前回扱った「アメリカvsイランの戦争勃発」ですが、それが近いことを伺わせる出来事がありました。
(以下引用)
英、アフガンに1000人増派へ=メディア報道
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/world/meast/070223085505.8yg4rzao.html
【ロンドン23日】英ガーディアン紙などは23日、英政府が近くアフガニスタンへの軍部隊1000人増派を発表すると伝えた。ブラウン国防相が26日に下院で詳細を明らかにするという。(中略)
アフガンには現在、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)3万5000人が駐留。このうち英軍は南部ヘルマンド州を中心に5000人を派遣しており、雪解けを待って春の攻勢に出る見通しのイスラム原理主義勢力タリバンと衝突する可能性がある。
英国防省スポークスマンは同紙などの報道について確認を避けながらも、「軍は常に再検討を行っており、調整する必要があれば行い、公表する」と述べた。
ブレア英首相は21日、イラク駐留部隊7100人のうち1600人の撤退計画を発表したばかり。NATO内部では、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどがアフガンに増派すべきかどうかをめぐり議論が続いている。
(引用以上)
イランの東隣にあるアフガニスタンは、2001年以来アメリカが支配する地域になっています。ここをきちんと押さえておくことは、イランとの戦いを進める上では重要です。アメリカとしては、同盟国にとって抵抗の少ないところからテコ入れを図ったのでしょう。
当然、今後は同盟国である日本に対しても、何らかの要求をしてくる可能性があります。当然、以下の会談でも、それに向けた「強い要請」があったものと推測ができます。
首相と米副大統領が会談、北の核放棄に向け連携確認
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070221it15.htm
(以下引用)
安倍首相は21日、首相官邸で、チェイニー米副大統領と会談し、北朝鮮の核放棄に向けて日米両国が連携していくことを改めて確認した。
副大統領は日本人拉致問題について日本の立場に理解を示した。
(中略)
副大統領の「北朝鮮シフト」は、首相への側面支援であると同時に、北朝鮮に融和的な動きも出てきた米国内向けのけん制との見方がある。
(中略)
一方、日本側では、当初、6か国協議の共同文書に米国のテロ支援国家リストから北朝鮮を削除する作業の開始が明記されたことや、イラク戦争を批判した久間防衛相と副大統領の会談が実現しなかったことなどから、日米関係への懸念も出ていた。しかし、米上院議長も兼ねる副大統領が議会休会中の短い機会にあえて日豪両国を選んで訪問し、「2国間関係は最もよい状態だ」と明言したことを評価している。
ただ、副大統領の影響力には、イラク政策の失敗や側近の起訴などで陰りも見られる。残り任期2年を切ったブッシュ大統領自身の求心力が低下する中、「今回の訪日が成功しても、日米関係の先行き不透明感は、完全には消えない」(政府筋)とも指摘されている。
(引用以上)
>日本側では、当初、6か国協議の共同文書に米国の
>テロ支援国家リストから北朝鮮を削除する作業の
>開始が明記されたこと
ここまで譲歩しているとなると、北朝鮮に対する金融制裁の解除も時間の問題でしょう。なんともまあ、頼りにならない同盟国です。
>副大統領の「北朝鮮シフト」は、首相への
>側面支援であると同時に、北朝鮮に融和的な
>動きも出てきた米国内向けのけん制との見方がある。
どうせ朝日新聞だと全く別の「見方がある」のでしょうが、この読売の記事も楽観的すぎますね。チェイニーの頭の中も、イランのことでいっぱいのはずです。そのことは、
>議会休会中の短い機会にあえて日豪両国を選んで訪問
という部分でもわかります。要するに、これからイランとの間で(ヤクザ風に言えば)出入りが始まるから、ちゃんとご主人様を支えろと、日本と、イラクに積極的なオーストラリアに釘を差しにきたに違いありません。
前回の繰り返しになりますが、アメリカの現在の国際戦略は、「石油決済通貨としてのドル防衛」「イスラエル防衛」という二つの大きな要因にひきずられています。
