受験勉強中に、携帯電話でかなり気になるニュースを見つけた(←勉強しろよ)ので、それに関する記事を書きます。
●暴走する露民族主義・・・相次ぐ外国人襲撃、アムネスティ警鐘
(以下引用)
国際的人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは四日、外国人排斥を旗印とするロシア民族主義の暴走に警鐘を鳴らす報告書を発表した。外国人が多数在住するモスクワやサンクトペテルブルクなどロシアの大都市部では、毎週のように外国系住民が襲撃されるが、保安当局が真剣に対策を講じる気配はない。こうした現状は、後に独裁者ヒトラーを生み出した一九二〇年代当時のドイツの状況に酷似すると警告する専門家も出てきた。
報告書「ロシア連邦・コントロールを失った暴力的な民族主義」では、暴力的な民族主義で昨年少なくとも二十八人が殺害され、三百六十六人が負傷したと言及し、「ロシア当局者には、故意に(民族主義に)目をつむる者もいる」として早急に対策を講じる必要があると訴えた。
ロシア民族主義者による外国人襲撃事件は、今年になってエスカレートする兆候もある。ロシアのNTVなどによると、先月二十二日午後六時ごろ、モスクワ中心部の繁華街に近い地下鉄プーシキン駅構内で、アルメニア人大学生、ビゲンさん(17)が友人とキリスト教の復活祭をお祝いしようと、プラットホームに集まっていたところ、地下鉄から降り立ったロシア人の若者の集団に突然襲われ、ナイフで刺されて死亡した。若者たちはそのまま逃走した。
白夜の季節を迎えて外は明るく、乗客らで込み合う地下鉄構内で発生した白昼の殺人事件に、モスクワ市民たちは衝撃を受けたが、ビゲンさんは今年十四人目の犠牲者にしか過ぎない。
その前の週の十四日には、サンクトペテルブルクでアフガニスタン人が治安当局の制服を着た男たちの集団に襲われ暴行を加えられたほか、十三日には、南部のボルゴグラード州でロマニ人(ジプシー)たちの家族が襲撃され二人が死亡、二人が重傷を負った。七日には、サンクトペテルブルクで、人種差別の撤廃を求めて活動していたセネガル人の人権擁護団体指導者が射殺された。
一昨年二月には、同じサンクトペテルブルクでタジク人の少女(9つ)=当時=が帰宅途中に自宅の目の前で十数カ所をナイフで刺されて死亡した事件が発生。今年三月二十二日には、同事件の容疑者の若者たち八人に対する判決公判が行われ、事実上の無実判決である狼藉(ろうぜき)の罪が言い渡された。陪審員たちは、殺害された少女よりも若者たちの将来に配慮した。
ロシアの人権擁護団体ヘルシンキ・グループの法律顧問、ナビツキー氏は、外国人排斥の根には貧困や失業など同国の社会問題があり、その責任を外国人に転嫁する風潮の表れであると指摘したが、「民族主義が要因の事件は、全体の犯罪の1%に過ぎず、それを強調して過剰反応するのはまだ早い」と述べた。
しかし、ロシアの著名なジャーナリスト、ムレチン氏は、ドイツ帝国が第一次世界大戦に敗れて帝政を廃止、ドイツ共和国(ワイマール共和国)の下で復興が始まった一九二〇年代とロシアの現状を比較。「帝国の威信が失墜し、失業者数が増大。そこに登場し人気を博したユダヤ人排斥運動をドイツの官憲は当時、野放しにした」と述べ、ファシズムが誕生する前のドイツと、現代ロシアには数多くの共通点があると警告した。
(引用以上)
それにしても、ロシアというのは相当外国人労働者が多い国のようです。
それもそのはずで、実はロシアはソ連崩壊してから初めてと言っていい好景気なのです。●こちらのニュースによると、最近のGDPが前年比5.4%も伸びています。
その主な原因は、原油の世界的な高騰です。ロシアは世界第2位の原油生産国(1位はサウジアラビア)ですから、原油の希少価値が高まれば高まるほど、ロシアは利益を増やすことができるというわけです。
その好景気に引っ張られて、外国、特にCIS(独立国家共同体。要するに旧ソ連諸国)からの労働者の流入が著しいわけです。
