【教育を追う】「改革」私の意見〈57〉
憲法や緑の学科も
国分 一太郎④(児童文学者)
――カリキュラムの改革案として小学校低学年で理科、社会科を分けずに「合科」にする意見もありますが。
「中教審の教育内容等小委員会の中間報告で『合科』案が出ていますね。ぼくは合科ではなく読み方教育や綴方教育でやれって言っているんです。小学一年から四年までの間に発音や、文字、文法の知識を与えて、日本語の基礎をしっかり身につけさせる。と同時に、読本で社会や自然、人間についての初歩的な知識を教えるのです。
昔の四年生の国語読本には、例えば横浜港についての記述で、『東京の西南八里のところに一大貿易港があって……商船の出入り絶えることなく……』なんて書いてあった。これを読みながら『貿易とは何か』を学習できたわけです。こうした社会や歴史、地理、自然に関する内容を入れた国語読本を与えるのです。これが将来の各教科で学ぶ科学的概念や法則の土台になると思います。西ドイツやフランスの国語の教科書には、昔から社会科や理科的な教材が入っているそうですよ。
書くことについては父母の働く姿などを事実に即して綴方させる。とにかく事実と結びついた読み書きが大事です。だから四年生までの国語の時間は週に十数時間が必要です。
書くことで、さらに言えば、子どもたちに手紙をせっせと書かせるのもいいでしょう。ふるさとのおじいさん、おばあさんからリンゴやカキを送ってきたら、お礼の手紙を書くとかね。手紙は生活に根ざしており、お互いの心を通わせるのでいいですよ。子どもに手紙を奨励するために、郵便代を特別に安くする『子ども郵便』なんてのを、郵政省は考えてくれないかなあ」
――いまの教科の構成は基本的に明治以来変わっていませんね。
「そうなんです。教育基本法の言う『良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない』を具体化するために、五年生から憲法科を置くべきです。小学校高学年で理解できる範囲で社会の事実に即して憲法の精神を教える。憲法を知っておくことは国民の義務であり責任ですからね。
『緑の学科』というのもどうでしょう。エコロジーですな。人類は自然なしでは生きていけないこと。自然保護の大切なことを教えるのです。教科の問題は、それこそ人類的な視野で再構成すべき時期に来ていると思いますね」(つづく)
1984年(昭和59年)7月13日(金曜日) 毎日新聞
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