そして、これは本来の米軍の国際戦略ではありません。冷戦時代のアメリカは海軍力でソ連を陸に封じ込めるという作戦を採用していました。1991年の湾岸戦争でも、米軍が展開したのはペルシア湾沿岸のクウェートだけに留まり、イラク本土に駐留はしませんでした。From The Seaというドクトリンを採用していたわけです。
そういう観点からすれば、アメリカが本来の戦略に立ち戻って、「ペルシア湾を封鎖して、イラン上空の制空権を取るだけに留める」という作戦を採ることも考えられます。しかし、それではイラクへの武装勢力の流入を止めるのに不十分です。
また、こういう懸案では、「アメリカはまさか~しないだろう」というような希望的観測をするべきではないというのが私の考えです。最悪の事態に、心理面でも備えておいて損はありません。
では、本当にアメリカvsイランの地上戦に突入したとして、日本はどうすればよいのか。
まず、アメリカが求めてくるのは「戦費の拠出」です。これは間違いありません。地上戦のなかった湾岸戦争でさえ、日本は90億ドルの出費を強いられています。
結論から言えば、これを断ることは至難の業でしょう。安倍内閣というのは、集団的自衛権を認めようという方向で動いている内閣です。そんな内閣が、「同盟国の戦争に、金も出さないのか?」という突っ込みに、抗えるわけがありません。
したがって、何らかの出費は致し方ないところでしょう。
次に考えられるのは、「日本に何らかの立法をさせて、ペルシア湾に展開するアメリカ海空軍の支援をさせる」ことです。
これは、すでにアフガニスタンで海上自衛隊が米軍の補給を支援しているという実績があります(●こちらを参照)。安倍内閣の路線が、この実績を作った小泉内閣と基本的に同じである以上、これも断るのは難しいでしょう。
ここも、我慢しなくてはいけないようです。
では、問題は「何らかの地上部隊をイラン本土に出す」かどうかです。
確かに、イラクには陸上自衛隊が展開しました。また、その活動はつつがなく行われ、自衛隊の能力の高さ、規律の正しさも証明されました。
しかし、あれはあくまで「復興支援」であったことを忘れてはいけません。アメリカが一通りイラクを叩きのめした後の整地作業みたいなものだったのです。前回の記事でも書きましたが、国土が広く、山地の多いイランを制圧することはかなり困難です。
そうだとすると、占領段階で自衛隊を使いたいというのがアメリカの本音でしょう。「自由と民主主義を防衛するのに、日本はいつも自分の血を流さない!」とでも言えば、アメリカ国民を煽るのも簡単に出来ます。
正直、安倍内閣がこれを拒否できるのかは微妙なところです。
安倍内閣の対応について、少しシミュレーションしましょう。
開戦時期がいつになるかはわかりませんが、どちらにしろ日本に「派兵」の要求をしてくるのは参議院選挙の後になるでしょう。
その際にエクスキューズになるのは、「我が国の生命線であるペルシア湾の平和と安全のために」ということでしょう。じっさい、日本は中東から90%近くの原油を調達しています。それを守るために戦うのだ、という理屈は一応立ちます。もちろん、ドルの価値やイスラエルの防衛という目的は言いません。そのために、きっと、「イランというのはこんなにひどいやつらだ」というニュース(プロパガンダ)も流れることでしょう。もしかしたら、「イラン軍の船」が日本のタンカーを襲うかも知れません。
そうした上で、安倍内閣が取りうる対応は、以下のようなものです。
1.憲法を改正して、自衛軍を派遣する
2.憲法改正無しに、自衛隊を派遣する
a. 他国同様、戦闘に加わる
b. 後方支援のみに加わる
3.派兵せず、間接支援に留める
まず、1.ですが、これを可能にするには参議院選挙で大勝しなければなりません。
つまり、憲法改正には「両議員の総議員の3分の2」が必要です。与党である自民党・公明党の改選しない議席は57ですから、参議院(242議席)で3分の2にあたる162議席を取るために、今年の選挙で105議席取らなくてはいけません。なんと改選議席の86%に当たる数字です。
しかも、安倍内閣の人気は正直落ち目です。そうだとすると、このオプションは、まず不可能ということになります。
これに対して、2.は実現可能性の高いものです。
