しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「あなたに不利な証拠として」  ローリー・リン・ドラモンド 

2013年01月22日 | 読書
「あなたに不利な証拠として」  ローリー・リン・ドラモンド  ハヤカワ・ミステリ文庫
  ANYTHING YOU SAY CAN AND WILL BE USED AGAINST YOU      駒月雅子・訳

5人の女性警察官が主人公の10編の短編。
『キャサリン』
「完全」
22歳、警官歴15か月のキャサリン・ジョーバート巡査は、職務執行中に強盗を射殺する。
それは、“完全に手順にのっとり、事態を正しく処理した結果”だった。
その時、キャサリンはその強盗、ジェフリー・リュイス・ムーアの蘇生を試みていた。
ジェフリーのかけらは、常にキャサリンに留まっていた。

「味、感触、視覚、音、匂い」
警察官としての、5感。
それは生き抜く上でも不可欠なもの。
そして、子ども時代と今を繋ぐ物もその中に感じていた。
警察学校では色々なことを教える。
死の様相や匂いに対する心構えなど。
死の匂は自分の一部となり、子どもの頃の記憶と同じくらいリアルで生き生きしている。

「キャサリンへの挽歌」
キャサリンの夫、警察官のジョニー・シッポーンは殉職した。
その時も、職務を忠実に行い犯人逮捕に貢献したキャサリンは伝説になった。

『リズ』
「告白」
ジョージは59歳で、話好きな隣人だった。
警官は大変な仕事をしているから、好きだという。
そしてある時、ヴェトナム戦争で人を殺した話をする。
それは敵ではなく、ヴェトコンの娘をレイプした同じ軍人だと。
そして、後悔はしていないと。

「場所」
交通事故では悲惨は状況を見て来た。
その自分が、衝突事故に遭い足を負傷、相手は即死。
自分に落ち度はなかったが、警察を辞める。
どこか、静かに時間が流れる所に行きたいと。

『モナ』
「制圧」
家庭内で殺人事件が起きる。
兄を射殺したヴィクターは、父親も殺そうとしていた。
父と兄から苛められていたと主張するヴィクター。
モナはが説得に努めるが。

「銃の掃除」
父親は家庭では暴力的だった。
それを嫌悪しながらも、父親に似ている自分に気が付いていた。
被疑者への暴力から、停職処分を受け、夫が娘を連れて出て行く。
モナは銃の手入れをしながら、銃口を自分に向ける。

『キャシー』
「傷痕」
胸にナイフが刺さった状態で通報した女性マージョリー。
警察官になる前の準備期間として、〈被害者サービス〉にいたキャシーは現場に駆けつける。
捜査に来た殺人課のレイ・ロビロ刑事は、マージョリーの狂言で、自殺未遂だと結論付ける。
キャシーはそれには納得が行かなかったが、どうすることも出来なかった。
それから6年後、警察官になったキャシーに、再調査請求の担当を言いつかる。
それは、マージョリーの事件だった。

『サラ』
「生きている死者」
無残に殺された女性。
女性警察官は、その現場に集まり祈る事をしていた。
主婦のジャネットが残酷うに殺された事件では、その夫ヴィンスが犯人と目された。
7人の女性警察官がその現場に集まっていた時、ヴィンスと思われる男と友人が家に戻っていて、銃を持っていると思い友人を射殺してしまう。
しかし、相手は武器を持っていなかった。

「わたしがいた場所」
サラは警察を辞め、誰にも行先を知らせずに消える。
車で3日間走り、小さな町で貸家の看板を見つけ、そこを借り落ち着く。
そこのメキシコ人の大家のひ孫たちのルイーサ5歳とイサエル7歳とも親しくなる。
ある日イサエルが瀕死の怪我をする。
イサエルを取り巻く家族の思いが、サラの心に響く。






警察官として経験する事が静かにリアルに語られる。
事件は悲惨なことも多いが、それが淡々と語られる。
事件としてどう解決するかではなく、その時どんな心理かということが丁寧に書かれていく。
警察官は銃を持っているから、相手によっては身を守るために、それを使うこともある。
同じ女性として、被害者に同調してしまうこともある。
身体的にも精神的にも、厳しく辛い職業。
それを分かってくれる同僚や家族の存在が大きいだろう。
結構気持ちが暗くなってしまうが、こういう世界もあるのだと知る。
銃に対することが多く書かれている。
アメリカと日本はやはり違う。
しかし、常に銃を携帯することは、また違った心理状態になるようだ。
これは男女によっても違うのだろう。

最後の「わたしがいた場所」はそれまでとは趣が異なる。
それまでとは、環境ががらりと違うから、世界が違う。
あまりにもかけ離れた世界がそこにある。
それでも、人間の苦悩や罪は同じものがあるのだが。
しかし、それに対処する仕方も、世界が違えば当然違う。
人間はどこで生きるのが、本来の生き方なのだろう。そんなことも思う。

タイトルの『あなたに不利な証拠として』は、
アメリカで犯人逮捕の時に告知を義務づけられている、『ミランダ警告』から引用。
『あなたには黙秘する権利がある(You have the right to remain silent.)』に続く
『あなたの発言は法廷で不利な証拠として扱われる可能性がある(Anything you say can and will be used against you in a court of law.)』
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