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創作小説屋

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(GL小説)風のゆくえには~光彩3-1

2015年03月02日 11時00分36秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
(ばかばかばかばかっ私のばかっ)

 運動会の能天気なBGMが余計に腹立だしい。

(なんであんなこと言ってしまったんだろう……)

 って、原因は分かっている。昔から自己分析は得意だ。
 今回の失言の原因は、若さへの嫉妬とあかねに対する苛立ち、だ。

 20年前は、あかねが誰にちょっかいだそうが気にならなかった。
 いや、気にならなかった、というのは語弊がある。本当は内心面白くなかったのだから。でも、「気になっていないように見せる」ことに苦はなかった。

 なぜなら、私は、あかねの一番の理解者でありたかったから。

 あかねの女癖の悪さは、母親との確執が原因だと分析している。おそらく本人は無自覚だろう。
 彼女は愛情を欲している。欲しているのに、いざ過度に愛情を受けると、愛され慣れていない彼女は逃げ出したくなってしまう。

 あかねは束縛を嫌っていた。だから『自分を追い求めない綾さん』のことをあかねは好きだったのだろう。

 私も私で、家庭環境の影響か、我慢すること・求めないこと、が身についてしまっているので、『追い求めない余裕のある年上の女性』という立ち位置は居心地が良かった。いつでも一歩引いて、溺れすぎないよう気をつけていた。

 どんな女の子でも、私にはかなわない。私だけがあかねを理解している。あかねは必ず私のところに帰ってくる。そんな妙な自信もあった。

 でも、それは私が若かった時の話。
 由衣先生の張りのある肌、艶やかな髪。当時の私にあって、今の私にはないもの。
 彼女があかねに寄り添うように座った姿を見て、自分でも驚くほどカッとなった。

「あかねっ」

 思わず叫んでしまってから、慌てて「……先生」と付け加えた。
 ああ……自己嫌悪、だ。
 もう恋人でもなんでもないくせに、何を嫉妬しているのだろう。おとなげない。

 それにそれ以前に、私たちはもう、担任と保護者という関係だ。これからどうこうできる話でもない。

 前回再会した個人面談から今日までの約1か月、あかねから何の音沙汰もなかった。あったらあったで困っただろうに、勝手に期待して、勝手に落ち込んでいた。やはり、劣化した私をみて幻滅したのだろう、と……。

 もう気持ちを切り替えようと思っていたのに、さっきのあかねの『3月に綾さんを見つけてからは、全員手を切った』というセリフ…。

 なぜ、あかねは私を惑わせる言動ばかりするのだろう。由衣先生のような若くてかわいい女の子が近くにいるくせに……と猛烈に腹が立った。そうしたら、自然と言葉が出てきてしまったのだ。

『あかねが誰と何をしようと、私には関係のない話』

 まあ、これはともかくとして……

『付き合ってたころだって、あなたは散々遊んでたものね?』

 こちらは、本当に悔やまれる失言だ。
 なぜ今さら20年も前のことを言ってしまったのだろう。やっぱり、内心面白くなかったという恨みが、20年で熟成されて出てきてしまったのか……。
 「大人で余裕の綾さん」像があかねの中で崩れてしまったに違いない。

 ああ、だから会いたくなかったのだ。
 あかねの記憶の中には、昔のまだ若くて、それでいて大人な私のままでいたかったのに……。


「綾!」
「!」

 考え事に没頭していてまわりが見えていなかった。夫に呼ばれ、驚いて飛び上がる。

「早く来てくれ。美咲がどこにいるのか分からなくて、母さんが苛立ってる」
「は、はい」

 だーかーらー、立ち位置は昨日プリントで説明したでしょ!……って言葉を飲み込み、急いで観客席にいる義母の元にいく。

「ああ、綾さん、どこ行ってたのよ!」
「すみません……」

 義母がオペラグラスを片手に目を吊り上げている。

「みんな同じ格好しているから分からないわ。えーと? 左から7列目の……?」
「前から2番目です。あ、ほら、今、立ち上がって片手をあげている……」

 一応プリントを見ようと努力していたところは買いましょう。
 義母は「分かりにくいわね……」とブツブツ言っていたが、すぐに気がつき、パッと表情を明るくした。

「あ!いたわ!まあ~~かわいいわね~~」
「…………」

 良かった良かった……。まあ、同じ衣装を着た似たような子が150人以上いるのだ。見つけるのは大変だ。
 去年はどうしてたのかしら? と不思議になる。
 私は去年の運動会は見に来ていない。義父の介護があって家を空けることができなかったのだ。
 それで後でビデオで見たのだけれど……

「健人は?」
「あっちでビデオ撮ってる」

 夫が美咲の姿を目を細めてみながら答える。

 私達、まわりからは何の問題もない仲の良い家族に見えるんだろうな、と思う。
 孫の応援に必死のおばあちゃん。愛おしそうに娘を見つめる父親。妹のためにビデオを撮る兄。
 美咲のおかげで何とか形を保っている家族。

 演技の最後、美咲は本当にど真ん中のセンターだった。ミラミッドの頂点で両手を挙げてポーズ。そしてそこから宙返りをしながら降りてきた。会場がワッと盛り上がる。美咲は小さいころからダンスを習っていて、かなり本格的に鍛えているので、この程度のことは何の苦も無くやってのけてしまうのだ。
 中央で拍手を浴びる美咲。美咲の明るさ、華やかさは、義母や夫譲りだ。私には存在しないオーラ。

「やっぱりラストはもうちょっと引きで撮ればよかったかな……」
 健人がビデオを確認しながらブツブツいっている。健人は高校・大学と映画部に所属していて、ビデオやカメラの撮影にはちょっとうるさい。

「ああ、みいちゃん可愛かったわね~良かったわ~」
 義母が満足そうにうなずいていると、夫がその横に立ち、
「じゃ……母さん、おれ、もう行くから……」
「あらそうなの?」
「うん、実は……」
 何かコソコソと話している。

(行くんだったら、健人に気づかれる前にさっさと行けってのっ)
 内心イライラしながら夫を見ていると、
「じゃあ……」
 私にも軽く手をあげてから、夫はそそくさと人ごみの中に紛れていった。
 ちょうど午前の部が終わり、昼休みに入るところだ。

