限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第58回目)『国際人のグローバル・リテラシーの図書リスト(2)』

2010-06-06 05:01:27 | 日記
昨日に引き続いて私の授業、国際人のグローバル・リテラシーで使っている図書リストをご紹介する。

日本の文化と言ったときに通常は、文学、宗教、歴史、思想などのいわゆる高校の教科書に出てくる内容の話に集中しがちである。しかし、現実的に人が社会生活を営む上においては生産活動が必要だし、それを支えているのが、農業、工業、などに使われている科学技術である。

従って科学技術の活用あるいは進展なしに社会を語れないはずである。それにも拘らず、科学技術の進展は歴史の授業、とりわけ日本史の授業では皆目見当たらない。この理由は簡単で、日本史のような文系科目の研究者、教師は理系に属する科学技術が苦手であるからだ。そして科学技術というと、分野が幅広く、現在の理科系全ての学部にまたがる。つまり、理・工・医・薬・農、トータルの分野をさす。さらに言うと、日本はこの方面では中国の科学技術発展の恩恵と同時に、江戸時代にオランダ経由で入ってきた西洋の科学技術の発展の多大なる恩恵を受けている。それらに加え、日本独自の発展もあった。つまり、日本の科学技術の発展(科学技術史)というものを概観しようと思った途端に、広大無辺の知識・情報の大海に落ちてしまうのである。

幸運なことに江戸時代には、このような幅広い学問分野の内、博物学は本草学という学問で、日本、中国、西洋の学問が統一的な視点が与えられた。また従来の中国の科学技術に飽き足らなくなった人たちが蘭学を通して西洋の科学技術を鋭意追求し、それらの精髄を我が物とした。

さて、日本の過去の実態を知るには、室町時代以降、日本を訪問した外国人の書き残したものを読むのが重要だと私は考えている。確かに彼らの日本滞在は1年、ないしは数年程度の短期間であるが、日本人だと見えない視点からの日本社会の分析をしている。この関連も従来の日本史の中では、軽視されていたと感じる。

イスラム圏の話は、私には正直なところ bookish な知識しかない。というのはイスラム圏に旅行したことも住んだ経験もなく、本からの知識しかない。しかし、数年前、神戸のカーネギーメロン大学日本校に勤務していた時に、同僚にイラン人がいたので、彼らとの会話から有る程度、イスラム、アラブ、ペルシャなどの関する知識を取り入れ、それまで自分がもっていた本からの知識に付け加えることができた。

そういう状況なので、イスラムについて私が語るのはおこがましいと自覚している。しかし、日本の教育現場では、イスラムに関する記述のほとんどが西洋からの視点の受け売りで、イスラム自体からの見方がゼロに等しい現状に対して、学生達に知識の喚起を呼び起こしたいと思っている。

それと言うのも 9.11の事件以降は、アメリカのイスラムに対する強硬姿勢がニュースなどで報道され、それによって『善のアメリカ、悪のイスラム』という単純明快な二項論理があたかも真理であるかのような伝え方をされていないか、私は懸念している。アメリカ社会に暮らすと分かるのだが、アメリカといえどもけっこうな数のイスラム系住民がまともな社会生活を営んでいくことができている。

このような現在の問題もさることながら、彼らは過去どのように生きてきたのであるのだろうか、また現在の世界の宗教のうち、唯一イスラム教徒だけが信者を増やしているという、そのイスラム教とは一体何だろうか、などという疑問が私にはある。過去を遡り、特に西欧との関連、そして、唐の時代からはるばる中国にまでやってきて定住したその活動の原動力を知りたいのである。

イスラム、アラブ、ペルシャ関連の本を何冊か読むうちにこれらの疑問が少しずつではあるが私なりに解けてきた。ただ、現地での実体験がないので、どの程度正鵠を得ているのか正直分からないが、とりあえず現在の私の理解した範囲で、議論している。



日本とイスラムに関する参考図書は下記の通りである。

 5.日本 科学技術の発達・、出版物の流通(江戸時代)

#0501 江戸の博物学者たち(講談社学術文庫) 杉本つとむ
#0502 江戸の科学者たち(現代教養文庫・社会思想社) 吉田光邦
#0503 江戸期のナチュラリスト(朝日選書) 木村陽二郎
#0504 江戸の蔵書家たち(講談社選書メチエ) 岡村敬二
#0505 一古書肆の思い出(平凡社ライブラリー) 反町茂雄
#0506 千年働いてきました(角川Oneテーマ21) 野村進
#0507 からくり人形の文化誌(學藝書林) 高梨生馬
#0508 木村蒹葭堂のサロン(新潮社) 中村真一郎
#0509 江戸時代史・上下(講談社学術文庫) 三上参次
#0510 和漢三才図会(平凡社東洋文庫) 寺島良安(島田勇雄訳注)
#0511 日本古地図大成(講談社) 中村拓監修
#0512 それでも江戸は鎖国だったのか(吉川弘文館) 片桐一男
#0513  日本科学史(講談社学術文庫) 吉田光邦

