吉田松陰、 田中河内介、 真木和泉守
すごい先生たち-30
田中河内介・その29 (寺田屋事件ー18)
外史氏曰
【寺田屋の惨劇ー2】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/c8/5c515038220e374f2a46bda4e9eae57a.jpg)
2008.5.21 (旧暦 4.23 寺田屋事件の日は 新暦では 5.21にあたる) の寺田屋
階下に呼ばれた造士舘党の四人の内、柴山・ 田中は上意という不意打ちで斃され、有馬新七も道島との串刺しで斃れたが、橋口壮助だけが一人で必死に闘っていた。
森山新五左衛門は、鎮撫使の来た時は、厠(かわや)にいたが、有馬新七等の激闘するのを見て、直ちに一尺三寸の脇差を抜いて加勢、暫く戦ったが、数十創を被って斃れた。
【 森山新五左衛門永治は 森山棠園の子で、精忠組の士である。久光の行列に加えられる事を望んだが、許されず、自分の才覚と費用で国を出て大坂に着いた情熱の士である。 息子の死を知った父森山新蔵( 四十二歳 )は山川港の船中で絶望憤慨して自刃した 】
橋口壮助は肩より乳まで斬り下げられ気息奄々たるものがあった。 奈良原も又肩に創を負い返り血を浴びて壮助の傍に立っていた。 壮助は奈良原に 「 水を一杯くれ 」 といった。奈良原が水を与えると、うまそうに飲んで 「 俺はもう助からぬ。今より後 天下の事は君達に頼んだ 」 と言って瞑目した。
乱闘が始まる前後、寺田屋前東側近くに架かる蓬莱橋を通る牛車の、がらがらという音がものすごく、奥座敷の真木らの志士団や二階の薩摩の志士等は、店先の斬り合いの物音に気付かなかった。 しかし、激しい乱闘に怯えた寺田屋の雇人らが、店の前に逃げ出して大声で泣き喚(わめ) きだした。
大山格之助は二階からの助勢を防ぐために、大刀を按じて、階下の傍らに伏し、階段を下りてくる者を待っていた。
店の前での大声の喚(わめ) き声に、ようやく何だか変だぞと気付いた 弟子丸(てしまる)竜助が、様子を見に階下へ降りてきたところを、潜んでいた大山格之助が、手練の早業でその腰を薙(な) いだ。 創は大変深いが、竜助は屈せず、刀を抜き暫く奮戦したが、多勢に囲まれてついに斃れた。
続いて、橋口伝蔵が下りてくると、またもや 格之助がその足を薙いだ。 伝蔵は重痍を被るも屈せず、片足で飛び廻りながら縦横に斬りまくった。 彼の刀が、鈴木勇右衛門の横鬢(びん)を切り耳をそぎ落とした。 これを見た勇右衛門の長男昌之助が斬りかかって激闘し、遂に伝蔵を斃した。
二階の階段の下り口近くで是枝万助の牛皮腹巻の着用を手伝っていた西田直五郎が、階下の物音に気付いて、刀を提げて階段を一二段下りたところを、上床源助が下から槍で突き上げた。 直五郎はころげ落ちたが、少しも屈せず、刃先が簓(ささら)のようになるまで奮闘して息絶えた。
既に新七、壮助、竜助が倒れ、次いで直五郎も斃れ伏し、最後に二、三人を相手に奮戦していた伝蔵も、討ち死にした。
新七、壮助、竜助、伝蔵、直五郎らが激しく抗戦したので、鎮撫使側も 有馬と田楽刺しにされた道島が即死したほか、森岡善助と山口金之進が重傷を負い、その他の者もどこかに傷を受け、無傷の者は大山格之助と鈴木昌之助の二人のみであった。
二階の志士たちは出動準備に追われるままに、初めは階下の出来事に気付かなかったが、外の蓬莱橋を渡る牛車の音や、寺田屋の雇人らの悲鳴や叫喚に、異変が起きた事を覚った。
その異様な喧騒に、一挙がばれて町奉行の配下が押し寄せてきたのかとも思った。 同志の一人、美玉三平が 「 敵はこの家に火をかけたぞ。 油断するな 」 と注意した。
一同は鳴りを静めて身構えていると、年かさの柴山竜五郎が、そーと 階下をのぞいた。
鮮血を浴びた奈良原喜八郎が階下からそれを見つけて、「 竜五郎どん、しばらく待ってくれ、上意だ、久光公の前で詳しい話をしないか、公も同意だ、一緒に来てくれ、頼む 」
だれも返事をしない。
睨(にら) み合いの状態で しばらく時が過ぎた・・・・
やにわに、喜八郎が、手にした刀も腰の小刀も投げ捨て、諸肌脱ぎになり合掌しながら、階段を一段一段と上って行った。
「 たのむ! 頼む! やめてくれ! 」
ついに奈良原が階段を上り詰めた。 そして二階中央の板の間まで来ると、そこに腰をおろして、
「 有馬どん達は、君命に背いたので 上意討ちした。 お前達には何も敵意はない。 君命だから、皆早く京都藩邸に来るように。 そこで、決起の趣旨を久光公の前で述べよ。 それが一番良いと思うが、どうか! 」
「 君命 」 と聞いて、西郷信吾と伊集院兼寛の二人が真先に刀を置き、階下へ下りて行った。
だが、他の大勢の者は 刀の鯉口を切ったままで睨みつけている・・・・
柴山竜五郎が 親友の喜八郎へ 「 わかった。 皆で相談するから、下で待っていてくれ! 」
二階の志士たちは協議に入った。
いろんな意見が出た・・・・
次第に 以前の燃え上がるような意気は 挫(くじ) け散って行く。
しかし、なかなか結論が出ない・・・・・