「なに、あの人……こんな日まであっちに行くんだ?」
 父親が行ってしまったことにすぐに気がついた健人が呆れたように言う。すると義母がフォローするように、
「保育園の父親参観なんですって。でも、美咲を見たいから今までこっちにいたけど、これから遅刻して行くって」
「はあ?なにそれ。それで恩売ってる感じ? 意味わかんなくない?」
「健人」

 そっと健人の腕に触れると、勢いよく振り払われた。

「一番意味わかんないのはお母さんだよ。なんで……」
「おばあちゃーーーん!!!」

 びっくりするくらいの大きな声が聞こえてきて、私も健人も動きが止まってしまった。美咲だ……

「!」

 振り向いて、さらに固まった。
 美咲が、あかねの腕を引っ張ってこちらに向かってきている。

(き……気まずい……)
 もう、色々な意味で気まずい。何もかもが気まずい。

「おばあちゃーん! 美咲どうだったー?」
「可愛かったわよ~みいちゃ~ん」

 きゃあきゃあと騒ぐ二人。やっぱりこの二人、似ていると思う。

「あかね先生! うちのおばあちゃん。美人でしょっ若いでしょっ」
「はじめまして。担任の一之瀬あかねです」
 あかねがニッコリと義母に笑いかけると、義母が、まあまあ!とはしゃいだ声をあげた。

「まあ~!いつも美咲がお世話になってます~。本当に女優さんみたいな先生ね!」
「でしょでしょ?!」

 あかね、先生モード。よそいきの顔で澄ましてる。
 クルリとこちらを向くと、

「佐藤さん、先ほどはありがとうございました」
「あ……いえ……」

 わざとですか?!その落ちつきっぷり!おちょくってんの?!
 内心色々ぐるぐる回っているのを、どうにかこうにか押し込める。

「先ほどって、綾さん、何かしたの?」
「そうそう、ママすごかったんだよー! あっという間にこの服作っちゃったの!」
「え?」

 事情が飲み込めず首をかしげている義母をおいて、美咲は今度は健人の腕を引っ張ると、

「でね!先生、私のお兄ちゃん! 大学一年生! かっこいいでしょ?」
「はじめまして」
 にっこりと、女優オーラ満開であかねが微笑む。あかねは自分がどうすれば一番魅力的に見えるのか分かっている。

「はあ……どうも……」
 案の定、健人がドキマギしたように頭を下げる。

「ねえ、お兄ちゃん、写真撮って!写真! あかね先生とツーショット~」
「ああ……」
 美咲のテンションの高さに押されたまま、健人がカメラを取り出す。

 校舎を背に、あかねに肩を抱かれながらピースサインをする美咲。
 我が娘ながら、かわいい。天真爛漫という言葉がよく当てはまる。
 そして、あかねはあいかわらず、写真を撮られ慣れている笑顔。

「せっかくなので、おばあ様、お母様もご一緒に?」
「え……」

 にっこりと他意などまったくありません、という顔をしてあかねが言う。
 一緒に写真なんて……

「あら!こんなおばあちゃんが一緒でいいのかしら?」
 義母が嬉しそうにあかねの横に並んだ。

「ほら綾さんも!」
「いえ、私は……」
「ほら、早く! 先生だってお忙しいでしょうっ」
「ママ、早くー」

 二人に手招きをされ渋々美咲の横に行く。
 義母、あかね、美咲、私、と並ぶと、あかねだけが頭一つ高い。

「もうちょい寄って」
 健人に手で寄せる仕草をされ、義母と美咲がきゅっとあかねにくっついた。私も美咲と重なるように立つ。

「んじゃ、撮るよー」
「はーい」
「!」

 ざわっと背筋に電気が走った。 

(この……っ)
 チラッとあかねを見たが、素知らぬ顔をして正面を向いている。

「お母さん? いーい?」
「う、うん」

 なんとか冷静を装おうとしたが、絶対顔が赤くなっていると思う。
 背中から腰にかけて、すうっと手の甲がすべり落ちてきた。そして細い指が腰のあたりをいやらしくなぞっている。
 知ってる。この指を知っている。何度も何度も愛撫してくれた指。私が一番感じるところに触れることのできる指。

(あーかーねーっ)

 なんなのよーーー!!

 写真を撮り終わり、「先生にもあげるからねっ」とはしゃいで言う美咲に、「よろしくね」と何事もなかったかのようにニコニコしているあかね。そして、「午後も頑張ろうね」と、先生らしく言うと、

「それじゃ、おばあ様、お母様、お兄さん、午後も応援よろしくお願いします」
 完璧な先生スマイルで会釈をし、校舎の中に向かって歩きかけた。が、ふと、思いついたように振り返った。

「佐藤さん、先ほどの件なんですけど……」
「…………」
 睨み気味に見上げると、あかねは、おそろしく嬉しそうににーーーーーっこりと笑い、

「決めました。私」
「はい?」
 この顔………見たことある。これは、オーディション前の戦闘モードのあかねの顔。
 あかねはすっと身をかがめると、私の耳元に顔を寄せた。

「…………あなたをもう一度手に入れる」
「?!」
 はっとふり仰ぐと、あかねは指を一本立てて口元にあて、極上の笑みを浮かべ、

「なーんて、ね」
「………………………」
 そして鼻歌まじりに行ってしまった。

 ……冗談? 何? なんなの?!

「マーマー、お弁当食べようよー」
 美咲の声が聞こえてくる。私の頭の中はパンク寸前だ。



--------------------------------------------------



うーん。あかねを制御できなくなってきた私。
最後のとこ絶対、綾さんに睨まれてゾクゾクしてんだろーなー。Mですな。

ということで。続きは明々後日。5日(木)に。
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(GL小説)風のゆくえには~光彩2-2

2015年02月26日 11時28分37秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 裁縫をしている綾さんの姿を見ているのが好きだった。
 手縫いでもミシン掛けでも、一心不乱・戦闘状態の綾さん……めちゃめちゃそそられる。

 たいてい我慢できなくて、後ろから抱きついたり、その手にキスしようとしたりして、
「…………刺すよ?」
と、本気で射しそうな目で睨まれるのがオチなんだけど、その中でもたまーに、本当にたまに応じてくれることがあって、そんな時は、そりゃもう激しい………


「先生! ママ連れてきたよ!」
「!」

 妄想中のご本人登場で、ハッと我に返る。いかんいかん。ここは学校。
 記憶の中の綾さんよりさらに艶やかになった綾さんが、娘さんの美咲と一緒に家庭科室に入ってきた。

「すみません、この2着を使って1着作っていただきたく……見本はこれです」
 多くは語らず、現物を見せると、頭の良い綾さんは一つ肯き、

「何分ありますか?」
「!」

 うわあああっ。ぞくぞくぞくっと来た。
 綾さん、戦闘モード! きたーーー!!

