限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第346回目)『資治通鑑の勧め ― 『禁断の中国史』』

2022-07-31 21:47:03 | 日記
最近、妙に私の本『本当に残酷な中国史』(角川新書)のアマゾンでのランキングが上がっているので、おかしいなと感じていた。(ちなみに、私は現在まで、書籍は8冊、Kindle版は7冊出版しているが、簡単なプログラムを組み、ランキングを一挙に取得できるようにしている。)暫くして、友人から「百田尚樹さんの近刊書『禁断の中国史』に麻生川さんの本が参考文献として始めのほうに載せられていますよ」と連絡をもらった。

暫くして、本屋に行く用事があり、ついでに『禁断の中国史』を立ち読みしてみると、確かに参考文献の最初は資治通鑑の本の紹介で『本当に残酷な中国史』の名前が徳田隆氏の『全訳資治通鑑』の次に挙がっている。『禁断の中国史』をぱらぱらと読んだところ、前半部分(第一章から第三章)は私の『本当に残酷な中国史』にも取り上げているような内容だ。出典の多くが資治通鑑であるとのこともあってか「よく似たことを書いているなあ」と感じた。最後に、「あとがき」の部分を読むと、「資治通鑑の日本語訳がないために日本人は中国人を理解できない」という趣旨の文をみつけた。つまり、早く資治通鑑の日本語訳を作って、日本人に読ませるべきだという主張だ。



「日本人は中国および中国人を知るために資治通鑑を読むべき」とは私も全く同感である。『本当に残酷な中国史』の冒頭で次のように述べた。

「『資治通鑑』を読まずして中国は語れない、そして中国人を理解することも不可能である」
これが、足掛け数年かけて資治通鑑という名著を読み終えたあとの私の偽らざる感想であった。


資治通鑑は元来、為政者つまり皇帝や大臣クラスの文人が読むべき書物として編纂されたので、堅苦しい本と思われがちだが、実際に読むと、ヘドがでそうなほど残酷な話も多く載っている。これは別に資治通鑑の編者が創作した話ではなく、元ソースの正史(十七史)にしっかりと書かれているのを、文章を多少いじってカットアンドペーストしただけの話だ。つまり残酷な話は正史を編纂した時の文人が当時の記録から選んで載せたものだ。日本人にとっては、「ありえへん」と仰天する、人食の話や、毒蛇のプール(水獄)などは、中国の歴史家にとってはワンオブゼム、つまり歴史の一コマに過ぎないということだ。

中国と日本の刑罰の大きな差は、公開処刑のありかただ。日本でも確かに、「市中引き回しの上、斬首」というのがあったが、処刑場は町はずれにあった。ところが、中国の場合は、町の真ん中で行う。たとえば、商鞅(商君)や李斯のような大臣経験者のような高官であっても、凶悪犯同様、街中で衆人環視のなか処刑された。

史記によると李斯の最後は極めて酷い刑を科されている。具体的には五刑(黥、劓、刖、宮、死刑)、つまり、処刑されるまでに、酷い拷問のような、鼻切りや足切り、果ては男性器の切り落としが科されたということだ。それだけではすまず、李斯の近親の家族だけでなく、親族(三族)全員が処刑された。
二世の二年七月、李斯に五刑を具(そな)えて、論じ、咸陽市に腰斬す。…而して三族を夷(たいら)げらる」(二世二年七月、具斯五刑論、腰斬咸陽市。…而夷三族)

政変がおこる都度、このような残酷な処刑風景が街中で見られるのが中国では当たり前であった。何も、文化大革命の時だけではなかった。

さて、資治通鑑の記事は残酷な場面ばかりではない。正直なところ、資治通鑑の残酷な場面は1割程度で、普通の記事は6割、つまらない記事は3割ある。しかしわずか1割といっても、全体で1万ページある巨冊なので、残酷描写は1000ページ分もあるので、読み応えはたっぷりあるといっていい。ただ、『残酷な中国史』でも解説したように、過去の記事へフラッシュバックしてくれないので、事件の経緯を思い出すことができないと関連が分からず興味も失せてしまう。その点では、資治通鑑の記事を事件毎にまとめた資治通鑑記事本末の方がストーリーを追うには読みやすいのではないかと想像する。

このように、資治通鑑は大冊であるだけに、読みこなすのはかなり困難だ。それで確かに「日本人は資治通鑑を読むべし」との百田氏の意見には大賛成ではあるが、検索システムの助けを借りないと到底、資治通鑑を読みこなすことはできないであろう。私は以前、資治通鑑を通読するために漢文検索システムは作成したが、これなくしては通読は不可能だったと断言できる。私の漢文検索システムは条件が整えばシステムの内容を公開してもよいと考えているが、著作権やGUIインターフェースなど、公開するとなると実に様々な障害が存在している。妙案があれば、ご提示いただければ大変ありがたい!
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