駒が欲しいアメリカ軍としては、a.の方を要求したいのでしょうが、さすがにこれは世論を考えると難しいものがあります。前任者の首相であれば、「自由と民主主義を守るには、痛みを共有しなければいけない!」と、ことあるごとに絶叫して開き直る(笑)のでしょうが、安倍首相はそれをできるキャラクターではなさそうです。
そうだとすると、安倍政権の今後のことも考えて、あくまでb.後方支援に留めるというところに落ち着くでしょう。
しかし、それでも、補給部隊を担当して、イランの内陸部まで自衛隊員が赴く可能性はあるでしょう。米英やオーストラリアが矢面に立つと、どうしてもそこまで人が足りなくなるからです。
そうすれば、「武装勢力」や「テロリスト」に間違いなく狙われます。
ペルシア湾の安全という分かったような分からないような目的のために、ペルシア湾ではない土地で自国の兵士が死ぬのです。私は他所で「保守派」として紹介されることもありますが、そういう私でもそんなのは絶対に許せないと思うでしょうね。
ただ単に、人が死ぬのが嫌だというのではないのです。自国の独立維持とはほとんど関係のないところで、貴重な兵力が失われるのが嫌なのです。そんなことをするくらいなら、竹島を奪い返したり、原発の警備をしてもらったり、日本のためにやってもらえる仕事がたくさんあるはずです。
アメリカとの同盟関係の維持が大事だというのなら、なぜアメリカは同盟国日本の直接の脅威である北朝鮮にあそこまで譲歩したのかと、逆に私からその人に聞きたいものです。
まさか、冒頭の読売新聞のように、「チェイニーさんが来てくれた。日本を大事にしてくれているんだ」という脳内お花畑状態になっている人がいるんでしょうか。「右翼」とか「保守」とかブログやホームページで自称されている方に限って、そういう人が多いのかも知れません。情けないことです。
それならば、日本が取るべき道は一つ、3.の「派兵はしない」というものです。
それは難しいのでは、という人は、思い出してほしいものです。我が国には、平和主義の憲法という実に便利な言い訳があるのです。
いずれ憲法第9条を含む現行憲法は改正されるでしょうし、私もそれ自体反対ではありません。しかし、今度の「イラン戦争」に限っては別です。この戦争は泥沼中の泥沼になることは確実です。イラクのような、いやそれを上回る規模の武装勢力の蜂起、散発的なテロが起こり、派兵した国は確実に疲弊します。だからこそ、9条をダシにして参戦を避けるより他ないのです。
幸い、我が国と共通の立場にいる国があります。イギリスやオーストラリアのような、アメリカの「同盟国」です。
この2カ国と日本の共通点は、自国の国益とイラン戦争が直結していないという点に尽きます。イギリスはヨーロッパの勢力均衡や大西洋の平和さえ守れればいいわけですし、オーストラリアは太平洋の自由航行さえ確保できればいいのです。別に、イラクの米軍が維持できなければおしまいだ、というわけではないのです。
特に、イギリスはイラク派遣軍の縮小を明言している国であり、日本とイラン問題で協調できる可能性は高いといえます。
そして、これは本来、アメリカも同じはずなのです。戦争が必要なのは、ドル支配を守りたい国際金融資本とイスラエルだけなのです。そういう雰囲気があるからこそ、こんなニュースも出てきたということです。
開戦承認決議見直しへ法案 民主党が策定作業開始
http://www.usfl.com/Daily/News/07/02/0223_009.asp?id=52565
(以下引用)
ロイター通信によると、上院民主党の実力者、レビン軍事委員長とバイデン外交委員長は22日までに、議会がイラク開戦を承認した2002年の「対イラク武力行使承認決議」を見直す法案の策定作業を開始した。米軍の任務をイラク軍訓練などに限定することにより、戦闘部隊を08年初めまでに撤退させるとの内容になる見通しだ。
休会明けの27日に開かれる上院民主党総会での協議を経て本会議提出を目指す。
法案は決議と違って拘束力があるため、民主党が多数派を握る上下両院で可決された場合、ブッシュ大統領が拒否権を行使するのは確実。AP通信によると、拒否権行使を防ぐため、大統領が議会に成立を要請している反テロ法の付帯条項としてこの法案を提出する案などが民主党内では検討されているという。
(引用以上)