「17分……いえ、移動を考えると15分」
「わかりました。はさみください」
「は、はいっ」

 慌てて裁ちばさみを渡す。

「あのぉ、ミシン糸通し終わりましたぁ」

 家庭科の由衣先生がか細い声で言う。
 さっき、私が「家庭科室開けて!」と頼んだら「私、無理!直せません!」と半泣きになった由衣先生。まだ先生になって2年目の23歳。そういう女の子女の子したところ嫌いじゃない。というか、けっこう好き。というか、かなりタイプ。

 私は子供の頃からこういうフワフワした女の子が大好きだった。(唯一恋をした綾さんはまったくタイプが違うのだから不思議)

 で、昨年の歓送迎会の帰り、酔った勢いで思わず手を出してしまい……。職場恋愛は面倒だから、こっちは一晩限りと思ったのに、由衣先生の方はそうではなかったようで、その後もゴチャゴチャしていて、今も油断するとモーションかけられる。……という、いわくつきの同僚。

 でも、こうして、綾さんと由衣先生が並ぶと、私なんで由衣先生に手出しちゃったんだっけ?ハテナ?となる。やっぱり綾さんには誰もかなわない。
 昔からそうだった。綾さんと付き合っていたころも、ちょいちょいつまみ食いしていたけれど、綾さんに会うと、その女の子達が全部色褪せてしまって、綾さんの魅力を再認識させられていたのだった。
 じゃあ、綾さん一筋でいればいいじゃんってツッコミたいところだけど、それはまあクセというかなんというか………

「こっちから首元の花を5つ取っておいてください」
「は、はい」

 もう、裁断が終わっている。ミシンに移動しながら、綾さんがこちらに布を投げよこす。

 本当に、魔法の手だ。よどみなく、迷いもなく、2つの壊れたドレスから、1つの新たなドレスができようとしている。

 
(ああ……)

 うずうずする。あの手にしゃぶりつきたい。あの白いうなじに印をつけてやりたい。

(いかんいかん……)
 邪念を追い払い、由衣先生と協力して花を取り始める。

(………おっと)
 由衣先生がさりげなく膝を寄せてこようとするのを、すいっとやり過ごす。
 もう、由衣先生と関係を持つ気はない。
 と、いうか、3月に綾さんを発見してからは、誰とも寝てない。すごくない?私!

「あかねっ……先生」
「は、はい!」

 綾さんに呼ばれて、ドキッとして慌てて立ち上がる。
 いやいや、やましいことはないっ。私は何もしてないっ。

「な、なに?!」
「黄色い糸、針に通しておいてください」

 綾さんは一瞬だけ視線をこちらに向けたが、すぐに手元に戻した。もう仕上げに入るようだ。

「………由衣先生」
「はぁーい」

 由衣先生が裁縫箱から黄色の糸をだしている。
 思えば、あの当時の綾さんよりも今の由衣先生の方が年上だ。でも当時の綾さんの方が断然大人っぽい。色っぽい。そして今、年齢を重ねてさらに色っぽくなっている。

「花、5つ、取りました」
「ありがとうございます」

 ミシンの前から綾さんが戻ってきた。もうワンピースができている。片方の後ろ身ごろを前身ごろに作り直し、合体させたらしい。すごい。見本と全く変わらない。あとは首元に花をつけるだけだ。

「ママ………すごい」
 あっけにとられていた美咲がつぶやいた。鈴子もその横でお祈りのポーズをして肯いている。
 菜々美とさくらは先に会場に戻らせてある。万が一時間までに美咲と鈴子が戻ってこなかったら、他の先生に知らせてほしい、と頼んであるが、それも必要なさそうだ。
 子供たちが苦労してつけていた花を、綾さんはいとも簡単につけ終えてしまった。
 これで出来上がり。綾さんが家庭科室にきてから8分しかたっていない。

