「結構にございます。こう見えても千代は天然理心流を収めております」。
「馬鹿な、それでも女御は女御だ。第一、千代の身に何かったら、忠兵衛さんも彦五郎さんもお嘆きだ」。
「なれば兄様、姉様の事を思い出されましたか」。
「それだがな。俺は美緒に何を事を言ったのか、覚えていないのだ」。
増してや将軍家の思い人の美緒が、実は己を好いていたなど、思いも寄らぬ歳三だった。
「では、姉様は如何して自刃なさったのでしょう。兄様が、側にいてくださっていたなら、姉様は、姉様は…」。
崩れ落ちる寸前、千代の肩をひしと抱き止めた歳三だった。
「歳三、お前は妹と思っていても、向こうはお前を男として見ていたんじゃないか」。
思い出せと勇が歳三を問い詰める。
「そう言われてもなあ」。
「土方さんは、あちこちで、挨拶代わりに甘い言葉を囁いていますからね」。
「総司」。
襖を開けて顔を見せたのは、沖田総司。新撰組一番組の隊長である。勇、歳三とは江戸の試衛館時代からの顔馴染みであった。
「私が思うに、千代さんも土方さんを好いておいでではないでしょうか」。
「馬鹿な。千代など小便臭えがきだ」。
「ほら、それですよ。土方さんはそう思っていても、千代さんは、立派な女御。あの器量なら、男は放っておきませんよ」。
「総司、正か」。
「土方さんがお許しくだるなら。私に異存はありませんよ」。
飄々と良いの蹴る総司。土方は、そういったものかと、改めて千代の未姿を思い浮かべるのだった。
「だから素人女は面倒なのだ。金子で片が付く女が一番だ」。
夜半に飛び起きた、歳三の本音であった。
土方歳三。惚れた腫れたの気持ちの籠った思いが、何より苦手であった。
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「馬鹿な、それでも女御は女御だ。第一、千代の身に何かったら、忠兵衛さんも彦五郎さんもお嘆きだ」。
「なれば兄様、姉様の事を思い出されましたか」。
「それだがな。俺は美緒に何を事を言ったのか、覚えていないのだ」。
増してや将軍家の思い人の美緒が、実は己を好いていたなど、思いも寄らぬ歳三だった。
「では、姉様は如何して自刃なさったのでしょう。兄様が、側にいてくださっていたなら、姉様は、姉様は…」。
崩れ落ちる寸前、千代の肩をひしと抱き止めた歳三だった。
「歳三、お前は妹と思っていても、向こうはお前を男として見ていたんじゃないか」。
思い出せと勇が歳三を問い詰める。
「そう言われてもなあ」。
「土方さんは、あちこちで、挨拶代わりに甘い言葉を囁いていますからね」。
「総司」。
襖を開けて顔を見せたのは、沖田総司。新撰組一番組の隊長である。勇、歳三とは江戸の試衛館時代からの顔馴染みであった。
「私が思うに、千代さんも土方さんを好いておいでではないでしょうか」。
「馬鹿な。千代など小便臭えがきだ」。
「ほら、それですよ。土方さんはそう思っていても、千代さんは、立派な女御。あの器量なら、男は放っておきませんよ」。
「総司、正か」。
「土方さんがお許しくだるなら。私に異存はありませんよ」。
飄々と良いの蹴る総司。土方は、そういったものかと、改めて千代の未姿を思い浮かべるのだった。
「だから素人女は面倒なのだ。金子で片が付く女が一番だ」。
夜半に飛び起きた、歳三の本音であった。
土方歳三。惚れた腫れたの気持ちの籠った思いが、何より苦手であった。
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