 6.日本 六国史、大日本史、中国の歴史書との関連

#0601 世界史における日本(岩波新書) サンソム(大窪愿二・訳)
#0602 古代日本と朝鮮・座談会(中公文庫) 司馬遼太郎、上田正昭、金達寿、編
#0603 日本書紀(講談社学術文庫) 宇治谷孟
#0604 続日本紀(講談社学術文庫) 宇治谷孟
#0605 古史徴開題記(岩波文庫) 平田篤胤(山田孝雄校訂)
#0606 譯文大日本史(春秋社) 山路愛山
#0607 古事記(岩波文庫) 倉野憲司
#0608 日本後記・上中下(講談社学術文庫) 森田悌
#0609 大鏡(角川書店) 佐藤謙三
#0610 増鏡・上中下(講談社学術文庫) 井上宗雄
#0611 二千五百年史・上下(講談社学術文庫) 竹越与三郎(中村哲校閲)

 7.日本 江戸末期・明治初期の西洋人の記録、日本人論

#0701 講孟余話・旧名講孟箚記(岩波文庫) 吉田松陰
#0702 吉田松陰(岩波文庫) 徳富蘇峰
#0703 武士道(岩波文庫) 新渡戸稲造(矢内原忠雄・訳)
#0704 江戸幕末滞在記(講談社学術文庫) エドゥアルド・スエンソン(長島要一・訳)
#0705 日本俘虜実記(講談社学術文庫) ゴロウニン(徳力真太郎・訳)
#0706 絵でみる幕末日本+続・絵でみる幕末日本(講談社学術文庫) エメェ・アンペール(茂森唯士・訳)
#0707 二宮翁夜話(岩波文庫) 福住正兄筆記、佐々井信太郎校訂
#0708 「縮み」志向の日本人(講談社学術文庫) 李御寧
#0709 日本奥地紀行(平凡社東洋文庫) イザベラ・バード(高梨健吉・訳)
#0710 夢酔独言(平凡社ライブラリー) 勝小吉(勝部真長編)
#0711 赤松則良半生談・幕末オランダ留学の記録(平凡社東洋文庫) 赤松範一編注
#0712 長崎海軍伝習所の日々・日本滞在記抄(平凡社東洋文庫) カッテンディーケ(水田信利・訳)
#0713 懐旧録・サンクリット事始め(平凡社東洋文庫) 南条文雄
#0714 人間を幸福にしない日本というシステム(毎日新聞社) カレル・ヴァン ウォルフレン(篠原勝・訳)
#0715 茶の本(講談社学術文庫) 岡倉天心(桶谷秀昭・訳)
#0716 西欧世界と日本・上下(筑摩叢書) ジョージ・サンソム(金井円、芳賀徹、多田実、平川祐弘・訳)
#0717 江戸参府紀行(平凡社東洋文庫) ジーボルト(斎藤信・訳)
#0718 フロイスの日本覚書・日本とヨーロッパの風習の違い(中公新書) 松田毅一、E・ヨリッセン
#0719 江戸参府旅行日記 ケンペル(斎藤信・訳)
#0720 江戸参府随行記(平凡社東洋文庫) C.P.ツュンベリー(高橋文・訳)
#0721 アメリカ彦蔵自伝・1、2(平凡社東洋文庫) 中川努、山口修訳

 8.イスラム イスラムの社会・文化、イスラムの科学

#0801 イスラーム文化(岩波文庫) 井筒俊彦
#0802 イスラムの時代(講談社学術文庫) 前嶋信次
#0803 イスラムの世界(講談社現代新書) 大野盛雄
#0804 イラン人の心(NHKブックス) 岡田恵美子
#0805 都市の文明イスラーム(講談社学術文庫) 佐藤次高+鈴木董
#0806 アラビア史(修道社) 前嶋信次
#0807 アラビア学への途(NHKブックス) 前嶋信次
#0808 ペルシア放浪記(平凡社東洋文庫) A・ヴァーンベリー(小林高四郎、杉本正年・訳)
#0809 ペルシャ見聞記(平凡社東洋文庫) J・シャルダン(岡田直次・訳)
#0810 遊牧民族の知恵 -- トルコの諺(講談社現代新書) 大島直政
#0811 千夜一夜物語と中東文化(平凡社東洋文庫) 前嶋信次
#0812 世界文明における・技術の千年史 アーノルド・パーシー(林武、東玲子・訳)
#0813 策略の書・アラブ人の知恵の泉(読売新聞社) ルネ・カーワン(小林茂・訳)

 9.イスラム イスラムと西洋・キリスト教、十字軍の残酷

#0901 アラブが見た十字軍(リブロポート) アミン・マアルーフ(牟田口義郎、新川雅子・訳)
#0902 私のアラブ・私の日本(CBS・ソニー出版) U.D.カーン・ユスフザイ
#0903 イスラームの日常世界(岩波新書) 片倉もとこ
#0904 シリア縦断紀行(平凡社東洋文庫) G.L.ベル(田隅恒生・訳)
#0905 天主実義(平凡社東洋文庫) マテオ・リッチ(柴田篤・訳)
#0906 ギリシア思想とアラビア文化・初期アッバース朝の翻訳運動(勁草書房) ディミトリ・グタス(山本啓二・訳)
#0907 旧約聖書
#0908 新約聖書
#0909 キリスト教史・全11巻(平凡社ライブラリー) ジャン・ダニエル、他(上智大学中世思想研究所・訳)
#0910 コーラン・上中下(岩波文庫) 井筒俊彦・訳
#0911 コンスタンティノープル陥落す ランシマン(護雅夫・訳)
#0912 ギリシャ正教 高橋保行

中国、韓国、東南アジア、南米のテーマに関しての参考図書は、明日ご紹介する。
(続く。。。)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 沂風詠録:(第57回目)『国... | トップ | 沂風詠録:(第59回目)『国... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事