「はい。これでどうでしょう?」
「か………完璧です!!」

 抱きつきたい気持ちをぐっとこらえてワンピースを受け取ると、
「はい、美咲さん」
 パサッと美咲に着せてやる。ピッタリだ。

「うん。かわいいかわいい。花の精みたい」
「ホントに?!」
 嬉しそうに美咲が声を弾ませる。

「で、こっちは鈴子さんね」
 見本のワンピースを鈴子に着させる。
「よし。こちらもオッケー! かわいい!」

 よかった。これで無事に二人とも参加できる。

「じゃ、二人とも、急いで行って!」 
「はーい」

 キャッキャッとはしゃぎながら二人が走っていく。
 やれやれだ。ホッと一息つく。

「じゃ、由衣先生、申し訳ないんですけど、片付けと戸締りお願いしていいでしょうか? 2年生の演目に間に合わなくなってしまうので……」
「はーい。わかりましたー」

 つまらなそうな由衣先生。いやいや、構っていられません。
 綾さんを促し、早々に家庭科室を出る。

 誰もいない廊下。聞こえてくる歓声。

「綾さん……昔よりもさらにスピード上がってるよね? 今も何かやってるの?」
「やってるというか……」

 綾さんは肯くと、

「古着のリメイクのボランティアをしてるの」
「なるほど……」
 通りで洋服を崩すのも手馴れていたわけだ。

 階段の踊り場にきたところで、綾さんが急に立ち止まった。

「あの、一之瀬先生」
「はい?」

 口調があらたまっている。綾さんは心配そうな顔をしてこちらを見上げた。

「美咲はイジメられてるんでしょうか? あんな風に衣装を切られてしまうなんて……」
「あ……いや……」

 おそらく、ターゲットは鈴子一人。見本の一着を美咲が着るよう仕組むために、美咲の衣装も切ったのだろう、という推測を話すと、

「そんな……」
 綾さんは両手でこめかみのあたりをおさえてうつむいた。

「美咲が首謀者なんでしょうか……?」
「たぶん違うと思います。美咲さんはのせられてしまっているというか……」
「そう…………」

 大きくため息をつく綾さん。すっかりお母さんなんだなあ……。

「『自分の大切な人に胸を張って言える行動かどうか考えなさい』」
「え?」

 聞き覚えのあるセリフ。私が子供たちにいった言葉だ。
 綾さんが独り言のようにつぶやく。

「その言葉、美咲の心に響いていたようだったのに……」
「それは……」

 難しいところなのだ。

「例えば……こう言われたらどうでしょう? 『鈴子ちゃんはダンスが下手。あの子がいると迷惑。だから出ないほうがみんなのため。でも、出ないでなんていえない。だったら衣装が壊れたことにしてしまえば誰も傷つかない。鈴子ちゃんだって恥をかかずにすんで感謝するに違いない』」
「そんな……」

 おそらく、彼女たちの中ではそういう話になっているのだろうと容易に想像がつく。

「中学生の正義なんてそんなものです。だから今後、美咲さんに矛先がむくかもしれない……」
「え?」

 綾さんが眉を寄せた。
 そうなのだ。私が考えなしだった。
 途中で気がついたのだが、時間がなくて気がつかなかったフリをしてしまった。

「もしそうなってしまったら、本当に申し訳ないです」
 深々と頭を下げる。
「全力で美咲さんのことは守りますので……」

「え、ちょっと、待ってください。美咲に矛先がむくって?」
「今回の計画、美咲さんのお母さんのせいで失敗に終わったってことになりますから……」
「ああ……そういうこと」

 綾さんが軽く首を振った。

「それはしょうがないです。鈴子ちゃんがダンスに参加できなくなる方が、大人になって思い出したときに必ず後悔するに違いないし」
「…………」
「そんな後悔をするくらいなら、矛先向けられた方がマシです。それにあの子、そんな矛先へし折るくらいの強さはあるから」
「…………」

 綾さんの意思の強い目。本当に変わっていない。
 ああ、今すぐ抱きしめたい……。

「あ、前の競技終わったみたいですね。音楽が退場の……」
「……綾さん」

 我慢できなくて、踊り場の小さな窓から外をのぞいた綾さんを、後ろからそっと抱きしめた。
 ああ、しっくりとくるこの感触……。幸せ……。

 抵抗するかと思いきや、綾さんはジッと立ち尽くしていたが……

「由衣先生が今の彼女?」
「え?!」

 いきなりとんでもないことを言われて、パッと手を離す。

「な、なんでっ」
「あかね、好きでしょ?ああいう子。昔っからそうよね」

 ここここ怖いっ。

「いやいや、由衣先生とは前にちょっとその……、でも、今は何もっ」
「彼女のほうはそうでもなさそうだったけどね」
「…………」

 さ、さっきの、やっぱり見られてたんだっ。

「いやいや、本当に彼女とはもうなんでもなくてっ。ていうか、3月に綾さんを見つけてからは、全員手を切って、本当に、今は誰とも何も……っ」
「どうして?」
「!」

 綾さんの目。……何? どうしてこんなに、冷たい……。

「……綾さん?」
「あかねが誰と何をしようと、私には関係のない話よ? 私達、もう付き合ってるわけでもないんだし」
「…………」
「それに」

 綾さん、怖いくらいの無表情……。

「付き合ってたころだって、あなたは散々遊んでたものね? それなのに、今さらそんな……」
「綾さん……」
「………………」

 ふいっと綾さんは背を向け、階段を降りていってしまった。
 残された私は、二年生のダンスの音楽がかかるまで、その場に立ちすくんでいた。



--------------------------------------------



とりあえず、あかね視点終了。
次回から再び綾さん視点。

また来週、3月2日(月)に更新しまーす。

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(GL小説)風のゆくえには~光彩2-1

2015年02月23日 12時23分23秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 綾さんと初めて話したのは、私が大学一年生、綾さんが大学三年生の11月。

 綾さんと私は同じ演劇サークルに所属していたけれど、私は役者チームで、綾さんは衣装チームだったし、学校も学年も違ったのであまり接点がなく、それまでは挨拶しかしたことがなかった。
 だからあの日までは、小柄で、銀縁の眼鏡をかけた真面目そうで大人しそうな先輩、という印象を持っていただけだった。

 それがあの日、一気に覆された。

 定期公演の本番。
 私の役柄は『氷の姫』。出番はそんなに多くないが、印象的な役だった。
 主人公の女の子の脳内に存在する、彼女のネガティブな考えの化身。恋愛に臆病で男嫌い。だけど最後に氷は溶けていく。

 衣装は白のタイトドレスに、白の大きなショールを身にまとったもの。長身の私に良く似合っていた。
 まわりからもハマり役だと絶賛され、すっかりあだ名も『姫』に定着してしまった。

 終演近く。あと数分で、私の最後の出番。
 舞台袖で軽く身をほぐしながら出番を待っていた時のことだった。

「…………え?」
 濁点付きの「え」で叫んでしまった。
 ビリッという不吉な音が、自分の後ろから聞こえてきたのだ。

「うそ………」
 備え付けの鏡に写してみたら……お尻のあたりが……思いきり破れている。そんなに激しく体を動かしたつもりはなかったのだけれど、負荷がかかってしまったらしい……。 

「やだっ姫っ破れてる!!」
 舞台進行の愛美ちゃんが真っ青な顔をして小さく叫んだ。

「目立つ?」
「目立つというか……かなりいっちゃってるよ。破れてること分かるよこれ絶対」
「んー、ショールで隠れない?」
「この状態なら、隠れてる。でも、ショールを上にあげたら見えちゃうよ」
「んー、じゃ、あげないようにするか。もう出番だもんね。直す時間ないし…。監督今下手にいる?」

 二人でボソボソと話していたところに、

「姫の出番まであと何分?」
 鋭い、冷静な声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、衣装チームの3年の先輩……国中綾さんが無表情に立っていた。

