しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「決壊」 平野啓一郎 

2008年09月20日 | 読書
「決壊」 平野啓一郎  上・下巻 新潮社

会社員の沢野良介はお盆に妻と息子と一緒に小倉の実家に帰る。祖母の新盆だった。
公務員の兄、沢野崇も同じ日に実家に着く。
父は祖母の死が堪えたようで、鬱病の様子がみられ崇は病院で見てもらうことを勧めるが、良介はそれに反発する。
良介は子どもの頃から優秀で優しい兄が、現在は才能を活かしていない生き方に苛立ちを感じていた。
実家で話をする2人の考えはすれ違っていた。
良介はブログに悩みなどを書いていた。
偶然にそれを見つけた妻の佳枝は、自分に相談をしてくれないことの不満と、自分の知らない夫の姿に違和感を覚える。
そして、そのブログにコメントを書くようになる。
そしてもう一人、コメントを寄せる人物「666」がいた。
良介はその「666」と大阪で会う約束をする。
一方、鳥取にイジメに合っている中学生、北崎友哉がいた。
友哉は《孤独な殺人者の夢想》というHPを開き復讐心などを綴っていた。
そのHPの掲示板に、あなたの考えを実行に移す手伝いしたいとの書き込みがある。送信者の名前は「悪魔」だった。
友哉も「悪魔」と会う為に大阪へ向う。




人間の命を扱った重く暗い物語。
命が失われる物語は重くなるのは当然。そして、作り事ではなく現実社会でも多発しているから余計辛く感じる。
殺人者にはそれなりの理由があるのだろうか。
精神の病気の話しがあり、病気だから殺したのではなく、殺したから病気をいうのが分かる気がする。
殺人がテーマだが、心と言葉についても考えてしまった。
物語の中で、心情や感情をすべて言葉で表そうとしている感じがあった。
言葉や文章ですべてを表すのは難しい。表したと思っても違うものになっている時もある。
物語の中で「悪魔」は言葉と行動の一致を求めるが、心(気持ち、感情)と言葉が一致しているとは限らないだろう。
嘘をついているとかではなく、そんなコントロールが出来ないのが心だ。
警察の取調べを受ける崇も、責められるうちに自分の心が分からなくなってくる。
外界から影響されることも多い心。
心の中にあるものを何もかも表す必要はないだろう。
掘り起こさない方がいいこともある。
すべてを分かり合おうとするから無理が生じるのではないか。
自分の心だって分からないのに、他人の心が分かる筈がない。
そして、言葉に触発される人間がいることも事実。
実際の事件の後には愉快犯がたくさんでる。
しかし、この物語のように殺人まで行ってしまう人間はまだいない、と思いたい。

インターネットの怖さも書かれているが、これはもう充分に分かっていることだった。
その他にもマスコミや警察や身近な人など、怖さは人間の心に潜んでいる。

読んでいて、これはマイケル・スレイドのようだと思った。
本筋のストーリーの他に、なくても影響はないような論議や知識などが差し挟まれる。そして残酷な殺人。
さくさくとは読めないが先が気になり、結構一気に読んでしまう。

読み終わった後はズシーンと気持ちが重くなる。
理由のない殺人。
殺す方にはそれなりの理由があるのだろうが、それは勝手な理屈に過ぎない。
そんな殺人から身を守っていかなければならないのが現実なのだ。
これは「ゾディアック」に共通する。


表紙に書いてある文を読むとこの物語が分かるが、前半も終りのことが書かれているので、ネタばれされている様な気もするがどうなのだろう。
そういう次元の物語ではないということかも。

<上巻表カバー>
「2002年10月、全国で次々と犯行声明付きのバラバラ遺体が発見された。
被害者は平凡な家庭を営む会社員沢野良介。
事件当夜、良介はエリート公務員である兄、崇と大阪で会っていたはずだったが―。
絶望的な事件を描いて読む者に〈幸福〉と〈哀しみ〉の意味を問う衝撃作。」

<下巻表カバー>
「〈悪魔〉とは誰か?〈離脱者〉とは?
止まらぬ殺人の連鎖。
ついに容疑者は逮捕されるが、取調べ最中、事件は予想外の展開を迎える。
明かされる真相。東京を襲ったテロの嵐!“決して赦されない罪”と通じて現代人の孤独な生を見つめる感動の大作。
衝撃的な結末は!?」
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