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マーティン・エデン

2020年10月20日 | 映画

ジャック・ロンドンの自伝的小説を、舞台をアメリカからイタリアに変えて映画化。主演のルカ・マリネッリは本作で、ヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞しました。

マーティン・エデン (Martin Eden)

ナポリで生まれ育った貧しい船乗りのマーティン・エデンは、良家の令嬢エレンに出会って恋に落ち、彼女の聡明な美しさに惹かれて、彼女にふさわしい男になりたいと、独力で勉強をはじめ、文学の魅力に目覚めます。

独学で詩や小説を書いては出版社に送り続けますが、返送されるばかり。しかし、絶望して倒れた時に、雑誌に小説が連載されることが決まります。それを機に、徐々に作家として名をあげ、押しも押されぬ人気作家となりますが...。

昔からよくある ”身分違いの恋” を描いた作品と思いきや、一筋縄ではいかないストーリーと結末に、人生の真実を突き付けられた思いがしました。レトロで粗削りの映像や、詩情あふれる人間模様に、イタリア映画ならではの味わいを堪能しました。

主演のルカ・マリネッリも実に魅力的。ハンサムだけど影があり、腕っぷしが強いだけでなく知性がある、野心あふれる青年を好演していました。音楽も好みでした。序盤からヒロインが弾くドビュッシーの「パスピエ」にぐぐっと心をつかまれました。

マーティンは、エレンの美しさだけでなく、彼女を取り巻く知的な世界に惹かれていたのだと思います。エレンは自分で学ぶことには限界があり、教育を受けるべきだと諭しますが、圧倒的に教養の足りないマーティンは、小学校からやり直せと言われてあきらめ

自分で本を読んで猛勉強し、とにかく小説を書いて、書いて、書き続けます。マーティンが書く小説は、自分が生まれ育った貧困地区を舞台にした、シビアな世界を描いたもの。

最愛の姉にも「あなたの書く小説はあまりにつらすぎて、読みたいとは思わない」と言われてしまいますが、それが理由かどうかはわかりませんが、どこの出版社からもなかなか採用の返事がもらえません。

心から愛し合っていたマーティンとエレンですが、2人の違いが決定的になったできごとがありました。2人がデートで恋愛映画を見た後、エレンは「すてきな映画だった」とうっとりしますが、マーティンには作りものの世界としか思えません。

小説を書いていく中で、社会的な問題に目を向けるようになっていたマーティンは、聡明だと思っていたエレンが物足りなく思え、彼女を取り巻く世界にも疑問を感じるようになるのでした...。

どちらが正しいとか、正しくないとかではなく、エレンの愛を求め、距離を縮めるために努力してきたはずなのに、いつの間にか2人の間の隔たりが取返しがつかないほどに大きくなってしまった悲劇に、人生の皮肉と残酷さを思いました。

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