私が夕食を並べ終えたところで、
「ま」さんは帰宅途中の靴屋で新しい靴を買って 上機嫌で帰宅した。
とっても良い買い物をしたらしい。
で、
服を脱ぎながら 何かがおかしいことに気付いたらしい。
お客様から受け取った 大事な大事なサンプルが 無い!!!!!!!
『俺はとんでもないことをやらかしてもうた・・・』
『靴屋ではすでに持ってなかった・・・』
『駅のそばのATMだ・・・』
みるみる顔色が蒼くなった。
危機に陥ったと悟った瞬間の 典型的な表情だった。
『もしあれが他人の手に渡ったら・・・』
『紛失したじゃ済まない・・・』
これまで培った信用を 一瞬で失うことになるらしい。
それは大変だ!!!!
「私の自転車で今すぐ駅に戻るのよ!」
・・・いや、その自転車は65Kgまでの人しか乗れないんだった。折り畳みの悲しさよ。
80Kgを超えた夫が乗って万一って事態もあり得なくはない。泣きっ面に蜂ってやつ?
てか、駅前大捜索になった場合、私も行った方がいいんじゃね?
てか、てか、夫のピンチに行動を共にしないでどうするのよ!!!
つうことで
トレパン&Tシャツというものすごくホームウェアないでたちのまま 夫についていくことにした。
家は駅から遠くて 大きい道路からも離れている。
タクシーがびゅんびゅん行き交う環境ではない。
でも なぜか 50mくらい先の交差点にタクシーが停車してる!!
いや、動き出した!!
ちょっと待って!
これを逃したら ものすごく後悔することになる気がした。
運動音痴で徒競争が大嫌いだった私が 必死に走った。
もしスピードを計ってたら たぶん人生最速を記録してたと思う。
運良く運転手さんは気付いてくれた。
駅に着き 料金を支払い、
人ごみの中 問題の場所までまた走った。
私たち夫婦がこのようにめまぐるしい疾走を重ねることは この先二度と無いかもしれない。
そして、
見つけた。
神々しいまでに輝いてる(気がした)紙袋を。
ひざまずきたい気分で 神様仏様ご先祖様に感謝した。
「ま」さんのピンチを救い 信用を護ってくださり ありがとうございました。
人生は長く 山あり谷あり。こういうアクシデントも多かろう。
一つ一つ夫とともに乗り越えて行こうと 強く誓った。
『タクシーで帰って 急いでご飯を食べよう』と言った夫に、
「ケーキ買って♪ 歩いて帰ろう」と答えた。
どうせご飯は冷めちゃってるから 急いで戻ってもおんなじだから。
いや、
実は買い物に行ってなくておかずが貧弱なのをカバーしたかったからだけど・・・
「ま」さんは中年男性なので 耳毛が生える。
我が家においては (私と「ま」さんしかいないけど)
100%の確率で成人男子の耳に毛が生えているので そういうことにしておく。
職場や電車で ひそかに観察しているが
耳毛がぼーぼーの男性はそれほど多くない。
それほど多くはないが それなりの確率で存在している。
あきらかに放置している方には きっと 主義や主張があるのだろう。
もちろん個人の自由は尊重するべきだし
個人的には 正直 他人の耳毛なんてどうでもいい。
ツルツルだろうがジャングルだろうが
<身だしなみチェックリスト>に 耳の毛を加える必要は無いと思っている(加えても別に構いはしないけど)。
でも、
「ま」さんにとっては 耳毛は他人事ではない。
忌まわしく 忌々しく 忌々々々々しく 忌々々々々々々々々しく
意趣遺恨 不倶戴天の敵であり
根こそぎ絶対駆除の対象なのである。
だから、
抜く。
録画した『ロー&オーダー』を見ながら、
J:COMマガジンの番組表をチェックしながら、
メールチェックしながら、
鏡は使わず、熟練した職人のように 指先と耳の感覚を頼りに
毛抜きを使って 抜き続ける。
抜いた毛をティッシュペーパーにこねりつけ ひたすらに抜く。
どうしても自分では抜けないものがあった時だけ 私に声をかける。
『このザワザワするやつ。』と指差す先には
まだ毛穴から頭が出きっていない<黒い点>、生長しきってない耳毛のモトがあるだけの場合も多い。
「まだ毛先が皮膚の下だよ・・・」と言うと
『でも、絶対アルの。ザワザワするもん。抜いて』と譲らない。
『抜いて』と言われても 頭が出てない毛なんか 毛抜きで抜けるわけがない。
ほじくり返してでも抜けというのか? 炎症起こすぞ…
最近は従順なふりをして 付近の産毛を抜いて誤魔化したりしてる。 (あ、ばれちゃった)
一通り納得すると 「ま」さんはティッシュペーパーに散らばる <成果>に 満足する。
でも、
『毎日抜いても 無限に生えてくる』らしい。
満員の通勤電車で 至近距離の他人の耳を観察しながら
「みんな大変なんだろうなぁ。」とか こっそり感心してます。
ゴールデンウィーク中に 「ま」さんは新しい服を買った。
ボーダー柄で ボートネックの 長袖Tシャツ。
彼のクローゼットには そういうものは一枚も なかった。
なんとなく
フランスっぽい気がした。
でも 冷静に観察すると
やっぱり <平たい顔族>なんですけどね。