しかし、外国人労働者がどっと押し寄せてくると、治安の悪化や住宅不足など、社会問題が増えるのはどこの国も同じです。ロシア政府は、どのような対応をしているのでしょうか。参考になるのは、●こちらのPDF資料です。
上記のリンク先にもあるように、ロシアも「一応」外国人労働者を管理しようとはしています。しかも許可制=原則禁止なので、かなり厳しいものと言えるでしょう。
しかし、おそらく実態は「ザル法」でしょう。その証拠は、●こちらのブログです。なにしろ、ロシア人の成人の3分の1が賄賂を公務員に渡したことがあるという統計がある(本当)というのです。外国人労働者を受け容れる企業が、内務省の「招待状」とやらをわざわざ請求する遵法意識があるとはとても思えません。
現実は、政府が発表する実態を大きく上回る外国人労働者がロシアの主要都市に流れ込んでいるわけです。
最も重要なことは、冒頭のニュース記事に、「ファシズムが誕生する前のドイツと、現代ロシアには数多くの共通点がある」ということです。
それもそのはずです。どちらも「ランドパワー」(意味は●こちらのサイトを参照)なのです。
ランドパワー(大陸型国家)の特徴は、勢力圏が陸続きになっているので、国境付近に本国とは異なる民族や集団がたくさん存在していることです。
第1次大戦前のドイツはポーランドやチェコを併合していたので、大戦後もそれらの国との国境地帯に「ドイツ人でないドイツ国民」がたくさんいました。また、今のロシアであれば、事実上ロシアの属国となっているCIS諸国がそうです。
これを言い換えれば、ランドパワーは常に国境付近に「反抗勢力」やそれに近い集団を抱えているということです。ロシアを悩ませている問題に、●チェチェン人によるテロがありますが、こういう少数集団による抵抗運動は、最近に始まったことではありません。1648年のボグダン・フメリニツキーの乱(ウクライナ・コサックの反乱)、1837年のケネサルの反乱(カザフ人による反乱)のように、ロシアの歴史では「恒例」といってもよいほどです。
重要なことは、歴史上このようなリスクを抱えずに成立したランドパワー国家は存在しないということです。それゆえ、ランドパワーが強権を振るっている時期には、必ずある行動を取ろうとする、いや、取らざるを得なくなります。
それが、「反対勢力の抹殺」です。
我々日本人には到底思い及ばない選択肢ですが、これこそがランドパワーの本質です。そして、忘れてはならないのは、彼らは悪趣味なのではなく、国家の安全保障という観点から、反対勢力を抹殺せざるを得ないということです。
ヒトラーは国会議事堂放火事件(1933年)後非常事態を宣言しますが、その後やったことは共産党の弾圧でした。その次にやり玉に挙がったのは社会民主党員です。ホロコースト(ユダヤ人根絶作戦)が始まったのが第2次大戦開始後です。実はまずナチスの標的になったのはいわゆる「左翼」だったわけです。
彼らが標的になった理由は簡単です。左翼政党、特に共産党は、ソ連がコントロールしている組織だからです。つまり、国境線付近にいる異民族集団と同じような位置づけにあるというわけです。ソ連からしてみれば、ソ連の国境線を侵しかねないドイツを内部崩壊させるために、ドイツ共産党を飼っているのです。まさに獅子身中の虫です。だからこそ、ヒトラーは共産主義を目の敵にしたのでしょう。
そしてナチスが軍拡、領土拡張、第2次大戦の惹起、ホロコーストといった風に、どんどんおかしな方向へ進んでいったのは、よく知られていることです。
しかし、これを「ナチスという特殊な連中」のやったこととして片づけるべきではありません。極論かもしれませんが、ナチスの歩んだ道こそが、ランドパワーの宿命なのです。
ナチス前後のドイツの歴史を、おおざっぱに抽象化してみるとこうなります。
1.敗戦で国外の領土放棄(外国人は国内に残る)
