Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.483:ラーニングコモンズをめぐる冒険(大学教育学会第35回大会参加記)

2013年07月15日 | セミナー学会研究会見聞録

(写真は名古屋大学ラーニングコモンズ紹介Webサイトより)

■ラーニングコモンズとは

企業の人材開発に関わっている方にはあまり馴染のない言葉かも知れません
が、最近、大学では「ラーニングコモンズ(以下LCと略)」という言葉が
話題となっています。「多様な利用形態や学習スタイルに対応するために、
学習支援サービス、情報資源、設備を総合的にワンストップで提供する学習
支援空間(日本私立大学協会 教育学術オンライン(http://goo.gl/7wO1H)
より引用」というのが一般的な定義のようです。当初は情報支援サービス
の利便性から図書館の一角にLCを設置するケースが多かったのですが、最近
は図書館以外に設置する大学も増えています。
6月8日~9日に東北大学で開催された大学教育学会第35回大会では、このLC
に関する発表や情報交換の場が数多くありました。そこで今回のメルマガで
は、本大会でのLC関連の発表を整理し、大学ごとに取り組み状況をまとめて
みました。

1)名古屋大学の取り組み(近田政博先生のラウンドテーブルでの報告より)
http://lc.nul.nagoya-u.ac.jp/
名古屋大学のLCは、入口脇にタリーズコーヒーのある中央図書館の中に2009
年オープンしました。同大学の図書館事務部はパート・派遣社員等含め総勢
55名、さらに図書館付属の研究開発室もあり充実した組織体制になっています。
LCには、共同学習スペース、大学院生によるサポートデスクなどがあります。
開設以降、約10%図書館の利用者が増加したそうです。しかし、箱ものを作っ
たからといって利用が劇的に増えるものではないので、学習の中でいかに図
書館を活用すべきかをPRするために教員向けのポスターチラシ等を作成し、
授業と連動した活用を促進しているそうです。

2)三重大学の取り組み(長澤多代先生のラウンドテーブルでの報告より)
http://goo.gl/GiJNr
学士課程の在籍者数6,142名と国立大学としては比較的規模の小さい大学で
すが、PBLを導入した授業科目が学士課程の科目のうち37.5%を占める等、
様々な教育改革を推進していることで有名なのが三重大学です。附属図書館
は3階建てで、

1F コモンズエリア(話してもOK)
2F Quietエリア(静かにひそひそ、PCもOK)
3F silentエリア(PCのタイピングもNG)

と階ごとに学習の目的に応じた制限を設定しています。また図書館に隣接す
る情報科学館という建物内には6つのPBL演習室があり、台形型の机、可動
式のホワイトボードなどを設置しているそうです。また同館2FにLCのエリ
アを設け、PCステーション、グループ学習スペース等を設けています。そう
したLC内での学生の学びの実態について、現在観察調査を実施しています。
それによるとオープン当初は学生が慣れていないためか、LCなのに黙って勉
強している、せっかくの可動式の机を動かさないで使う等の状況が観察され
たそうです。

3)東北大学の取り組み(米澤誠先生のラウンドテーブルでの報告より)
http://goo.gl/KZIvF
東北大学のLCの特徴は、アフォーダンス(アフォーダンスについての解説は
http://goo.gl/cBzzXを参照のこと)を意識して設計されている点にありま
す。つまりLCという空間にいることで、学生の自主学習やグループ学習を自
然に誘発するような設計となっています。東北大学で最初にLCを立ち上げる
際、最も反対したのは法学部の先生方だったそうです。「静かに六法を開き
勉強するのが、正しい図書館での学びの在り方だ」という固定観念が法学部
の先生には強かったそうです。しかし、実際ふたを開けてみると、法学部の
学生が最もLCを活用し、法律の判例などをグループで学習しているそうです。

4)同志社大学の取り組み(清水亮先生の自由研究での発表より)
http://goo.gl/Ou4Ze
同志社大学では2012年に良心館という3F建ての日本最大級のLCをオープン
しました。設備のみならずサポート体制など、現在考えられるLCの機能と
サービスをほぼすべて網羅した大変素晴らしい施設となっています。以前よ
りPBL等の学生が主体的に取り組む授業を積極的に取り入れている大学なので、
こうしたLCの空間が生きてくるのだと思った次第です。上記URLをクリック
すると同大学のLCのパンフレットがダウンロードできますので、ぜひ参照願
います。

