ツルピカ田中定幸先生

教育・作文教育・綴り方教育について。
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綴方理論研究会
国分一太郎「教育」と「文学」研究会

《つづる5》  四 すべての子どもの心のケアのためにも

2015-01-16 12:05:10 | Weblog

 

つづる5

《子どものうちに育てておきたい表現力》

四 すべての子どもの心のケアのためにも

「週一日記」のすすめ―1

 

                 日本語教育部会協力研究所員 田 中 定 幸

 

 

 

(一)学び合える集団をつくる

 

 今は、「安全」「安心」がキーワードの時代。新しい学年を受け持ったとき、まず、子どもたちの安全を保障し、心を開かせ、安心して学校生活をすべての子がおくれるように心がけなければなりません。

 それは、クラスのなかの一番弱い立場にいる子どもたちに目を向けながら、一人ひとりの存在を確かめながら「仲間づくり」「学級づくり」をしていくことです。ほおっておいては、クラスはあっても「学習集団」はできてはいないのです。

その時に大きな力を発揮するのが、子どもたちが書いてくれる日記や作文、詩です。

 日記は、子ども自らが書きたいことをえらんで書くことが原則になりますから、えらんだ題材、書かれている内容、その書きぶりなどから、その子の生活や願い学習の状況、友達との関係などがみえてきます。日々の心の変化の一部を知ることもできます。

 一人ひとりの子どもの生活や願いを知ればしるほど、その子にあった教育ができる。

 このことばは、ずっと日記を子どもたちに書いてもらってきた、わたくしの経験から

生まれたものです。

 こどもたちの書いた日記は、教師が読んで、「赤ペン」を入れて書いたこどもを励ますだけでなく、書かれたものを読んだり、学級通信や一枚文集に紹介したりすることで、書き手も生活に対する思い、願い、見方・考え方をみんなのものとすることができます。

 お互いの生活や願い、その日その時の気持ちを知ることで、心をひらき、安心して生活をおくることも、共感し共鳴する心も育ってくるのです。

 大震災の後、「災害に遭った子どもたちの心のケアにどう取り組むか」(注1)が、問題になっています。今回の大震災の特徴から、今後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の増加が予測されています。その時、学校でのPTSD未然に帽子するために必要な支援として 「(1)安全・安心の確保。(2)個々の子どものへの理解。(3)特別支援教育に学ぶべきユニバーサルデザイン教育。」があげられています。

 さらに(3)のユニバーサルデザイン教育で必要な具体的な配慮として、①クラス一人ひとりが、安心していられる場所を作る。②好きなこと、得意なことで教師、仲間とつきあえる。③クラス一人ひとりに活躍の場がある。④不快な感情を言葉で表現できる機会がある。

と書かれています。

 今、こころのケアの必要なのは、災害にあった子どもだけではありません。インクルーシブな教育、人権教育などの充実をもとめられ、さらには人間理解を深めるという観点から、「具体的な配慮」を可能にしてくれるのが、日記です。

「指導要領」には明記されてはいませんが、教育をつかさどる教師の大切な仕事として、「日記指導」を上位にいちづけて、とりくんでみてはどうでしょう。忙しい毎日、一週間に一回は書く、「週一日記」からはじめましょう。

 

(二) スタート前の準備

 

1 教師が語ることから

 日記をこどもたちに、生活の一部として書いてもらうようにするためには、まず、教師がこどもたちにたくさんのことを語ることが大切です。新学年・新学期のスタートにあたっては、まず教師の思いや願いを、できれば通信か「一枚文集」に文章を書き、それを読みながら語ることが大事だと思います。

 

 進級おめでとう/一人ひとりの力とよさを出し合って/すばらしいクラスをつくっていきましょう

「田中定幸先生」と、五年一組の担任が発表になった時、どんな気持ちでしたか。一年生の時に習った、石川先生や大澤先生がよかったとか、四年の時の受け持ちの先生方がよかったとか、新しく武山小学校へきた若さモリモリの米田先生がいいなと思った人もいたかもしれません。

 でも、がまんしてください。一人ひとりみんなの気持ちを聞いていたら、武小のクラスの担任を決めることはできません。学校全体のことをよく考えて校長先生が決められたのです。その中で、みんなはせいいっぱいやるほかはないのです。先生が気にいらないからといってしょげていては、何も学ぶことはできません。

 先生たちも、好きな子ばかりをえらぶことはできません。また、そんなことはしません。みんなも好きな友だちを集めてクラスを作ることは出来ません。

 クラスがえになった仲間35人と先生が、力を合わせていいクラスをつくっていくのが、だいじな『人を育てる』学校教育の目標なのです。

 ぼくの好きな言葉に、国分一太郎先生の言葉があります。(注2)

…君ひとの子の師であれば/とっくに それは ごぞんじだ/あなたが 前に行くときに/子どもも 前を向いていく。/ひとあし ひとあし 前へ行く。

 先生のぼくががんばれば、子どももきっといい子に育つ。まず、教師ががんばらなければだめなのだよ。という意味です。

 先生も頑張ります。

 井上 友美さんも がんばってください。(以下、クラス全員にこう、呼びかける)