「あと……5分、くらいです」
 愛美ちゃんがストップウォッチと台本を見比べながら答えると、綾さんは、ニコリともせずに私を見上げて言った。

「じゃあ、脱いで」
「は?!」
「早く」
「こ、ここで?!」
「………………」

 これ以上なんか言ったらぶっ殺すぞお前、って目をした綾さん。こ、こわい……。

 おとなしくドレスを脱ぎ、すでに糸を通した針を持っていた綾さんに渡す。
 それからは、本当に魔法のようだった。
 ものすごい早さで布を縫い合わせていく綾さんの手。ひたすら手元を見ている真剣な眼差し。戦っているかのようだ。オーラがほとばしっている。
 薄暗い舞台裏で、彼女のいる場所にだけ光彩が放たれている。

 すごい……綺麗……

 見とれてしまった。大人しい印象しかなかった綾さん。実はこんなに美しいオーラを持った人だったなんて。
 ドクンドクンと鼓動が高鳴ってくる。
 なんて、なんて、綺麗な人なんだろう……

「あと、2分……です」
 おどおどと愛美ちゃんが言いにきたのと、綾さんが糸を切って、立ち上がったのはちょうど同時だった。

「着て」
「は、はい……」

 羽織っていたショールを取り、急いでドレスを着ると、綾さんがファスナーをあげてくれた。そして背中越しに言われた。

「もう大丈夫だから、最後、ショールをもつところ、練習通りにやって」
「………はい」
「あのね、私たちは客席から効果的に見えるようにデザインを考えて衣装を作っているの。簡単にショールをあげなければいい、なんて言わないで」
「…………っ」

 頭を殴られたような衝撃を受けた。
 そうだ。私はなんて傲慢なことを………。舞台は役者だけでは成り立たない。監督、衣装、大道具、小道具、照明、音響……表に立たない人たちの支えのおかげで役者は安心して舞台に立てているのだ。

「あの、すみません、私……っ」
「ああ、ごめんなさい。本番前に」
「!」
 ドキリとする。さっきまでの殺し屋のような視線はどこへやら、綾さんはふんわりとした笑顔で微笑むと、背伸びしてショールをかけてくれた。

「私、姫の最後のシーン大好きなの。光が効果的にショールにあたって、想像以上に舞台映えしてる。この衣装を作って良かったって誇りに思える。ありがとうね、姫。あなたが着てくれるおかげよ」
「綾さん……」
 綾さん、こんな優しい笑顔もできる人なんだ……。鼓動がさらに早くなる。

「姫、出番くるよ!」
 愛美ちゃんの泣きそうな声に、軽く手をあげてから、再び綾さんに振り返る。

「綾さん、ありがと」
「頑張って」
「はい」

 そして…………

 どーーーーしても、我慢できなかった。衝動に負けてしまった。
 すばやく、綾さんの小さな唇に顔を寄せる。

「ちょ?!」
「ごちそうさまですっ」

 真っ赤になった綾さんに手を合わせると、舞台に向かって走っていく。

『ああ、私はなんて幸せなの! あなたに出会えた! これが恋なのね!』
 心をこめて、舞台で叫ぶ。 
 セリフ通り、まさに今、恋がはじまった私を、スポットライトが照らし出す。

(綾さんの唇、柔らかかったなあ……)
 気を抜くとふやけてしまいそうな顔を引き締め、歌いだす。

(綾さん、あなたのためだけに、今このシーンを演じるよ)
 白いショールを大きく広げ、私は舞台を舞った。


***


 今日は運動会。6月第2土曜日は晴天に恵まれ、気温も30℃近くまで上がり、子供たちの声もいつも以上に明るく響いている。

「先生ーーー!大変大変大変ーーー!!大事件ーーー!!」

 佐藤美咲がいつものようにワーワーと騒ぎながら走ってきた。
 あの冷静沈着な綾さんの娘とは思えない、いつでもテンション高めのにぎやかな子だ。

「はいはい、どうしたの?」

 放送ブースにいた私は、近くの先生にあとをお願いすると、美咲の方へ向き直った。

 瞬間、嫌な予感がした。
 美咲と仲良しの菜々美、さくらと一緒に、白井鈴子がいる。
 鈴子は派手目なこの3人とはタイプが違い、地味目で大人しい女の子だ。それなのに出席番号が近かったせいか、二年生になってすぐに美咲たちと仲が良くなった。でも案の定、メンバー内で浮いてきてしまった。すこし天然ぽいところのある子なので、美咲たちのようなチャキチャキとしたタイプの子をイラつかせてしまうのだろう。次第にイジメともとれる言動も見られたため、かなり注意して監視するようにしていた。
 私はクラス全員と仲良くなる必要はどこにもないと思っている。合う人間合わない人間がいるのだから、自分が一緒にいて居心地の良い子達と仲良くすればいい。鈴子には鈴子とあう友達がいるはずなのだ。
 早々に席替えをして、鈴子と合いそうな子を近くの席にしてみたり、色々試してみて、ようやく最近、美咲たちと離れたように見えたのに……。

「これ見て! 私と鈴子ちゃんのダンスの衣装……」
「!! ちょっ、これ……なんで……」

 声を失ってしまった。美咲が持ってきたのは、2年生全員によるダンスの衣装。家庭科の授業でそれぞれ自分たちで作った、白地のひらひらとした短い丈のワンピース。黄色い花の飾りが首元と裾にちりばめられている。
 そのワンピースのお腹のあたりが………ぽっかりと切り取られてしまっているのだ。

「どういうこと………」
「わかんない。次の次の番だからみんな着替えはじめたんだけど、私と鈴子ちゃんのだけこんなになっちゃってて。どうしよう、先生」
「…………………」

 誰がこんなこと……、いや、犯人捜しは後だ。それよりもこの場をどう乗り切るかだ。
 今、ダンスの前の前の種目の真っ最中。ということは、あと25分くらいしか時間がない。

「先生、確か、見本が一着あったよね?」
 菜々美が言う。

「とりあえず、美咲はそれ着ればいいんじゃない?」
「…………」
「だって、美咲、最後センターじゃん。センターが穴空いた衣装着るわけにはいかないでしょ?」
「………」

 ああ、なるほど。そういうことね。鈴子の衣装をダメにしたところで、見本の衣装がある。美咲の衣装も一緒にダメにすれば、見本の衣装はセンターの美咲に回る。そうすれば鈴子だけが衣装を着られなくなる……ってことね。

「………」

 くっそー、こいつら全員体操着で出してやろうか!

