大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~ 十一

2011年12月17日 | 百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~
 「千代さん」。
 朝早くから八木邸に顔を見せたのは、沖田総司。
 「あなた様は」。
 「沖田です。沖田総司」。
 「その沖田様が何か」。
 「そうですね。まずはあなたが京で退屈しないように、何処ぞに連れ出そうかと思いまして、次に、土方さんへの誤解を解きたいと」。
 「誤解ではありませぬ。兄様は」。
 「さあ、まずは東山へでも足を伸ばしましょう」。
 「いいえ。私は本日多摩へ戻ります」。
 昨日京に着いたばかりで、幾ら何でも女御の足で、とんぼ返りは無理だと、有無を言わさず総司は千代を連れ出すのだった。
 「京は寒いですからね。温かくして出掛けましょう」。
 壬生からの道々、総司は、あれが二条のお城、こちらが御所と、まあ良く口が滑る。反してむっつりと口を閉ざした侭の千代。さすがに、清水寺への道すがらの二寧坂、産寧坂、石塀小路は風情があり、千代の顔も自然とほころびるのだった。
 「そうそう千代さん。あなたには、笑顔の方が似合っていますよ」。
 きっと睨む千代。えへへと総司は舌を出すのだった。
 「千代さん、土方さんの事を怒っているのですか」。
 「怒ってなどおりませぬ。ただ見損なっていだけにございます」。
 「やはり怒っているではありませんか」。
 それは悋気だと言ったものだから、千代に頬を思い切り張られる事になるのだった。
 「痛い。気が強いところは、土方さんにそっくりだ」。
 「これは失礼しました」。
 考えるよりも先に手が出た事を詫びる千代。清水の舞台で、深く頭を下げるのだった。
 「ねえ、千代さん。土方さんはいい加減に女遊びをしているのではありませんよ」。
 その証しに、幹部で妾を囲っていないのは己と土方のみであると、総司は告げる。
 「沖田様は分かりますが、兄様が…信じられませぬ」。
 聞き捨てならないと総司が言い返せば、誠実そうに見えると、逆に褒められ満更でもないのだった。
 「真ですよ。土方さんは休息所を持っていませんから。ですから毎日、屯所にいるので、こちらは気が抜けません」。
 京の寒空に、笑い声が舞い上がるのだった。



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