日本やオーストラリア、イギリスといった国がこの辺の動きと連動して、ブッシュ政権にプレッシャーをかければ、あるいは今回の戦争は回避できるかも知れません。これこそが、本当の「主張する外交」でしょう。
そのためにまず、日本で我々が出来そうなことがひとつあります。
それは、参議院選挙で安倍自民党を負けさせることです。
この選挙で自民党が敗北すれば、安倍首相は退陣するか、少なくとも身動きが取りづらい状態に陥ります。そうそう期待できませんが、そうなれば、「派兵したら次の選挙で野党に負ける」と言い訳をする口実にはなります。
自分は保守なんだが、という方には、とりあえず維新政党新風はどうでしょう。この党は、「北京オリンピックをボイコットしろ」「武力行使してでも竹島を奪還しろ」と主張している唯一の政党なので、お勧めできます。
残念ながら「新党21世紀」は参議院選には候補を出しません(笑)。
最後に、最終的にイラクがどうなるかという点について、多少考えを述べておきます。
米軍はイラクから撤退すべきでしょう。しかし、中東に軍事力の空白が出来てしまうというのも、それはそれで考え物です。
そこで、アメリカとイラクが安全保障条約を結び、南部の「バスラBasra」にだけ米軍を駐屯させるというのはどうでしょうか。
イラクの地図
なぜなら、バスラさえ押さえておけば、イラクの石油がペルシア湾から運び出すルートはひとまず押さえられるからです。こうすれば、アメリカ国内の石油資本にも、我慢してもらうことが出来ます。シリア経由で地中海に向かうパイプラインは、放棄するしかないでしょう。
この案の狙いは、地上軍を大幅に削減しつつ、なおかつ中東の軍事バランス(ペルシア湾の制海権保持)を崩さずに済むことです。イラクのシーア派とイランが結びつく危険はありますが、そうなればかえってサウジアラビアやヨルダン、UAEといった穏健派イスラム諸国がアメリカ側になびいてくる可能性が高くなります。「国王」「首長」といった人々が、イスラム革命で自分の地位を追われたくないと思うはずだからです。
とにかく、アメリカは自ら破滅の道を歩みたくなければ、振り上げた拳を「同盟国に諭されて、渋々下ろした」という方向でイラン戦争を回避し、イラク「撤退」に動き出すべきです。我が国が率先して、泥沼の戦いに手を貸す必要などありません。
(以下引用)
英、アフガンに1000人増派へ=メディア報道
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/world/meast/070223085505.8yg4rzao.html
【ロンドン23日】英ガーディアン紙などは23日、英政府が近くアフガニスタンへの軍部隊1000人増派を発表すると伝えた。ブラウン国防相が26日に下院で詳細を明らかにするという。(中略)
アフガンには現在、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)3万5000人が駐留。このうち英軍は南部ヘルマンド州を中心に5000人を派遣しており、雪解けを待って春の攻勢に出る見通しのイスラム原理主義勢力タリバンと衝突する可能性がある。
英国防省スポークスマンは同紙などの報道について確認を避けながらも、「軍は常に再検討を行っており、調整する必要があれば行い、公表する」と述べた。
ブレア英首相は21日、イラク駐留部隊7100人のうち1600人の撤退計画を発表したばかり。NATO内部では、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどがアフガンに増派すべきかどうかをめぐり議論が続いている。
(引用以上)
イランの東隣にあるアフガニスタンは、2001年以来アメリカが支配する地域になっています。ここをきちんと押さえておくことは、イランとの戦いを進める上では重要です。アメリカとしては、同盟国にとって抵抗の少ないところからテコ入れを図ったのでしょう。
当然、今後は同盟国である日本に対しても、何らかの要求をしてくる可能性があります。当然、以下の会談でも、それに向けた「強い要請」があったものと推測ができます。
首相と米副大統領が会談、北の核放棄に向け連携確認
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070221it15.htm
(以下引用)