 ………いやいやいや、冷静に冷静に。何の証拠もない。憶測の話だ。
 とにかくこの場を乗り切らなくては………。

「先生、私でなくていいよ~。美咲ちゃんが見本の着て……」
「ダメ」

 鈴子ののんびりした申し出を強く遮る。

「みんなで一生懸命練習してきたんじゃない。みんなで出ないと意味がない!」
「先生……」
「せっかく今まで積み上げてきたものをこんな風に……」

 こみあげてくるいらだちを拳にためながら、穴の開いた衣装を見つめる。
 見本が一着。真ん中に穴の開いた衣装が二着。
 穴の開いた衣装が二着。二着………。二着?

「そうだ!!」
 思わず叫ぶと、美咲達がビクッと飛び上がった。

「な、なに、先生……」
「美咲さん、お母さん連れてきて! さっき本部左手の観客席で見かけた!」
「…………へ?」

 きょとんとした美咲の肩に手を置き、いいから早く!お母さんを連れて家庭科室に行って!と押し出す。

 破れた衣装が2着。綾さんの魔法の手があれば………綾さんなら………!


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あかねと綾さんのなれそめ話を書けて嬉しかったです。
舞台が始まる前や最中の舞台袖の雰囲気が好き。

運動会も裏方仕事が好き。
あかね先生、ジャージ似合いそう。

あかね先生、運動会の人ごみの中、綾さんがいるところをちゃんとチェックしていたあたりいじらしい。

話続きなので、あまり間を空けず、26日木に更新しまーす。
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(GL小説)風のゆくえには~光彩1-3

2015年02月16日 12時16分16秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 あかねとそういう関係になったのは、私が大学3年、あかねが大学1年の冬のことだった。

「私なんかのどこが好きなの?」

 そう聞いた私に「なんかっていうのはおかしいでしょ」と口をとがらせてから、あかねは言った。

「全部」

 却下。具体的に。

 言うと、あかねはふっと笑って、私の手を取り、指先に軽くキスをした。

「まず、手。なんでもできちゃう魔法の手。お料理もお裁縫も綾さんの手にかかると魔法みたい」
「…………」
「それから目」
「目って……」

 誰もが羨ましがる完璧な形の目をした人に言われたくない。

 言うと、あかねは「わかってないな~」と言いながら私の眼鏡を取り上げ、素早く瞼にキスをした。

「綾さんの目。とっても魅力的」
「どこが?」
「世の中全部気に食わない。お前ら全員ぶっ殺してやる。……って光を帯びる時あるでしょ? そこがすっごく好き」
「……………なにそれ」

 変なの。
 でも………ちょっと気に入った。その理由。

「あと、唇。こんな小さくて可愛い口してて、すっごい毒舌なときあるでしょ? そこが好き」
「あかねって………」

 マゾなの?

 言うと、あかねは、うふふ、と笑って、私の頬に優しく自分の頬をすり寄せた。

「大好き。綾さん。大好きだよ」
「…………」

 あかね……あかね。

 私もあなたが大好きよ。

 でも、言わない。絶対に言わない。言ったらあなたは…………。



「綾さん!」

 鋭い声にビクッと体を震わせる。あかねが呼んでくれる『綾さん』と同じ4文字なのに、まったく違う単語のようだ。

「早くお紅茶入れてちょうだい。なにボーっとしてるの」
「………すみません。お義母さん」

 うるせえババア自分では何もしないくせにっ………って言葉を飲み込み、キッチンに下がる。

「わあ、ここのケーキおいしいよね。おばあちゃんありがと~」
 調子の良い美咲の声が聞こえてくる。美咲と義母は仲が良い。

「ねえ、今日の個人面談、ママが行ったのね。美咲、おばあちゃんに行ってほしかったな~」
「ごめんね、みいちゃん。どうしても外せないお仕事があったのよ」
「じゃあ来月の運動会は絶対来てね。あかね先生紹介するから!」

 美咲の声がはしゃいでいる。美咲はあかねの『大ファン』らしい。

「おばあちゃんも絶対あかね先生のファンになるよ! 女優さんみたいに綺麗でかっこいいんだから。ねえ、ママ、綺麗だったでしょう?」
「………そうね。綺麗な方ね」

 紅茶を出しながら答える。そう。あかねは綺麗よ。今も昔も。なんて言えないけど。

「おいくつなの?」
「39、だって。でね、背もすっごく高いんだよ!」

 8月で40歳。身長は174cm。と心の中でツッコミをいれてみる。

「ご結婚は?」
「してないよ! だって、去年、あかね先生のクラスだった先輩がいってたんだけどね!」

 美咲の目がキラキラしている。

「大学の時に好きだった人のことが忘れられなくて、それで結婚してないんだって。もう20年だよ! 20年も一人の人のこと好きなんて一途でしょ~素敵でしょ~」
「……っ」

 動揺してケーキを落としそうになったけれど、なんとか持ちこたえた。

 20年? あれ?19年だと思ったけど……ああ、そうか、別れてから19年、付き合ってたのは1年3ヶ月くらいだから20年ってことか………

 …………………。

 なんて冷静に計算してる場合じゃなくて。

『いつでも私のところに帰ってきて』

 19年前に言ってくれたあかね。
 今日抱きしめられた感触を思い出す。キスされた指先が熱くなる。

 記憶のあかねに浸りそうになったところを、義母の声で引き戻された。

「それで? 個人面談では何て? 成績はどう?」
「はい……成績は何も問題ないそうです。委員会活動なども頑張っていると褒めていただきました」
「へへー」

 得意そうな顔の美咲。この子がイジメなんて……

「ただ、昨今、子供たちの間でネット上でのトラブルが多いので、携帯電話の使い方を……」
「ああ、ライン、とかそういうのね? 大丈夫? みいちゃん。ネットイジメとかされてない?」
「されてないよ! みんな仲良しだもん!」