5)大阪大学の取り組み(堀一成先生の自由研究での発表より)
http://goo.gl/mWabl
大阪大学の豊中キャンパスにあるLC「コモンズ・スペース」を、教員・図書
館員・TAがどのように協働して運営しているかについて報告いただきました。
図書館では、レポートの書き方講座やプレゼン講座を、教員・職員・TAが協
働して運営しているそうです。90分×3回の講座で、年々履修者は増加して
いるとのことです(H24年は105人)。教員が教材開発、職員が広報・事務処
理を担い、TAが講師や講師補助を担当と、見事な協働&分業体制が確立して
います。またレポートの書き方以外にも、論文の書き方、文献の読み方、プ
レゼン入門等を実施しているそうです。こうした協働はLCという空間ができ
たことにより実現できた面もあるそうです。

6)千葉大学(竹内比呂也先生の自由研究での発表より)
http://alc.chiba-u.jp/concept.html
千葉大学ではアカデミック・リンクというコンセプトのもと、アクティブ
ラーニングスペース・コンテンツラボ・ティーチングハブの3つの機能を用
いて、主体的学びの実現を目指しています。今回の発表では、図書館に隣接
する新設のN棟に設置したアクティブラーニングスペースが学生に与えた影
響をアンケート調査で明らかにし、報告いただきました。図書館での学習に
好ましい場所は?という質問には、静寂エリアを選択した学生が27%だっ
たのに対し、会話可能なエリアを選択した学生は40.6%であったそうです。
また静寂エリアで一人で勉強している学生であっても、分からないことがあ
ると会話可能なエリアに移動して仲間に質問するなど、コモンズ内において
学習のスタイルを柔軟に変えて空間を活用する状況が見られたそうです。
また「シーンとした図書館よりガヤガヤしている方が行きやすい」と回答す
る学生もおり、LCの登場がインセンティブ・デバイド(LCのような施設を作
ることにより、学びに対する意欲の格差がさらに広がってしまうという問題)
の軽減にも貢献していることが分かりました。さら学生がホワイトボード何
かを書き込んで学習している姿が、他の学生に対し、勉強に対する意欲を喚
起している実態も明らかになったそうです。

7)大正大学(小幡誉子氏の自由研究での発表より) 
http://goo.gl/2u110
学生数も少なくキャンパスも狭小、LCを設置するには不利な環境の中で理想
的な実践を行っているのが大正大学です。設置にあたっては、教務・図書
館・キャリアセンターの若手職員と教員が協働で検討し、その後の管理・運
営を行っています。もともと「大学が狭く、学生の居場所がない。学生同士
がキャンパス内でコミュニケーションをとる場所がない」という課題を解決
するためにLCづくりに着手した点が、大きな特徴となっています。「従来の
図書館は敷居が高くて近づけない」と考える学生でも入りやすい場所にする
ため、LCの中にはコンシェルジュを置き、学習の相談のみならず、就職支援
等も行っているそうです。ちなみにLCは図書館とは別の場所に設置している
そうです。

■感想・コメント
ラーニングコモンズの「コモンズ」とは本来「入会地(いりあいち)」とい
う意味だそうです。入会地とは村落共同体の中で、みなが共同で使う土地の
ことです。LCでの共同体の構成員には、学生だけでなく、職員や教員を含め
た学びに関する様々なステイク・ホルダーが含まれます。今回発表後のディ
スカッションの中で、東北地区の大学図書館協議会のメンバーの方が「協議
会の打ち合わせでLCを使用した際、LCを考えている我々自身が今までそれを
使ったことがないことに気が付いた」と述べていたのが大変印象的でした。
学生だけでなく、教員や職員、場合によっては、大学の外の人も含めてこの
空間を使ってこそ、本来の意味でコモンズになるのではないかと思った次第
です。そして、多くの大学の話から、LCの設置・運営に関するポイントは

・設備を作っただけではだめ
・教員と様々な部門の職員の協働が重要
・教員の中の学習観を変える

という点にあることを認識しました。

+「天板が白く、長方形でない机」
+「可動式のホワイトボード」
+「ビビッドな色のおしゃれな椅子やソファ」
+「透明な仕切り」
+「白い壁」

といったハード面さえ整えば、LCは出来上がり!というイメージが先行して
いますが、実はそうした設備より、当たり前ですが人や組織が大事なのです。

といった事を書きつつ、10年前にeラーニングの導入で色々と検討を重ねて
いた際も似たような事を言っていたのを思い出しました。
(文責:コガ)

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