しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「泣き童子 三島屋変調百物語 参之続」  宮部みゆき

2014年05月06日 | 読書
「泣き童子 三島屋変調百物語 参之続」  宮部みゆき   文藝春秋    

江戸神田三島町にある袋物屋、三島屋。
主人伊兵衛の姪おちかが黒白の間で聴く不思議話の第三弾。

「魂取の池」
神無月はじめの亥の日の炬燵開きの日。
黒白の間を訪れたのは、おちかと同じ年頃の文という娘だった。
文は年が明けたら嫁に行くと言う。
しかし、やきもち焼きが強く、それを心配した母親が文に語った昔話があり、それをおちかに聞かせる。
それは、悋気持ちの神様の話だった。

「くりから御殿」
神無月の末に、黒白の間に訪ねて来たのは、顔が鯉のぼりに似ている大阪屋長治郎。
長坊と呼ばれていた、子供の頃の話をする。
小さな漁師町の干物問屋〈三ツ目屋〉の長男で、10歳の時山津波が起こり、家族や友達を喪ってしまう。
そして、長坊は不思議な夢を見るようになる。

「泣き童子」
霜月の最初の子の日は、〈ねずみ祭り〉。
商売繁盛を願う大事な行事で、大黒天を祀り、ねずみの好物の大豆や小豆飯を供えて、みんなで祈念する。
そんな日に、飛び込みでおちかに百物語をしたいと、半病人のような白髪の老人が訪ねて来る。
迷う間もなくその老人が倒れてしまい、慌てて黒白の間へ通す。
老人と思われた男の年は55歳だった。
男は38歳の時から差配人をしたが、今は隠居の身だった。
20歳で結婚するが妻をなくし娘おもんと2人暮らしになり、その娘が18になった時の話。
大きな看板屋の店子から相談事が持ち込まれる。
それは、2年前に捨て子を引き取り育てていたが、その子、末吉が3つになっても口をきかない。
泣くこともなかったのに、ひと月ほど前から突然火がついた様に泣きだし、どんなに宥めても叱っても泣き止まないと言う。
しかし、何かの事でぴたっと泣き止み、また泣き出すと言う。
末吉を可愛がっていた、12歳になる姉のお七が泣く原因を付きとめようと観察してあることが分かる。

「小雪舞う日の怪談語り」
毎年師走に1度だけ行う怪談語りの会。
肝煎役の旦那、井筒屋七郎右衛門はそれを、心の煤払いと言っていた。
15年続いている会におちかはお勝と出掛けて行く。
そこで聞いた4つの話。
逆さ柱の話。
転んで誰かの手を借りて立つとどこかに連れて行かれてしまう橋の話。
病を見抜く目を持った母親の話。
おちかが知り合いで、この会に誘ってくれた岡っ引きの半吉の話。

「まぐる笛」
おちかが三島屋に来て3度目の正月を迎え、18になった。
鏡開きの頃、黒白の間に来たのは、国訛りがきつい若侍だった。
母親が7日前に亡くなり、その知らせが昨日来た。
その母親は、ある大事な役目を持っていて、それは人には語る事が出来ない。
しかし、それでは胸が塞がるようで、誰かに知ってもらいたかったと言う。
それは「まぐる」と言う、なんでも食らう化け物と関係していた。

「節気顔」
40を過ぎた温和な面差しの商家の奥さんで、名前はお末。
語ったのは、自分が10歳の時に、伯父、春一にあった事。
その伯父は長男だったが、放蕩三昧で家を飛び出していた。
ところが30半ばを過ぎた頃、突然改心して戻って来る。
1年だけ家に置いて欲しと春一は裏庭の物置で暮らし、奉公人の様に働き始める。
ただ春一は、二十四節気の日だけ必ず1日じゅう出掛けるけれど、放って置いてくれと言う。
お末は〈大雪〉の日に、たまたま物置で春一に出会うが、その春一は血だらけでそして顔が違っていた。







おちかの百物語も3冊目。
馴染みの登場人物も増え、すぐに物語に入って行ける。
しかし、前の話で忘れている事柄もあり、振り返って確かめなくてはと思う事も。
今回は、タイトルの「泣き童子」がインパクトが強くて面白かった。
世の中には不思議で怖いこともあるが、1番怖いのは人間なのだと改めて思う。
心の疾しさは、自分を追い詰める物を見たり聞いたりしてしまうのかも知れない。
その他の物語も、始まりはその人の気持ちからと言うのがある。
悋気や負い目。
気持ちは、自分でもコントロール出来ない時もある。
そんな時は、他の人に聞いて見るのもいいのかも知れない。
そんな事を思わせてくれる。
「くりから御殿」も、よくある気持ちだと思う。
自分を責めてしまうのは、優しい心を持っているから。
〈商人〉と名乗る男と、おちかの係りはこれからも続きそうだ。

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