安倍首相は21日、首相官邸で、チェイニー米副大統領と会談し、北朝鮮の核放棄に向けて日米両国が連携していくことを改めて確認した。
副大統領は日本人拉致問題について日本の立場に理解を示した。
(中略)
副大統領の「北朝鮮シフト」は、首相への側面支援であると同時に、北朝鮮に融和的な動きも出てきた米国内向けのけん制との見方がある。
(中略)
一方、日本側では、当初、6か国協議の共同文書に米国のテロ支援国家リストから北朝鮮を削除する作業の開始が明記されたことや、イラク戦争を批判した久間防衛相と副大統領の会談が実現しなかったことなどから、日米関係への懸念も出ていた。しかし、米上院議長も兼ねる副大統領が議会休会中の短い機会にあえて日豪両国を選んで訪問し、「2国間関係は最もよい状態だ」と明言したことを評価している。
ただ、副大統領の影響力には、イラク政策の失敗や側近の起訴などで陰りも見られる。残り任期2年を切ったブッシュ大統領自身の求心力が低下する中、「今回の訪日が成功しても、日米関係の先行き不透明感は、完全には消えない」(政府筋)とも指摘されている。
(引用以上)
>日本側では、当初、6か国協議の共同文書に米国の
>テロ支援国家リストから北朝鮮を削除する作業の
>開始が明記されたこと
ここまで譲歩しているとなると、北朝鮮に対する金融制裁の解除も時間の問題でしょう。なんともまあ、頼りにならない同盟国です。
>副大統領の「北朝鮮シフト」は、首相への
>側面支援であると同時に、北朝鮮に融和的な
>動きも出てきた米国内向けのけん制との見方がある。
どうせ朝日新聞だと全く別の「見方がある」のでしょうが、この読売の記事も楽観的すぎますね。チェイニーの頭の中も、イランのことでいっぱいのはずです。そのことは、
>議会休会中の短い機会にあえて日豪両国を選んで訪問
という部分でもわかります。要するに、これからイランとの間で(ヤクザ風に言えば)出入りが始まるから、ちゃんとご主人様を支えろと、日本と、イラクに積極的なオーストラリアに釘を差しにきたに違いありません。
前回の繰り返しになりますが、アメリカの現在の国際戦略は、「石油決済通貨としてのドル防衛」「イスラエル防衛」という二つの大きな要因にひきずられています。
そして、これは本来の米軍の国際戦略ではありません。冷戦時代のアメリカは海軍力でソ連を陸に封じ込めるという作戦を採用していました。1991年の湾岸戦争でも、米軍が展開したのはペルシア湾沿岸のクウェートだけに留まり、イラク本土に駐留はしませんでした。From The Seaというドクトリンを採用していたわけです。
そういう観点からすれば、アメリカが本来の戦略に立ち戻って、「ペルシア湾を封鎖して、イラン上空の制空権を取るだけに留める」という作戦を採ることも考えられます。しかし、それではイラクへの武装勢力の流入を止めるのに不十分です。
また、こういう懸案では、「アメリカはまさか~しないだろう」というような希望的観測をするべきではないというのが私の考えです。最悪の事態に、心理面でも備えておいて損はありません。
では、本当にアメリカvsイランの地上戦に突入したとして、日本はどうすればよいのか。
まず、アメリカが求めてくるのは「戦費の拠出」です。これは間違いありません。地上戦のなかった湾岸戦争でさえ、日本は90億ドルの出費を強いられています。
結論から言えば、これを断ることは至難の業でしょう。安倍内閣というのは、集団的自衛権を認めようという方向で動いている内閣です。そんな内閣が、「同盟国の戦争に、金も出さないのか?」という突っ込みに、抗えるわけがありません。
したがって、何らかの出費は致し方ないところでしょう。
次に考えられるのは、「日本に何らかの立法をさせて、ペルシア湾に展開するアメリカ海空軍の支援をさせる」ことです。
これは、すでにアフガニスタンで海上自衛隊が米軍の補給を支援しているという実績があります(●こちらを参照)。安倍内閣の路線が、この実績を作った小泉内閣と基本的に同じである以上、これも断るのは難しいでしょう。
ここも、我慢しなくてはいけないようです。
では、問題は「何らかの地上部隊をイラン本土に出す」かどうかです。
確かに、イラクには陸上自衛隊が展開しました。また、その活動はつつがなく行われ、自衛隊の能力の高さ、規律の正しさも証明されました。
