夕焼け金魚 

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熱気球の熱

2023-06-05 | 創作
本日は天気も良いので、公園の掃除です。
近所の若奥様にも応援して頂けました。
おかげで1時間もすれば、綺麗になったのです。
奥様達にお礼を言って、解散になったのですけど、おひとりの奥さまだけがまだ掃除を続けておられました。
「ありがとうございます。今日はこれくらいでいいですよ」と声をかけたのですけど、一心不乱に箒を動かしていて私の声など聞こえない風でした。
おかしいなと思って近づくと、泣いておられるのです。
箒を動かしながら、泣いておられるのです。
事情を聞くと、最近旦那様が冷たくなっているというのです。
新婚一年でこんな状態だと、先が思いやられてつい、涙が出て止まらなくなって家に帰れないというのです。
気持ちを落ち着かせるために、私の家で一服して貰うことにしました。
お茶を飲んで頂く、少し落ち着いたようで馴れ初めとかのご夫婦の話を聞かせて頂きました。
「1年でこんな様子では、今後のことを考えると辛いことしか思い浮かばなくて」と涙ぐむのです。
「ちょっと怖いけど、旦那様の貴方への熱を調べてみましょうか」と聞いてみたのです。
「夫の私への熱ですか」
「そうです。貴方への気持ちの熱が分かれば、将来にも希望が持てますし、万が一そんなに熱がないようなら、いずれしても相手の気持ちが分かったら、対処の仕方も変わるのでは」と言ってみたのです。
「夫の気持ちが分かるのでしたら」と少し気持ちを決められたようです。
物置から暫く使っていない熱気球の玩具を引っ張り出してきました。
この熱気球には小さな人形が付いていて、背中が開くようになっています。
「この背中を開けて貴方の爪と相手の爪を燃やして入れて、気球のゴンドラに乗せるのです。爪に火をともすような生活と言うでしょう。もし、貴方と相手の熱が熱ければ気球は浮かび上がるのですよ。もし、浮かび上がらなかったら二人の熱はたいしたことないのだと思って頂ければ。見方によれば残酷な結果になるかもしれませんけど、よろしいですか」と言うとコックリとうなずくのです。
相手の爪を用意して下さいと言って、その日は帰って頂きました。
何か仕事というかすることが出来ると、元気も出るみたいです。
3日後に奥さまが訪ねてこられました。
「夫の爪です」と言って五本分の爪を持ってこられました。
「そんなにたくさんは、一つしか入らないので」と言って一番小さな爪を選びました。
人形の背中の扉を開けて、人形に旦那様と奥さまの爪を入れます。
爪に火をともすのは、お線香で点けます。
爪の先が少し黒くなってきたところで扉を閉めます。
気球の風船は萎んだままですが、暫くすると大きくなってきました。
下から暖かな空気が流れ込んでいるのです。
「気球も膨らまないほど、冷めてるご家庭もありますから、貴方のところはまだいいのですよ」
と言ったのですけど、奥さまは気球を見つめて一言も返してくれないのです。
その時です。フッと気球が台を離れると、ユックリ上に昇っていきました。
ゆっくりですけど、昇ってゆくのです。
そのうち台に縛っている紐がピーンと張るほど上まで昇っていったのです。
「金魚さん、上まで昇った」
「良かったですね、旦那様、貴方へ愛の熱は下がっていませんね」
「はい」と言って奥様がまた涙ぐむのです。
紐を手繰って気球を下ろしました。
気球の中の人形が、火照ったように真っ赤になっていました。
このお二人でしたら、爪に火をともすような生活になっても大丈夫だと思います。
ちなみに、もし気球が上がらなかったらということはありません。
相手の爪と自分の爪を燃やすことで、二人の愛が燃え上がるのですから、愛は直ぐ冷えちゃうので、時々温め直さないとならないのです。
この気球は愛を温め直す気球なのです。
そうでなければ、こんな怖いこと出来るはずがないじゃありませんか。


追伸
愛は地球を救う。気球は愛を救う。
熱気球大会でのキャッチフレーズからの作品です。





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