 悪びれることもなく、よどみもなく美咲が答える。
 自覚がないイジメ……というやつなんだろうか。

 あかねからは、対象になっている子を美咲のいるグループから引き離す対応をしつつ、注意喚起を続けています。ご家庭でも機会をみてそういう話を……と言われたが……

「あのね」
 美咲がピッと一本指を立てた。

「あかね先生が言ってたの。『自分の大切な人に胸を張って言える行動かどうか考えなさい』って」
「…………」
「なんかね、みんなすごい納得しちゃったんだよ。ほら、大人はさ、相手の気持ちになって、とかよくいうじゃない? でも相手の気持ちなんか分かんないじゃん。でも、好きな人に言えるかどうか、だったら分かる」

「あら、みいちゃん、好きな人いるの?」
 義母がびっくりしたように言うと、美咲はまた、へへへーと笑って、
「今はあかね先生に夢中!あかね先生かっこいいんだもーん」
「それなら良かった。変な男に引っかかったのかと思って焦っちゃったわ」
「……」

 なんだか色々な意味でフクザツ……。
 でも、あかねの話が心に響いているのなら良かった。
 美咲は中学二年生にしては精神的に幼い。もしかしたら、悪気なく相手を傷つけるような言葉を言っているのかもしれない。注意していかないと……。

「あ! お兄ちゃん! ケーキあるよー」
「いらない」

 息子の健人が携帯をいじりながら入ってきた。お前の手は携帯か?と疑いたくなるほど、手と携帯が常に一体化している。
 今年大学に入学したばかりの健人は、数年前から必要なこと以外の会話を拒むようになった。難しい年頃だから、と見守ってきたが、いい加減そろそろまともに話くらいしてほしい。唯一美咲とは仲が良いので、健人に関しては何かあると美咲頼りになってしまっている。

「せっかくおいしいケーキなのにもったいなーい。美咲食べちゃうよー?」
「ダメよ、みいちゃん。それじゃ、健ちゃんはお父さんと一緒に明日食べたら?」
「は……」

 義母の言葉をきいて、健人が鼻で笑った。ぎくりとするほど冷たい笑い。

「あいつ今日はあっちの家の日だもんな? 律儀に一日おきに帰ってこないで、一生あっちにいってりゃいいのに」
「健ちゃん、みいちゃんの前で……」
「本当のことだろ」
「健人」

 さすがにたしなめると、健人がこちらを振り返った。

「お母さんもよく平気だよな? じいちゃんだって死んだんだし、もう離婚して……」
「健人」

 義母の目が気になって、話を遮ると、

「離婚なんて無理に決まってるじゃなーい」
 明るくケロリと美咲が言った。

「だってママ、ずーーーっと専業主婦だったんだよ? 働いたことない人がどうやって食べていくの?」
「あはははは、それはそうね」
「!」

 義母の高らな笑いに怒りを覚えたがどうにか押し込める。
 こっちの気持ちも事情も知らないで、美咲が明るく続ける。

「美咲はねーおばあちゃんやあかね先生みたいに自立したカッコいい女になるの!」
「じゃあ、お勉強もっと頑張らないとね」
「えー頑張ってるもーん」

 美咲と義母がケーキを頬張りながら笑っている。……紅茶のお替りを用意しなくては。

「健人、紅茶飲む?」
「…………」

 息子はこちらを一瞥すると、冷蔵庫からペットボトルを取り出しまた二階に上がって行ってしまった。
 あの目……。軽蔑?侮蔑? いつからあの子は私のことをあんな目で見るようになってしまったのだろう。

 ため息を押し殺して、紅茶のポットに手を伸ばす。

『綾さんの手は本当に魔法の手だね』
 ふいにあかねの声が脳内に響く。

『同じ珈琲でも、綾さんが淹れてくれたほうが断然おいしい』
 あかねの漆黒の瞳。心地の良い声。温かい手。涙が出そうだ。

「綾さん、お紅茶」
「……はい」

 義母の声に反射的に返事をする。

 あかね……。私は……私は、『自分の大切な人に胸を張って言える行動』なんて、ずっとできていないわ。




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このくらいで。
綾さん視点とりあえずいったん終わり。
次から、あかね視点。

前半の綾さんとあかねのやり取り……

あかね遊び人だなー口説き慣れてるなー

……って思いません?

また来週。
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(GL小説)風のゆくえには~光彩1-2

2015年02月09日 12時29分29秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 先に我に返ったのは私の方だった。

「ねえ、ここ教室! 次の人が入ってきたりしたら……」
「ああ……大丈夫。綾さん一番最後だから。個人面談の順番決めたの私よ?」
「…………。ちょっと待って」

 なんとかあかねの強い腕から抜け出る。

「知ってたの? 私が美咲の母親だって」
「知ってたよ。だから美咲さんの担任になったんだもん」
「………え?」

 見上げようとして、やめた。真正面から顔をみられる自信がない。

「それどういう………」
「まず、二年生の担任になる希望出してそれが受理されたのね。そのあと5クラスのうちのどのクラスの担任になるかは先生たちで決めるから、それもうまいこと手を回して、無事に美咲さんのいるクラスをゲットいたしました♪」

 語尾に音符マークがついている。

「いつから………知ってたの?」
「2か月前」

 手振りで椅子をすすめられ、ストンと座る。その横にあかねも座る。
 2か月まえということは………。

「3月の演劇部の公演、見にきてくれてたでしょ?」
「うん……」
「で、最後の顧問の挨拶の時にステージに立ったでしょ?私」
「うん。でも………」

 あんな大人数の中から私を見つけたというの?

「すぐにわかったよ。綾さんの姿見たとき、心臓止まるかと思った」
「あかね……」

 それは私も同じよ?

