夕焼け金魚 

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ハイヒールの音

2013-12-17 | 創作
溜まり場にしている友達の部屋でボーッとしていたら、カンカンと鉄製の階段を上がってくる足音がした。
あれだけ高く響く音は、女物のハイヒールだろうなと思っていた。
意識だけドアの外に向けていたら、コツコツとやはり小さめの音が廊下に響いた。
コツコツ、廊下を歩く音がずっと続いてくる。このアパートの一番奥にある部屋だからどの部屋に入るのか興味津々でハイヒールの音を聞いていたら、どの部屋にも止まらずにとうとう私がいる部屋の前で止まった。
ガチャリとドアのノブがゆっくり廻る。まさか、ここに入ってくるのか、友達の彼女かと半分困って、半分期待してドアノブの動きを見ていたら、途中で止まってしまった。
ドアには明かり取りの磨硝子が入っていて、人影が写っている。私が中にいるのに気づいてためらっているのかと思った。
「どちらさまですか」と声をかけてからドアを開けてみたら、廊下には誰もいなかった。
今の今までドアの磨硝子に人影があったのに、声をかけてドアを開けると誰もいなかった。
入り口の階段からこの部屋までは部屋数にして10部屋もあるのに、しかも階段は鉄製だから階段を使う限り足音が聞こえないはずがない。廊下を歩くハイヒールの音もしっかり聞こえていたのに、ドアを開けると誰もいなかった。
暫くして友達が帰ってきたので先ほどのことを話してみた。
「ああ、ガチャリとドアノブを回すんだろう」
「そう」
「だけど、ドアからは誰も入ってこなくて、ドア開けると誰もいないのだろう」
「そう、何かいるのか」
「分からない、おれそっち感覚全くないからいるのかどうかも分からないのだけど、別に悪さするわけじゃないからほっておいてある」と何事もない風であった。
しかし、私はちょっとそっちの感覚があるからドアの前に立ったものはほって置けるものではないように思えたのだけど。
「ほおって置けることじゃないから、早めに此処引っ越しした方が良いよ」と忠告すると「ああ、じつは彼女もそう言うから、そのうち引っ越しするよ」と言った。
「ええ、彼女いるのか」
「ああ、今度お前にも紹介してやるよ」と言われた。
翌週、そいつが彼女を紹介してやると言ったので、興味津々で奴の部屋に行った。
もうすぐ彼女が来る時間というので、お湯を沸かして待っていた。するとカンカンと階段を上がってくる音がして、廊下を歩くハイヒールの音がした。その音を聞いたとき、私は背筋に冷たい物が走った。あの日、聞いたハイヒールの音にそっくりだったのだ。歩くスピードも間隔もそっくりだった。
コツコツと音がドアの前に止まって、ガチャリとドアノブが回り出した。
友達が彼女が来たのだと思ってドアを開けると、そこには真っ黒な闇が広がっていた。
びっくりしている友達が、ゆっくり暗闇の中に頭から飲み込まれていくのが見えた。
友達が闇の中に飲み込まれた後に、闇の中からドアよりも大きな真っ赤な目が部屋の中を覗いた。
私は慌てて家具の陰に隠れた。家具の陰に隠れていた私に、静かにドアが閉まる音がした。
コツコツと廊下を歩く足音が遠ざかっていった。
友達はその日以後、消息を絶ってしまった。

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