限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第446回目)『YouTube大学に見る中田敦彦の独学術(後編)』

2024-02-18 09:16:33 | 日記
前回

前回でも述べた様に、本稿は中田氏のYouTube大学の宣伝ではなく、彼のYouTube動画作成過程で、参考にすべき独学術についての話だ。

参考すべき点というのは「読んだことを人に話す」という点である。いくら記憶力が良い人でも、読書しただけだとなると、時間の経緯と共に記憶が薄れていくものだが、読んだ本の内容を人に話をすると、長い間頭に残るものである。ましてや、YouTubeにアップする動画のように、話した内容が長く残ってしまう場合、話す内容に対して責任感が伴うので、しっかり理解した上で話すので猶更、記憶に残る。

「読んだことを人に話す」ということの重要性に私が始めて気づいたのは京都大学の1回生の時であった。京都大学は、徒然草で有名な吉田兼好ゆかりの吉田神社の麓にあり、例年2月3日の吉田節分祭では多くの出店が東一条の通りを埋めつくす。当日、いつものように学食で夕飯を食べたあと、正門をでると驚くほど多くの人で通りが埋まり、カンテンで夜店があかあかと照らされていた。その人込みに京都という伝統をしみじみと感じた。



しばらく佇んだあと、ふらりと正門のすぐ近くにるナカニシヤ書店に入った。ぶらぶらと本棚を眺めていて、たまたまレーニン著の岩波文庫の『国家と革命』が目に入った。本のタイトルだけは知っていたものの、内容はまるで知らなかったのだが、買って下宿に戻った。節分祭の興奮もあって、寝付かれなかったので、早速読み始めた。当時は、まだ日本に吹き荒れた学生運動の余韻が残っていて、京大でも教養部で全学ストライキが決行されたこともあって、社会制度について考えることが多くあった。それで、この『国家と革命』の内容にも惹かれて読み進め、とうとう徹夜して読了した。早速、翌日の昼、学食で同級生に出会ったので、私は多少興奮気味にこの本の内容をしゃべった。同級生はあまり興味を示さなかったが、それでも私は話し続けた。たった一度『国家と革命』を読んで、話しただけだが、本の内容は長く記憶に残った。こういう経験があるので、私は中田氏が実践している、一冊の本を読んだ後で人に話すというのは、非常に良い方法であると賛同するのである。

もっとも、中田氏のやりかたに非難が多い。曰く「一冊の本だけから解説している。」「漫画本から解説している。」「広く浅く、興味を持たせるだけで、間違いも多いし、内容も深くない。」たしかに、この指摘は当たっている面がある。しかし、逆に学者の話はいつも傾聴に値するのだろうか?ある時、日本史の学者の卵と話をしていて驚いたことがあった。彼は、「室町時代の荘園について、研究している」と、言ったので私は「室町時代の前の平安や鎌倉時代も研究するのですか、また、世界の荘園の制度との比較もするのですか」と聞くと、「いえ、室町時代の荘園だけです。」との返事だったので、私は「何と狭い! こういう世界観もあるのか!」とびっくりしてしまった。こういう狭い分野しか知識のない専門家の話を聞いても面白くないのはいうまでもない。もっとも、専門家の中には幅広い人もいるのもまた事実だ。

中田氏のYouTube大学でしばしば枕詞のように口にしているのが「自分は大学受験の時、日本史を取ったので、世界史を習っていない。それで世界のニュースを聴いても理解できなかった。これではいけないと思って、(社会人になってから、自分で)世界史を勉強した。そうすると世界史が面白いことに気づいた。自分が学んでいて楽しいから、人にもその楽しさを伝えるのを目的としている。」と述べる。彼のこの言葉は、文科省の愚策である「ゆとり教育」の被害者の境遇を代弁している。昭和30年生まれの私の高校時代は全てが必修だったので、社会科目や理科科目は文系・理系問わず、一通り勉強した。世間では「詰め込み教育」と非難されるが、こういった教育は私はよいと感じる。この点を考えるきっかけとなったのは、以前のブログ
 百論簇出:(第87回目)『京大生の知識レベルは中卒並み?』
に書いたが、2009年から京都大学の一般教養科目を教えていた時に受けた衝撃であった。

残念ながら、「個性を大切にする」との掛け声で、必修科目を減らしたため、穴ぼこだらけの基礎知識しか持たない人間を粗製乱造している現代の日本の教育の質はかつてより、かなり低下している。この点を少なくとも気づかせ、中高時代に学んでこなかった科目を自分で学ぼうとする時の敷居の高さを取り払ってくれ、未知の科目を学ぶ道筋の露払い的役割を果たしてくれるYouTube大学のようなWeb上の教育コンテンツは、存在意義はあると、私は考える。

続く
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