つづく 次回
すごい先生たち-30
田中河内介・その29 (寺田屋事件ー18)
外史氏曰
【寺田屋の惨劇ー2】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/c8/5c515038220e374f2a46bda4e9eae57a.jpg)
2008.5.21 (旧暦 4.23 寺田屋事件の日は 新暦では 5.21にあたる) の寺田屋
階下に呼ばれた造士舘党の四人の内、柴山・ 田中は上意という不意打ちで斃され、有馬新七も道島との串刺しで斃れたが、橋口壮助だけが一人で必死に闘っていた。
森山新五左衛門は、鎮撫使の来た時は、厠(かわや)にいたが、有馬新七等の激闘するのを見て、直ちに一尺三寸の脇差を抜いて加勢、暫く戦ったが、数十創を被って斃れた。
【 森山新五左衛門永治は 森山棠園の子で、精忠組の士である。久光の行列に加えられる事を望んだが、許されず、自分の才覚と費用で国を出て大坂に着いた情熱の士である。 息子の死を知った父森山新蔵( 四十二歳 )は山川港の船中で絶望憤慨して自刃した 】
橋口壮助は肩より乳まで斬り下げられ気息奄々たるものがあった。 奈良原も又肩に創を負い返り血を浴びて壮助の傍に立っていた。 壮助は奈良原に 「 水を一杯くれ 」 といった。奈良原が水を与えると、うまそうに飲んで 「 俺はもう助からぬ。今より後 天下の事は君達に頼んだ 」 と言って瞑目した。
乱闘が始まる前後、寺田屋前東側近くに架かる蓬莱橋を通る牛車の、がらがらという音がものすごく、奥座敷の真木らの志士団や二階の薩摩の志士等は、店先の斬り合いの物音に気付かなかった。 しかし、激しい乱闘に怯えた寺田屋の雇人らが、店の前に逃げ出して大声で泣き喚(わめ) きだした。
大山格之助は二階からの助勢を防ぐために、大刀を按じて、階下の傍らに伏し、階段を下りてくる者を待っていた。
店の前での大声の喚(わめ) き声に、ようやく何だか変だぞと気付いた 弟子丸(てしまる)竜助が、様子を見に階下へ降りてきたところを、潜んでいた大山格之助が、手練の早業でその腰を薙(な) いだ。 創は大変深いが、竜助は屈せず、刀を抜き暫く奮戦したが、多勢に囲まれてついに斃れた。
続いて、橋口伝蔵が下りてくると、またもや 格之助がその足を薙いだ。 伝蔵は重痍を被るも屈せず、片足で飛び廻りながら縦横に斬りまくった。 彼の刀が、鈴木勇右衛門の横鬢(びん)を切り耳をそぎ落とした。 これを見た勇右衛門の長男昌之助が斬りかかって激闘し、遂に伝蔵を斃した。
二階の階段の下り口近くで是枝万助の牛皮腹巻の着用を手伝っていた西田直五郎が、階下の物音に気付いて、刀を提げて階段を一二段下りたところを、上床源助が下から槍で突き上げた。 直五郎はころげ落ちたが、少しも屈せず、刃先が簓(ささら)のようになるまで奮闘して息絶えた。
既に新七、壮助、竜助が倒れ、次いで直五郎も斃れ伏し、最後に二、三人を相手に奮戦していた伝蔵も、討ち死にした。
新七、壮助、竜助、伝蔵、直五郎らが激しく抗戦したので、鎮撫使側も 有馬と田楽刺しにされた道島が即死したほか、森岡善助と山口金之進が重傷を負い、その他の者もどこかに傷を受け、無傷の者は大山格之助と鈴木昌之助の二人のみであった。
二階の志士たちは出動準備に追われるままに、初めは階下の出来事に気付かなかったが、外の蓬莱橋を渡る牛車の音や、寺田屋の雇人らの悲鳴や叫喚に、異変が起きた事を覚った。
その異様な喧騒に、一挙がばれて町奉行の配下が押し寄せてきたのかとも思った。 同志の一人、美玉三平が 「 敵はこの家に火をかけたぞ。 油断するな 」 と注意した。
一同は鳴りを静めて身構えていると、年かさの柴山竜五郎が、そーと 階下をのぞいた。
鮮血を浴びた奈良原喜八郎が階下からそれを見つけて、「 竜五郎どん、しばらく待ってくれ、上意だ、久光公の前で詳しい話をしないか、公も同意だ、一緒に来てくれ、頼む 」
だれも返事をしない。
睨(にら) み合いの状態で しばらく時が過ぎた・・・・
やにわに、喜八郎が、手にした刀も腰の小刀も投げ捨て、諸肌脱ぎになり合掌しながら、階段を一段一段と上って行った。
「 たのむ! 頼む! やめてくれ! 」
ついに奈良原が階段を上り詰めた。 そして二階中央の板の間まで来ると、そこに腰をおろして、
「 有馬どん達は、君命に背いたので 上意討ちした。 お前達には何も敵意はない。 君命だから、皆早く京都藩邸に来るように。 そこで、決起の趣旨を久光公の前で述べよ。 それが一番良いと思うが、どうか! 」
「 君命 」 と聞いて、西郷信吾と伊集院兼寛の二人が真先に刀を置き、階下へ下りて行った。
だが、他の大勢の者は 刀の鯉口を切ったままで睨みつけている・・・・
柴山竜五郎が 親友の喜八郎へ 「 わかった。 皆で相談するから、下で待っていてくれ! 」
二階の志士たちは協議に入った。
いろんな意見が出た・・・・
次第に 以前の燃え上がるような意気は 挫(くじ) け散って行く。
しかし、なかなか結論が出ない・・・・・
つづく 次回