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教養としての大学受験国語 (石原 千秋)

2009-11-10 23:03:03 | 本と雑誌

 タイトルが気になったので手にとってみました。
 まさに、実際の入試問題を読み、回答を考えるというプロセスを辿るという変わった形式の新書です。
 現代国語の入試攻略本のようでもありますが、内容は、人文・思想関係の文章を解釈しその主張を理解することを目的にしているので、現代思想の入門書のようでもあります。したがって、想定されている読者は受験生に止まりません。大学生や社会人もターゲットです。

 まず、著者は、本書の目的をこう語っています。

 
(p13より引用) この本の読者には、批評意識を持ってもらいたいのである。
 では、それを実践するためにはどうすればよいのか。それは、現代文を信じすぎないことだ。・・・それは、現代文に対して自意識を持つことだ。自意識を持つということは、ある文章を読解しながら、もう一方でその文章を相対化することである。では、どうすればそのような自意識が持てるのか。思考のための座標軸を持つことだ。そして、その座標軸の中に文章を位置づけることだ。

 
 ここでの座標軸の立て方の基本はいたってシンプルです。
 「二項対立」を表した座標上に論者の主張をプロットするのです。

 
(p26より引用) その文章の主張が二項対立のどこに位置するのかを見極めることは、評論を主体的に読むためにはぜひ必要なことなのだ。そのことで、評論との距離が持てるからである。そして何よりも、こういう単純な見取り図が、評論の理解を早める。

 
 対象となる文章の著者の考えを二項対立の座標軸上にマークすれば、それを挟む両サイドからその思想を眺めることができます。そういった多面的な視点を意識して取り入れることにより、自分自身の考え方を組み上げていくことができるのです。

 別の言い方をすれば、多くの評論はこの「二項対立」の図式を基本形として立論を進めているということにもなります。
 たとえば、以下のような論旨の表明がそれにあたります。

 
(p245より引用) 〈日本の近代国家は、「公共性」が確立する以前に、国家という「共同性」を性急に作ってしまったから、いまだに「本音」と「建前」に引き裂かれた二重構造が解消されないのだ、というか、利益共同体内部でしか通用しないはずの「本音」が何よりも重要視されてしまう〉というのが加藤の結論である。

 
 以上のような「二項対立を利用した思考方法」の説明以外にも、本書では、さまざまな現代批評文が紹介されています。
 その中から興味深いものとして、「ポストモダン思想の特徴」についてのフレーズを書き留めておきます。

 
(p178より引用) 上野千鶴子が「真理」ではなく「妥当性」を現代社会(民主制)の政治思想を支える基本原理と見なしたように、岩井克人は「商品」ではなく「広告」を現代社会(資本主義)の経済思想を支える基本原理と見なしたのである。実体のあるものからふわふわした記号へという流れが、ポストモダン思想の特徴である。バブリーと言えば確かにバブリーな思想で、不況とともに去る運命にあった。世の中は、いま情報という新たなモノに活路を見いだそうとしている。人文科学も、カルチュラル・スタディーズという情報産業に参入したところだ。

 
 バブリーといえば、確かに一時期、糸井重里氏や川崎徹氏といったコピーライターが脚光を浴びた「広告ブーム」の時代がありましたね。

 さて、本書、(冒頭のコメントの繰り返しになりますが、)「現代国語」の大学入試問題を材料にした現代思想の概説書と捉える人もいれば、現代思想の基礎知識を活用した「現代国語」の入試対策本と考える人もいるでしょう。

 企画としては面白い趣向の本ですが、入試対策本としてはちょっと難解だと思います。
 本書を読解できる受験生であれば、現代国語はかなり得意な生徒でしょう。逆に、現代思想の入門書だとすると断片的で体系的整理に欠けると言わざるをえません。
 残念ながら私には、「二兎を追うもの・・・」という印象が残りました。
 
 

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