しかし、あれはあくまで「復興支援」であったことを忘れてはいけません。アメリカが一通りイラクを叩きのめした後の整地作業みたいなものだったのです。前回の記事でも書きましたが、国土が広く、山地の多いイランを制圧することはかなり困難です。
そうだとすると、占領段階で自衛隊を使いたいというのがアメリカの本音でしょう。「自由と民主主義を防衛するのに、日本はいつも自分の血を流さない!」とでも言えば、アメリカ国民を煽るのも簡単に出来ます。
正直、安倍内閣がこれを拒否できるのかは微妙なところです。
安倍内閣の対応について、少しシミュレーションしましょう。
開戦時期がいつになるかはわかりませんが、どちらにしろ日本に「派兵」の要求をしてくるのは参議院選挙の後になるでしょう。
その際にエクスキューズになるのは、「我が国の生命線であるペルシア湾の平和と安全のために」ということでしょう。じっさい、日本は中東から90%近くの原油を調達しています。それを守るために戦うのだ、という理屈は一応立ちます。もちろん、ドルの価値やイスラエルの防衛という目的は言いません。そのために、きっと、「イランというのはこんなにひどいやつらだ」というニュース(プロパガンダ)も流れることでしょう。もしかしたら、「イラン軍の船」が日本のタンカーを襲うかも知れません。
そうした上で、安倍内閣が取りうる対応は、以下のようなものです。
1.憲法を改正して、自衛軍を派遣する
2.憲法改正無しに、自衛隊を派遣する
a. 他国同様、戦闘に加わる
b. 後方支援のみに加わる
3.派兵せず、間接支援に留める
まず、1.ですが、これを可能にするには参議院選挙で大勝しなければなりません。
つまり、憲法改正には「両議員の総議員の3分の2」が必要です。与党である自民党・公明党の改選しない議席は57ですから、参議院(242議席)で3分の2にあたる162議席を取るために、今年の選挙で105議席取らなくてはいけません。なんと改選議席の86%に当たる数字です。
しかも、安倍内閣の人気は正直落ち目です。そうだとすると、このオプションは、まず不可能ということになります。
これに対して、2.は実現可能性の高いものです。
駒が欲しいアメリカ軍としては、a.の方を要求したいのでしょうが、さすがにこれは世論を考えると難しいものがあります。前任者の首相であれば、「自由と民主主義を守るには、痛みを共有しなければいけない!」と、ことあるごとに絶叫して開き直る(笑)のでしょうが、安倍首相はそれをできるキャラクターではなさそうです。
そうだとすると、安倍政権の今後のことも考えて、あくまでb.後方支援に留めるというところに落ち着くでしょう。
しかし、それでも、補給部隊を担当して、イランの内陸部まで自衛隊員が赴く可能性はあるでしょう。米英やオーストラリアが矢面に立つと、どうしてもそこまで人が足りなくなるからです。
そうすれば、「武装勢力」や「テロリスト」に間違いなく狙われます。
ペルシア湾の安全という分かったような分からないような目的のために、ペルシア湾ではない土地で自国の兵士が死ぬのです。私は他所で「保守派」として紹介されることもありますが、そういう私でもそんなのは絶対に許せないと思うでしょうね。
ただ単に、人が死ぬのが嫌だというのではないのです。自国の独立維持とはほとんど関係のないところで、貴重な兵力が失われるのが嫌なのです。そんなことをするくらいなら、竹島を奪い返したり、原発の警備をしてもらったり、日本のためにやってもらえる仕事がたくさんあるはずです。
アメリカとの同盟関係の維持が大事だというのなら、なぜアメリカは同盟国日本の直接の脅威である北朝鮮にあそこまで譲歩したのかと、逆に私からその人に聞きたいものです。
まさか、冒頭の読売新聞のように、「チェイニーさんが来てくれた。日本を大事にしてくれているんだ」という脳内お花畑状態になっている人がいるんでしょうか。「右翼」とか「保守」とかブログやホームページで自称されている方に限って、そういう人が多いのかも知れません。情けないことです。
それならば、日本が取るべき道は一つ、3.の「派兵はしない」というものです。
それは難しいのでは、という人は、思い出してほしいものです。我が国には、平和主義の憲法という実に便利な言い訳があるのです。
