続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

デュシャン『パリの空気50㏄』

2017-04-04 06:31:07 | 美術ノート

 『パリの空気50㏄』

 ガラス製アンプルの中に入っているとされる「パリの空気50㏄」、そしてそのアンプルに張られた《L.H.O.O.Q.》「彼女のお尻は熱い」という意味を暗示した文字。そのどちらも言葉だけが浮上している。

 ガラス製アンプルの中には空気が入っているに違いないが、それを《パリの空気》と限定し実証する術はない。しかし、パリの空気と断定されれば、パリの空気であるに違いないという了解するだけである。

《言葉と物》との関係性を問うている。言葉≠物ではないが、言葉は物に、本来限りなく近づけようとする働きを持つものである。言葉=物の実証を繰り返しデータ化するうちに、言葉は物との関係を密にし直接的結びついていく。すなわち言葉への信奉が揺るぎなく深まっていく。

 だから、見えない(実証しようのない)空気に対し《パリの空気50㏄》を半信半疑ながらも肯定する気分になるのかもしれない。
 けれど容器は、高さ13.5㎝・円周29.5㎝とある。50㏄ということは、円周の周り2㎝未満ほどの空気量であり、このアンプルの中には他の空気(?)も混入していることになるが、そんな器用なことは誰にとっても不可能である。
 Aの空気50㏄をBの空気に混入させ容器に収める…困難である以上に誰もそれを実証できない、なぜなら不可視なのだから。

 鑑賞者はからかわれている、と同時に《言葉と物との関係性を疑え》とも言っている。「彼女のお尻は熱い」アンプルに張られた言葉は本質を隠蔽するためのジョークである。


(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