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浜松市秋野不矩美術館

2020年10月13日 | +静岡・愛知

9月にお休みをとって、1泊で静岡~愛知と旅行してきました。浜松と蒲郡にそれぞれ長年行きたかった憧れの場所があり、訪問の夢がようやく実現しました。

ひとつは、浜松市秋野不矩美術館。この美術館のことは、8年前に赤瀬川原平さんの「個人美術館の愉しみ」という本で知りました。秋野不矩 (あきの ふく) さんは浜松出身の女性の日本画家で、6人の子どもを育てながら創作活動を続け、大学で後進の指導にもあたりました。

インドの大学に日本画の客員教授として着任して以来、インドに魅せられた不矩さんは、帰任後も何度もインドに長期滞在を重ね、インドの自然や風土をテーマにした作品を描きました。

地元天竜杉の板壁、鉄平石で葺いた屋根、藁を混ぜた壁、と自然素材を取り入れた建物は、緑豊かな周囲の風景によくなじむ素朴さをもちながら、すっきりと洗練された佇まいです。設計は、赤瀬川原平さんの路上観察仲間でもある藤森照信さんです。

入口を入るとまずはスリッパに履き替え、展示室に入る時は、そのスリッパも脱ぎます。細長い展示室の右側に初期の作品、左に後期の作品、その奥には四角く白い、大きな展示室があります。天井は吹き抜けになっていて、形は違いますが、モンゴルのゲルを思い出しました。

天竜川 1988

不矩さんの故郷、浜松を流れる天竜川。アメリカのホースシューベンドみたいですが、山の緑を映した川、深々とした山並みは、まぎれもなく日本人の心のふるさとともいえる美しい風景です。

アフガニスタン風景 1972

アフガニスタンが舞台の小説「君のためなら千回でも」(The Kite Runner) を思い出しました。そのせいか見たことのない風景なのに、懐かしい気持ちでいっぱいになりました。

帰牛 1995

ここからは奥の四角い展示室の作品です。どれも大作で、展示室のタイルの床に直接腰を下ろして鑑賞すると、雄大さ、おおらかさ、生命力、そして不矩さんの情熱が伝わってきます。画像では作品の大きさ、迫力が伝えられないのが残念です。

上は、雨が降って畑も道も水浸しになった中を、悠々と帰る水牛の群れを描いた作品です。

廃墟II 1989

廃墟と題する作品が3点ありましたが、特に心に残ったのがこの作品。水辺の風景だと思ったら、地平線の向こうに見えるのは空だそうです。荒涼とした風景に心がざわつきます。

渡河 1992

一番大きな作品です。インドの濁った川が、夕日を浴びて黄金色に輝いている様子を思い浮かべました。手前に見えるのは水牛の群れ。悠久の時の流れを感じさせるダイナミックな作品でした。

沼 1991

沼に集まった水牛たちの様子を、上からの視点で描いた作品。デザイン性も感じられ、なんとなくユーモラスにも感じます。なぜか奈良の鹿たちを思い出しました。

小さな美術館で、展示室が2つなので、一度に見ることができる作品の数は少ないのですが、不矩さんたっての希望で藤森氏が設計された特別な空間の中、時間をかけて作品とじっくり向き合うことができました。

2021年3月31日まで、4回に分けて秋野不矩展が開催されますが、この美術館では不矩さん以外の企画展が開催される場合もあるので、おでかけになる前には美術館の公式サイトをご確認ください。

この美術館は建物自体も魅力的です。写真は、2階の吹抜けからロビーを見下ろしたところです。りっぱな柱は古材を使っているのでしょうか。インテリアはどことなく北欧風です。

1階のベランダ。

屋外には、藤森照信さんが設計したお茶室「望矩楼」があります。藤森さんは、こうした高床式?のお茶室を多数設計したことでも知られています。以前、清春芸術村でも拝見したことがあります。

道路から美術館へは、長い坂道を上ります。下から見るとどことなく要塞のようで、古城の風格も感じられました。

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