 

 こんな通信を書くのです。そして、よいクラスをつくるためにはどうしたらよいか子どもたちに問いかけます。子どもたちに話させ、考えさせます。考えを引き出すようにします。そして、そういうクラスをつくるために、先生からは、一人ひとりの気持ちを大切に育てていくために「日記」を書いて欲しいと提案します。

 日記を書くと、こんなよさがあると話します。

・先生が日記によむと、たくさんのことを知ること、学ぶことが出来る。

・「赤ペン」によって、感想をつたえられる。

・書いたひとの気持ちや心がわかったとき、その人にあった励まし方ができる。その人のよさをみんなに伝えることができる。

・友だちの日記を読むと、友だちも、同じようによろこんだり、かなしんだり、心配したり、驚いたりしながらくらしていることに気づくこと。同じような出来事にであっても、違った考えをもつ人もいること。それぞれの家には、それぞれの生活のしかたがあること。友だちの、すばらしい見方・考え方を学べること。

・おたがいが知り合うことで、学級としての「なかま」ができること。学び合える「集団」ができること。

・そして、「安心」「安全」な学校生活が送れること…。

 

 こういったことを話したからと言って、すべて伝わるわけではありません。けれども、日記を書き、それを読み合うことは、いじめのない、一人ひとりが大切にされる学級ができることをしっかりと伝えます。

 このときの話は、文字に固着させて、「学級通信」にも書いておきます。それを目にする保護者や家族の人たちにも伝わるようにします。所信をしっかりと伝え、指導の柱としての位置づけをします。

 

2 日記帳をプレゼント

 進級プレゼントとして日記帳を用意します。もちとん後で、集金してもかまいません。日記帳を教師が用意するのは、同じ物であれば扱いやすいこと。そして、子どもたちが、書きやすいように、また、書いた達成感が味わいやすいように、罫線の巾の広い物、マス目の大きいものをはじめは用意します。そして、書き方に津言っても共通の翌即の元に書き進めるようにします。

 すぐに書かせず、初日は、日記帳のプレゼント。そして、1ページ目から順にページを書きこませます。表紙には、自分の好きな名前をつけて、1冊目、あるいは№1と書き入れさせます。

 そして、この次に、新しい学年になって心が動いた日のことを書こうと予告しておきます。日記帳はそれまで大事に教師が預かっておきます。こどもたちに持たせておくと、書く当日、忘れてしまう子が何人か出てしまうからです。

 

(三) はじめて書く日記

 

1 新しい学年になって「心が動いた日のこと」を

 予告しておいた日の朝の会に、日記帳を子どもたちにもどします。そして、今日は、この日記帳に、はじめて書いてもらうことを告げます。

 新しい学年になって心がうごいたこと、ドキドキした日のことを書こうと話します。始業式の日のこと、その日、家に帰って話したこと。桜の木の下で出席をとり、自己紹介をしたときのこと。先生とすもうをとったときのこと、授業のこと、いろいろと思いださせ、その中から一つえらんで書くようにすすめます。

 書く時には、今日の日付、曜日、天候を一行目に書くように伝えます。そして、題をつけて書くように指示します。日記にも題をつけるのは、書きたいことがらを生活の中から「切り取って」、そのことだけを書くように習慣づけるためです。

 題の後には、名前を書いてもらいます。「自分のノートなのに、なんで名前を…。」という子がでてくるかもしれません。「これでもう三行書けたことになるのではないか。」と、ひとこと冗談を言ったあとで、「たくさんの人の日記帳を読むことになるので、そのとき、いちいち誰が書いているのか表紙を見るのでは、時間がかかってしまいます。ですから日記帳を出し時には、その日書いたところをひらいて出してくれると、さっと誰場書いたかわかって、すぐ読むことが出来るからです。これは先生からのお願いです。」こう言うと、それからなちゃんと名前も忘れずに書いてくれます。

 ちょっとしたことかもしれませんが、教師にとっても、長く続けるためには、こんな小さな工夫していくことが大切です。

 こうして、「はじめて書いた日記」にはいまだに、心にのこるものもありました。

 

いやな先生になった

   5年・ひろゆき

 始業式に日、組がえの日だとはりきってきたぼく。自分では、「また石渡先生がいいな。」と思っていたが、デンチュウテイコウ(田中定幸)なんて、へんなあだなの先生になっちゃった。ちょっとおっかなそうな先生だ。なんだかぼくにうは、むいてないような気がする。(以下略)

 

 この日記を読んだときには、ちょっとショックでしたが、よし、このひろゆきさんを、一年かけて「石渡先生もよかったけれど、田中先生もよかった」と思ってもらえるようにがんばろうと闘争心をもやした話も交えて、この日記を紹介しました。ひろゆきさんの心をここで知ったことは、いいことだったと今も思っています。

 ここでのねらいは、

・まず、日記帳に出来事を書いて、日記帳となかよしになること。書き慣れさせること。・新しい学年になった、「ある日のこと」を書くことで、日記には、必ずしもその日にあったことだけでなく、数日前のことでもよいこと。いつも、おもっていることでもよいこと。

