児童心理治療施設「青森おおぞら学園」施設長 鳴海明敏さんが答えて下さいます
鳴海さんは、子育て講座の講師など、私たちにもわかりやすく優しくお話してくださる、信頼できる方です。
Q 小1の支援学級在籍の男の子です。食事中飲み物をこぼすと、父親は「気を付けなさい!」と注意したり叱ってばかりです。学校や療育施設からは、失敗しても「すぐふけたね。」と励まし褒めて接するようにとアドバイスされていて、私はそのようにしているのですが、そのことを父親に伝えても実行してくれません。子どもとの関わり方についての理解を共有するには、どうしたらよいですか?
A 我が子の成長を願うお母さんの気持ちがとても伝わってきました。でも、質問を読み返しているうちに、「父親と母親の主導権争い」ではないかと思えてきました。私は、「家庭の機能」が果たせていれば主導権を握るのはどっちでもいいと思っています。子どもの成長にとって大事なことは、どちらが主導権を握るかではなく、訳もなく緊張したりすることなく、毎日安心して生活出来ることだと思っているからです。
両親が言い争いをしていると、子どもは不安になり、「自分が悪いんだ」と思って自分のことを責めたり自信を無くしてしまいます。まだ状況を良く理解出来ないので、とにかく自分が悪いと思ってしまうんですよねぇ。
アルコール依存やDVなどの問題などを抱える家族を、「機能不全家族」と呼ぶことがあります。家庭内にいつも緊張感が漂っていて、団欒したりお互いを支え合うという「家庭の機能」が十分に備わっていない家族のことです。このような家族の中で育つ子どもたちは、①家族の期待を一身に背負った「ヒーロー」、②家族の問題を自分自身の問題行動として行動化してしまう「スケープゴート」、③そこに存在しない振りをして生き延びようとする「ロストチャイルド」、④おどけた仮面をかぶって不安をかくして生きる「クラウン」、⑤ひたすら親や周囲の面倒をみようとする「ケアテイカ―」などのように、その子本来の生き方が出来ずに、家族の中で「特別な役割」をとるように強いられ、成長するにつれてどこかに無理が生じてきて、生きづらさに苦しむことになると言われています。わが子にそんな思いをさせたくはないですよね。
自分の方が正しいと思っているときには、相手を変えようとしがちですが、今の状況をなんとかしなきゃいけないと思った方が、自分自身を変える努力をする方が簡単です。自分が変われば、相手も変わります。「励まして褒めて接する」というのは、いいヒントになりそうですね。