く揺さぶると、岩にもたれて目をつむっていた緑澤君が、ゆっくりと目を開けた。
「ああ・・・山本さん? なわけないか・・・幻覚かな・・・会いたい会いたいってずっと思ってたから、幻覚まで見えるようになっちゃったのかなあ・・・まあ、いいや。幻覚でも。すごいなあ・・・僕の幻覚。ちゃんと予想通り美人に育ってる。やっぱり僕の目に狂いはなかった。この子は将来きっと美人になるって思ったんだよねえ。中学の時はパッとしなかったけど、あと数年したらって・・・」
「・・・あの~」
 それは・・・褒められてるんだろうけど、微妙に素直に喜べない褒められ方だな。
「緑澤君? 大丈夫?」
「わあ、すごい。幻覚がしゃべった。でも予想としてはもう少し艶っぽい声になると思ったんだけどなあ。ちょっと色気が・・・」
 ムカ。
「色気がなくて悪かったわね! もういい加減に目を覚ましてよ!」
 グリグリグリと思いっきり、こめかみをげんこつで押してやったら、ようやく緑澤君の目の焦点があってきた。
「え、本物なの? 本当に本物の山本さんなの?」
「そうよ! 迎えにきたのよ!」
「え? え? 何で??」
 緑澤君は慌てたように、ポケットから眼鏡をだして装着した。たちまち中学のころと変わらない緑澤君になった。
「何でも何もないわよ。六年ぶりに会いに来たら、こんなところにいるんだもの。さ、帰ろう。お母さんも和也君も待ってるよ」
 たちまち緑澤君の表情が曇った。
「帰りたくないなあ・・・。母さんだって僕みたいな息子いなくなったほうがいいと思ってるだろうし・・・母さんには和也がいるから。和也だったら母さんの期待にそえる」
「ばっかじゃないの」
 本気で呆れた。
「緑澤君って、親の期待にそうためだけに生きてるの?」
「そういうわけじゃないけど・・・でも、あの家では居場所がなくて・・・でもここなら誰も僕を邪魔にしない。すごく居心地がいいんだよ」
「居心地がいいって・・・いったいここで何をしてるの? 一日中、こうやってボーーーーーーッとしてるの?」
「うん・・・まあ・・・そうかなあ」
 緑澤君が首をかしげながらいう。呆れた。本当に呆れた。
「ねえ、それで楽しい? それで満足?」
「うん・・・」
「ばっかじゃないの!」
 衝動にまかせて、緑澤君の頬をつねりあげた。緑澤君が驚いたようにこちらを見返す。
「目を覚ましなよ。中学の時、花火作ってみせてくれたあの緑澤君はどこにいっちゃったの? 先生にむかってエアガンぶつけて一緒に喜んだじゃないの。それも忘れちゃった?」
「・・・忘れてないよ」
 ポツリ、と緑澤君が言う。
「忘れるわけないじゃないか。山本さんと一緒に過ごしたあの時間だけが僕の支えだった。何があってもあの時のことを思い出して乗り越えてきた。でも・・・もう限界なんだよ」
「何が限界よ! 馬鹿なこと言ってないで早く・・・」
『帰らないで。ここにいて』
 あの『声』だ!

コメント
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