・その日の出来事では無いときには、「おとといのことでした」というように、いつのことかをはっきりさせてかけばよいこと。

・出来事を書くときには、その出来事の「はじまり」のところから順に思いだして書くこと。

 こんなことを気づいてくれたらよいと思って書いてもらいます。

 そして、この時期、何よりも大切なことは、「こどもどうしの心をつなぐには」まず、先生が、一人ひとりの子どもとつながれるように努力すること。その気持ちを大切に、はじめて書いた日記を読んでいくように心がけます。

 

(四) 「日記の書き方」を学ばせる

 

1 三つの出来事の中から

 2回目の日記を「学校」で書いてもらいます。ここでは、あらためて、「日記の書き方」についての基本的なことを理解してもらいます。

 日記を書くときの、日・曜日・天候を書くのは前と同じです。そして、二、三日前のことでもよいし、その日のことでもよいから、心に残っている出来事を三つあげさせます。(必ずしも三つでなくてもよい)そして、その中から一つえらんで題をつけて書くように指示します。

 

四月十四日(月)晴れ

 ○あたらしいほけんの先生が2人きた。

 ●ジャガイモを花だんにうえた。

  ○五時間目の音楽のとき、みんな前に

    でてたのしくうたった。

 

ジャガイモを花だんにうえたこと

            4年 有子

 3時間目、わたしたちは、ジャガイモをうえました。

 はじめにみんなが、スコップで土をやわらかくしていきました。その時、中村先生が、ジャガイモを半分に切っていました。うまいなあと思いました。わたしは、その切ったジャガイモをもらうと、こんどは、はいをつけました。わたしは、なぜはいをつけるのかと思っていました。 それから、わたしは、その半分に切ったジャガイモを花だんにうえました。はやくできるといいなあと思いながら、ジャガイモをうえました。

 わたしは、夕ごはんの時に、おかあさんに、/「なぜジャガイモに、はいをつけるの。」/ときいてみました。おかあさんは、/「何でだろうね。」/なんて、いっていました。すると、おじいちゃんが、/「はいをつけると、くさりにくくなるんだよ。」/とおしえてくれました。(以下略)

 

 三つあげさせるのは、いろいろな出来事の中から「えらんで」書くことを大切にしたいからです。いってみれば「日記のタネ」を少しでも多くもたせたいという理由です。また、三つあげたことで、生活の中から書きたいことがらを「切りとって」、そのことだけを書くようになります。さらに題をつけることで、テーマ(主題)をはっきりさせるようになっていきます。

 

2 書き方のコツ

 その日のことだけでなく、何日か前にあったことでもよい。過去の「ある日、ある時のこと・出来事」の中から「えらんで」書くことをすすめます。その方が、題材(タネ)としてえらびやすいし、書き方についても、その出来事のはじまりの所から順に、「時間の経過・事件の進行」、すなわち「したことの順」に書くことになります。

 これまで、この『つづる』で述べてきた、「ある日型」の文章を書くことがおおくなります。あらためて『こどもと教育』(号)を読んでいただけると「日記の文章」がどういうものかわかってきます。その「ある日型」でもある「日記の文章」の書き方のコツをここにまとめておくならば、次のようになります。

 

①ある日、ある時、あるところであったことを題材にえらぶ。

②いつ、どこで、だれが、何をしたかが、全体ではっきりわかる文章にする。

③できごとのはじまりから、したこと、みたことの順(時間に経過にそって)に書く。

④自分のしたことや見たこと、相手のことやまわりのようすなども、よく思い出して書く。

⑤ものの形や動き、色、大きさ、手ざわり、においなど、感覚をはたらかせてとらえたことも書く。

⑥自分が話したり、相手が話したりした言葉、会話は、「  。」を使って書く。

⑦考えたり思ったりしたことは、そのつど書く。その出来事をふり返って思ったことも書く。

⑧必要なところには、説明を入れて書く。

 

 けれども、新しく受け持った子どもたちに、これらのことをはじめに教えてから書かせたのでは、子どもにとってはすこしもおもしろくはないでしょう。

 はじめは、心に残ったことをえらんで、出来事のはじめから順に「よく思いだして書きましょう」という呼びかけぐらいにします。そして、子どもの作品の中に、こういう書き方をしているものが出て来たら、「○○さんは、したことの順によく思いだして書いている日記です」「話したこと、聞いたことをよく思いだして書いていますね」といって具体的に作品を取り上げて、「書き方のコツ」をみんなのものにしていくのが、「指導のコツ」の一つです。(つづく)

 

(注1)小林正幸「提言 災害に遭った子どもたちの心のケアにどう取り組むか」『教育展望 』(教育調査研究所編 2011.10)

(注2)『君ひとの子の師であれば』(国分一太郎著・新評論)の冒頭に書かれていることば。昨年、山形県東根市で、「国分一太郎生誕100年の集い」が開かれ、この言葉が刻まれた「教育碑」が建立される。

                                   (綴方理論研究会)