しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「シェル・コレクター」  アンソニー・ドーア

2017年04月18日 | 読書
「シェル・コレクター」  アンソニー・ドーア    新潮社     
 The Shell Collector         岩本正恵・訳

8編からなる短編集。

「貝を集める人  The Shell Collector」

12歳の時盲目になった少年は、その時眼科医から海岸で貝に触れさせてもらい魅了される。
貝類学者になる。
58歳で教授を引退し、ケニアのラム群島の小さな海洋公園に位置する草ぶき屋根の小屋に移り住む。
そこで、貝を集め指で愛で、穏やかに暮らしていた。
しかし、63歳の時、海辺に倒れていたアメリカ人女性ナンシーを助けた事で、暮らしが一変する。


「ハンターの妻  The Hunter‘s Wife」

ハンターの妻は動物に触れると、その動物の夢想が見えた。
それは死んだばかりの時が1番強かった。
ある時、事故で死んだ男マーリンに触れた時見えたのは、後ろに息子を乗せて自転車を走らすマーリンだった。
その時、マーリンかハンターの妻に触っていた人たちも同じ夢想を見る。
その後ハンターの妻は、人が死ぬと身内に頼まれその夢想を見せていた。
しかし、ハンターは何かのトリックだと言い信じなかった。


「たくさんのチャンス  So Many Chances」

ドロテア・サンファンは14歳。
「男にはたくさんのチャンスがある」と、父親が仕事を変えるので、引っ越すことになる。
「お母さんは大賛成だ」と言うが母親が賛成した事なんてないと思う。
引っ越し先は海辺の町で、少年たちは釣りをしていた。
ドロテアは、船を造ると言っていた父親が掃除夫をしているのを見る。


「長いあいだ、これはグリセルダに物語だった  For a Long Time This Was Griselda’s Story」

ローズマリーの姉グリセルダは、見世物の〈金物喰い〉の男と駆け落ちをする。
18歳だったので、警察は何もしなかった。
町の人たちの噂話が嫌で、母親は家から出なくなる。
グリセリダからは行く先々から毎月1通手紙が届く。
ローズマリーは結婚する。
10年後、母親が亡くなる。ローズマリーは手紙を見せていなかった。
どうせ帰って来ないのだから、と。
そして数年たち、〈金物喰い〉の興行が、また町に来る事になる。


「七月四日  July Fourth」
アメリカ人とイギリス人の釣り愛好家のグループが、競い合う。
それぞれの大陸で1番大きな淡水魚を先に釣り上げた方が勝ち。
負けた方は〈釣れない釣り師〉のプラカードを振りながら素っ裸でタイムズスクエアを行進する、というもの。


「世話係  The Caretaker」

35年間、ジョゼフ・サリービーの母親は息子が病気がちだと、家から出さない。
しかし1989年、リベリアは7年にわたる内戦におちいる。
1994年、母親が出掛けたきり帰らなくなり、ジョゼフは家を出て旅を始める。
そしてオレゴン州アストリアに辿り着く。
ジョゼフはトワイマン別荘の管理を任されるが、主人が戻って来た時、何もしていなくて追い出される。
それでも、その近くで暮らす。


「もつれた糸  A Tangle by the Rapid River」

マリガンは釣りに行く。
釣りに行くと言って、愛人の家に行っていた時もあるがその日は本当に釣りだった。
途中で郵便局の私書箱から愛人からの手紙を受け取る。
釣りをしている所を姪が通りかかる。
新聞に手紙を挟んでいたのを忘れて、その新聞を姪に渡してしまう。


「ムコンド Mkondo」

【ムコンド 名詞
流れ、流動、急流,、通過、疾走。
川の水、地面に勢いよく注ぐ水、ドアや窓を通る風、船の航跡、トラックの通過跡、動物の疾走などについて言う】

1983年10月、アメリカ人のワード・ビーチは先史時代の鳥の化石を入手するため、オハイオ州自然史博物館からタンザニアに派遣される。
ワードはそこで森を駆け回る女性ナイーマと出会う。
ナイーマはいつも「わたしを捕まえられる?」と言って走りだして行く。
ワードはナイーマを追いかける為に、走り始め20キロ走れるようになる。
やがて、ナイーマを追いかけ見つけたワードは結婚を申し込み、2人は結婚する。
オハイオにやって来たナイーマはあまりの違いに戸惑う。
最初の数か月は、ワードのことを思い、かろうじて失望から逃れる。
しかし、なにかを手に入れなければ、ここではやっていけないと思う。








優しく静かに語りかける物語。
一瞬一瞬の光や想い、美しさを表す小さな貝たち。
そして、釣りの話も多く、水の中で躍動する魚たち。
美しい瞬間を逃さず捕らえて心に刻み付けていけたら、豊かな心になれるだろうか。
しかし、語られることは結構寂しく厳しい。
全編を通して感じるのは、人生は思い通りには行かないこと。
こうしたい、こうありたいと思っていても、自分では予測不可能な事が起こったりする。
他人に左右されることも多く、人生は自分の思い通りには行かない。
それでも何とかなって行くもの。
気持ち的に救われる瞬間があると、それでいいか。
この物語も、そんな安らかな時間や、きらめいた時を見つけている。
ただ、現実的に考えると、問題の解決にはなっていない事もある。
その瞬間から覚めたら、またどうにもならない現実が待っていたりして。
それでも、人生はなんとかなって進んで行くのだろう。
どんなに他人に影響を受けても、それは他人の人生ではなく、自分自身の人生なのだ。

1番好きなのは「「ムコンド」
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