いずれ憲法第9条を含む現行憲法は改正されるでしょうし、私もそれ自体反対ではありません。しかし、今度の「イラン戦争」に限っては別です。この戦争は泥沼中の泥沼になることは確実です。イラクのような、いやそれを上回る規模の武装勢力の蜂起、散発的なテロが起こり、派兵した国は確実に疲弊します。だからこそ、9条をダシにして参戦を避けるより他ないのです。
幸い、我が国と共通の立場にいる国があります。イギリスやオーストラリアのような、アメリカの「同盟国」です。
この2カ国と日本の共通点は、自国の国益とイラン戦争が直結していないという点に尽きます。イギリスはヨーロッパの勢力均衡や大西洋の平和さえ守れればいいわけですし、オーストラリアは太平洋の自由航行さえ確保できればいいのです。別に、イラクの米軍が維持できなければおしまいだ、というわけではないのです。
特に、イギリスはイラク派遣軍の縮小を明言している国であり、日本とイラン問題で協調できる可能性は高いといえます。
そして、これは本来、アメリカも同じはずなのです。戦争が必要なのは、ドル支配を守りたい国際金融資本とイスラエルだけなのです。そういう雰囲気があるからこそ、こんなニュースも出てきたということです。
開戦承認決議見直しへ法案 民主党が策定作業開始
http://www.usfl.com/Daily/News/07/02/0223_009.asp?id=52565
(以下引用)
ロイター通信によると、上院民主党の実力者、レビン軍事委員長とバイデン外交委員長は22日までに、議会がイラク開戦を承認した2002年の「対イラク武力行使承認決議」を見直す法案の策定作業を開始した。米軍の任務をイラク軍訓練などに限定することにより、戦闘部隊を08年初めまでに撤退させるとの内容になる見通しだ。
休会明けの27日に開かれる上院民主党総会での協議を経て本会議提出を目指す。
法案は決議と違って拘束力があるため、民主党が多数派を握る上下両院で可決された場合、ブッシュ大統領が拒否権を行使するのは確実。AP通信によると、拒否権行使を防ぐため、大統領が議会に成立を要請している反テロ法の付帯条項としてこの法案を提出する案などが民主党内では検討されているという。
(引用以上)
日本やオーストラリア、イギリスといった国がこの辺の動きと連動して、ブッシュ政権にプレッシャーをかければ、あるいは今回の戦争は回避できるかも知れません。これこそが、本当の「主張する外交」でしょう。
そのためにまず、日本で我々が出来そうなことがひとつあります。
それは、参議院選挙で安倍自民党を負けさせることです。
この選挙で自民党が敗北すれば、安倍首相は退陣するか、少なくとも身動きが取りづらい状態に陥ります。そうそう期待できませんが、そうなれば、「派兵したら次の選挙で野党に負ける」と言い訳をする口実にはなります。
自分は保守なんだが、という方には、とりあえず維新政党新風はどうでしょう。この党は、「北京オリンピックをボイコットしろ」「武力行使してでも竹島を奪還しろ」と主張している唯一の政党なので、お勧めできます。
残念ながら「新党21世紀」は参議院選には候補を出しません(笑)。
最後に、最終的にイラクがどうなるかという点について、多少考えを述べておきます。
米軍はイラクから撤退すべきでしょう。しかし、中東に軍事力の空白が出来てしまうというのも、それはそれで考え物です。
そこで、アメリカとイラクが安全保障条約を結び、南部の「バスラBasra」にだけ米軍を駐屯させるというのはどうでしょうか。
イラクの地図
なぜなら、バスラさえ押さえておけば、イラクの石油がペルシア湾から運び出すルートはひとまず押さえられるからです。こうすれば、アメリカ国内の石油資本にも、我慢してもらうことが出来ます。シリア経由で地中海に向かうパイプラインは、放棄するしかないでしょう。
この案の狙いは、地上軍を大幅に削減しつつ、なおかつ中東の軍事バランス(ペルシア湾の制海権保持)を崩さずに済むことです。イラクのシーア派とイランが結びつく危険はありますが、そうなればかえってサウジアラビアやヨルダン、UAEといった穏健派イスラム諸国がアメリカ側になびいてくる可能性が高くなります。「国王」「首長」といった人々が、イスラム革命で自分の地位を追われたくないと思うはずだからです。
とにかく、アメリカは自ら破滅の道を歩みたくなければ、振り上げた拳を「同盟国に諭されて、渋々下ろした」という方向でイラン戦争を回避し、イラク「撤退」に動き出すべきです。我が国が率先して、泥沼の戦いに手を貸す必要などありません。