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赤地の清水

2013-08-16 | 創作
赤地の清水という湧き水があります。
どんな日照りの夏でも冷たい水が涸れたことがない、と言われている清水です。
小さい頃は、この湧き水にスイカがいくつも浮いていて、スイカに持ち主の名前が書かれていたものです。
近所の人達だけですから、他人のものを持って行く人もいませんでした。
学校帰りに此処によって、自分の家のものを見つけたら、こっそり食べたりもしていました。
もちろん、食べられなかった物は持ち帰ってましたから。
でも赤地の清水って、変な名前だと思いませんか。
実は古文書等による此処の地名は、赤血の清水と書かれているのです。鎌倉時代の時にこの辺りの豪族同士で、大きな合戦があって負けた一族がこの清水あたりで何人も斬首されたそうです。女も子供も残らず斬り殺されたとありました。そして最後に一族の長が殺されるとき、その人が百年はこの清水を赤く染めてみせると言って殺されたそうです。それ以来、この清水からは血のような赤い水が流れ出したとありました。殺された一族の首をこの清水で洗って、勝った方の屋形近くで晒されたとありました。
この話を読んでからは、ちょっとこの清水に行くのが怖くなりました。
学校の部活で夕方近くなって、回りが暗くなった頃一人で家に帰ると時に、暑くて喉が渇いて、この清水に寄って水に浸けてあるスイカを持ち上げました。
持ち上げたスイカは、なぜかトウモロコシのようなフサフサなひげがあって、形もまん丸でなくて真ん中あたりに穴のある突起があるのです。
月明かりのあるところで、スイカを見ると目がありました。スイカだと思って持ってきたものは生首だったのです。清水を見ると真っ赤な水がこんこんと湧き出てて、浸けてあるスイカだと思ったいくつもの黒い塊に赤い目が光っていました。
泉に浮かんでいる全部の黒い塊が赤い目だけ光らせて私の方を見ていたのです。

先日暑い日に久しぶりに赤地の清水に行ってスイカを冷やしました。
清水には、近所の子供が下流で水に浸かっていて、幼い女の子も下着だけで水のかけっこをしていました。
さすがに食器は洗っていませんでしたが、畑の野菜を洗っているおばさんが何人かで世間話しています。
女の人は立ち話というか、井戸端や清水あたりで話していると長くなりますね。
額に汗かいて、日傘さして話し込んでいるのです。
スイカを何個が清水に浮かべて、本当はここは赤血と言われる清水なのですよと思っていたら、いつのまにか回りに誰もいなくなっていました。妙に静かになるのです。日が照っているのに、回りから音が無くなるとき、そう逢う魔が刻です。
清水から流れ出る水の音がちょっと粘っこいのです。チョロチョロと言った感じでなく、ポタンポタンと言った感じ。まるで血がまん丸になって一滴一滴落ちるような音。
振り返ると清水の中にあったスイカがゆっくり動いて……

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