私たち親子は 普通の生物なので いつか死ぬ。
たぶん、年齢が上の方から順番にお墓に入る。
だから、
残された時間が一番少ない父は
『小笠原諸島に行きたい!』なのだそうである。
そういう前置きをして<小笠原諸島>はずるいと思ったが、
とりあえず、島で何をしたいのか聞いてみた。
『いや、べつに。』
したいことがなくても 見たいものがわからなくても 行先だけは決まっているのである。
決まってはいるのだが、どの島がいいのかは よくわからない、のである。
父には食べ物・観光・研究・写真・その他には興味がないし 自然観察や海洋レジャーの趣味もない。
『島に着いたら のんびりしたい』と言うが
父は仕事を辞めてから 毎日のんびりしているのである。
のんびりしている人の方が 旅行に熱心なものである。
『高速船に乗って行きたい。』
つまり、船に乗りたいようなのだ。
正しくは『船に乗ってみんなとどこかに行きたい』なのだろうが
<みんなと>の部分は気付いていても 知らぬふりなのである。
クイーンエリザベス号とかの系統ならともかく
のんびりするために
雑魚寝で家族船旅をするほど若くはないのである。
(父の船旅は2等で雑魚寝と昔から決まっている。)
もし、父が
『でっかい鯨がはね回ってダンスするのが
結構 面白そうだから お前たちも行こう!』と誘ったのなら
鯨に興味がない私でも ちょっとは考えたかもしれない。
ひょっとしたら 雑魚寝で家族船旅も楽しいかも!と思ったかもしれない。
最終的に
「いいじゃん、お母さんと二人で行ってきなよ。」と
父のココロの底の願望をスルーしてしまう 冷たい私なのである。
<つづく>