「それでね、隣に座ってる制服着た女の子が娘さんだろうと思って、学校戻ってから速攻で集合写真チェックしたの」
 あかね。あいかわらずの整った顔。今年40歳になるとは思えない。

「あんな遠くからよく見えたわね……」
「私、視力2.0あるから」
 あかねは得意げに笑った。

「それにしたって、よく分かったわよね。私のこと……」
「分かるよ~。綾さん、全然変わってないもん」

 どこがよ。あなたとは違って、すっかりおばさんになってるっていうのに。

「……変わったわよ」
「変わってないよ。あ、眼鏡は変わったね。前の銀縁も良かったけど、今の縁無しも似合ってる……」
「そういう問題じゃなくて」
 
 思わず手で制すると、あかねはふわりと笑って、

「綾さん。私は綾さんがどこにいても、どんな姿になっても見つけられる自信あるよ?」
「………」

 すっと手を握られた。あかねの温かい手。

「……っ」
 とっさに払いのけてしまった。
 19年前は、白くて滑らかだった私の手。よくあかねが指先にキスしてくれた。
 今の節ばった私の手……見られたくない。

 ビックリしたような顔をしたあかね。
「ごめん。人妻に手出しちゃまずいね」
 おどけたように両手をあげた。でもショックを受けていることが伝わってくる。

「……ごめん。そうじゃなくて……」
 いや、そうなのか。というか……

「そういうあかねだって、人妻、でしょ?」
「私? 違うよ」

 ケロリとあかねが言う。

「え? だって、名字が……」
「ああ、母が離婚したから、母の旧姓に戻っただけだよ」
「え?」

 確かお母さんはあかねが中学の時に再婚したと言っていた。それがまた離婚したということ?

「今さら変えるの面倒だから、木村の名前で分籍しようかと思ったんだけど、母がどうしても自分の籍に入れって言ってね」
「そうなんだ……」
「私、結婚もしてないのに3回も名字変わってるんだよね~。はじめは篠原で、小学校あがるときに一之瀬になって、中学あがってから木村、それで大学卒業してからまた一之瀬」
「……」
「木村は画数少ないから気に入ってたんだけどね」

 あかねはなんでもないことのように言うが、ここまで来るのには波乱があっただろう。
 あかねはニコニコと言う。

「私が男と結婚なんてするわけないじゃなーい」
「そう……なの?」
「気にしてくれてたの? 綾さん。嬉しいな」
「…………」
 口調まであいかわらずだ。19年前にタイムスリップしたよう。何も変わっていない。

 ふっと息をつく。ようやく少し落ち着いてきた。

「あかねが教職課程取ってたのは知ってたけど、本当に先生になるなんて思いもしなかった。演劇の道にいくのかと思ってた」
「んー……母の離婚が決まって、安定した職につかないとって思ったところもあるんだけど、もう表舞台はいいかなーと思って」
「……」

 お母さんとは確執があったのに……。
 19年。19年で色々なことがあったのだろう。

「でもやっぱり先生になって正解。こうして綾さんと繋がりを持つことができた」
「…………」

 どこまで本気なのか分からない。

「でも、こんな偶然……」
「偶然じゃないよ?」

 あかねはニッコリと言う。

「5年くらい前かな……綾さんが日本に帰ってきてるって噂聞いたの。その時すぐに探して会いに行きたかったけど、追い返されたりしたら悲しいから、我慢我慢。と思って、綾さんと確実に繋がりを持てる方法を考えたの」
「え……」
「で、たぶん娘さんを母校に入学させるんじゃないかな? と思って、この学校にきたってわけです」
「え……」

 この学校に、きた……?

「ここ名門だもんね。母と子、どころか、おばあちゃんから3代続いてこの女子校って子も多いでしょ?」
「そうだけど……、でも……」
「私、演劇部の顧問としては結構有名なのよ? 前の学校でもその前の学校でも全国大会に行かせてるし。その実績をこの学校へのアピール材料に使って、一昨年、無事にこちらで採用していただきました。娘さんの在学中に間に合って良かった」

 ピースサインをするあかね。

「え……じゃ、本当に私のために……?」
「うん。もちろん。まあ、万が一、娘さんが入学してこなかったとしても、綾さんの卒アルとか見られたから、それだけでもこの学校にきた甲斐はあったけどね。中学生の綾さん可愛かった~」
「そんな……」

 呆気にとられてしまう。

「なんでそこまで……」
「なんで?」

 あかねが首をかしげる。

「なんでって決まってるじゃない?」
「え?」
「20年たったら確かめに行くっていったでしょ?私」
「………っ」

 うそ…………

「あ、ごめん。まだ19年だった。あと一年待たなくちゃいけなかったか………」
「ちょ、ちょっと待って。そういう問題じゃなくて、本当に、そんな……」

 確かに、別れる時に、あかねは言った。

 住む場所も変えない。電話番号も変えない。いつでも私のところに帰ってきて。
 それでも帰ってこなかったら、私の方から会いに行く。
 20年後、綾さんが幸せかどうか、確かめに行く。

「会いにきたよ。綾さん」
「あかね……」

 すっと手を取られる。今度は強く握られ離せない。

「綾さん……」
 あかねの漆黒の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。

「今、幸せ?」
「…………」
 即答でうなずけない私……。あかねに気づかれてしまう……。

 
 うつむいていたら、昔と同じように軽く指先にキスされ、パッと離された。

「じゃ、佐藤さん。個人面談、はじめましょうか?」
「…………」

 あかねが机を挟んだ正面の席に移り、トン、と書類をそろえた。私もキスされた指をぎゅっと握りしめて座りなおす。
 顔をあげたあかねは、もう先生の顔になっていた。

「佐藤さん……大変申し上げにくいことなんですが」
「はい」
 ドキリとする。まるで別人だ。

「美咲さん、イジメに加担していると思われます」
「……………え」

 その言葉に一気に現実に引き戻された。

 美咲が………イジメ?

「一緒に対応を考えていきましょう」
 一之瀬先生が、力強くうなずいた。

 

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あかね、ストーカーみたいで怖い……。

と、思わないでもない今日この頃……。

まあでも、あかねさん、19年間散々遊んでますからね。
でも、綾さんを上回る人には出会えなかった。
というか、あくまで綾さんが本命で、他は遊びと割り切って付き合っていた。

2か月前、綾さんを発見してからは、女関係全部清算して、今は綺麗な身です。

綾さんは今つらい状況に置かれています。
そんな話が次回に続く。また来週の月曜日。


でも、その前に。
どうもこの「~光彩」長くなりそうな予感がしてきた…
終わるまで我慢できないので、明日は慶と浩介の話を書こうかなあと思ったり。
R18のね…頭の中にとめておかれてニヤニヤがとまらなくて変な人になってるから今わたし。
吐き出そう吐き出そう…。


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