2.不景気と、それにともなう外国人排斥の動き
3.強硬派の指導者の登場(国民の熱狂的支持)
4.軍拡、領土拡張の野心をみせ、周辺国と対立
5.対立するランドパワー国家との大戦争
1.は「敗戦」を「ソ連崩壊」と置き換えてみてください。ぴったり合致しています。ドイツ帝国の場合と同じく、ソ連の崩壊も、ロシア人のプライドをいたく傷つけたことでしょう。
また、2.はゴルバチョフ、エリツィン政権下での自由経済への転換期です。合理化に伴い、割安な労働力を得るために、外国人労働者が入ってきたのもこの時期です。
そして、3.はプーチン大統領誕生です。政敵を疑獄事件で葬り、テレビ局を支配し、NGOまで許可制にする・・・ヒトラーまでは行かなくても、相当に全体主義的な指導者であることは間違いありません。
プーチンが大量得票で大統領になれたのは、第2次チェチェン戦争で徹底的にチェチェンを叩いた(大量殺戮、大量強姦を行わせた)からです。失われた「強い(ランドパワーである)ロシア」のプライドを国民に取り戻させたわけです。
こういう指導者の姿勢が、偏狭な連中に妙な自信を付けさせたという面もありそうです。
では、4.はどうなのかというと、実はつい先日その動きが出てきました。
●ロシア大統領、軍事大国復活に意欲・年頭教書演説
(以下引用)
ロシアのプーチン大統領は10日、クレムリンで年次教書演説を行い、戦略核兵器の増強を軸にした軍拡路線を明確に打ち出した。従来は軍の近代化を重視してきたが、再び軍事大国化へカジを切る。資源外交の強化も打ち出しており、議長を務める7月の主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)を前に、西側との対立が鮮明になってきた。
上下両院議員らを前に演説した大統領は核兵器の宇宙配備の可能性や小型核兵器開発などに言及し「各国の軍拡競争は新しい段階に入った」と指摘した。そのうえで「戦略的な均衡を保たねばならない」と、軍備拡張を強く訴えた。
具体的には、ミサイルに迎撃されにくい大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めていることや、1990年以来となる核兵器搭載可能な新型原子力潜水艦二隻を近く配備することを表明。特に、戦略核については今後5年間でミサイル、長距離爆撃機、原子力潜水艦への配備を増強する考えを示した。
(引用以上)
この記事の中で重要なのは「核兵器搭載可能な新型原子力潜水艦二隻」と「小型核兵器開発」です。まさか、チェチェンのゲリラと戦うのにこんなオーバーな装備は必要ありません。
あくまで最悪の予想ですが、5.は「アメリカとの大戦争」になる可能性があるのです。
冷戦が終わったのに、どこで何をするのだ?と思うかも知れませんが、舞台になるとすればおそらく「黒海」か「中東」です。
黒海に関しては、●以前の記事でも紹介しましたが、ウクライナの問題です。仮にここに完全にアメリカ寄りの国が誕生してしてしまえば、黒海にアメリカの潜水艦や空母が入ってくることにもなりかねません。そうなると、ロシアの一大石油利権であるカスピ海油田が危なくなるのです。
そして、中東に関しては、やはり油田地帯だということです。ここの石油を全てアメリカが支配すれば、ロシアの「ある戦略」にとって致命傷になりかねないのです。
(以下引用)
欧州連合(EU)は天然ガスなどの安定供給を確保するため、包括的なエネルギー条約をロシアと締結する検討に入った。欧州委員会が作成するエネルギー共通政策の具体案に盛り込み、23日からのEU首脳会議で協議する。
現在は加盟国が個別にロシアと条約を結んでいるが、これをEU共通の条約に切り替える。対ロシアでは今年初め、ウクライナとの紛争や記録的な寒波で欧州向けの天然ガス供給が減少する事態が起きた。特にロシアへの依存度が高い中・東欧諸国は危機感を強めており、EU全体としての対応を求めていた。
(3月9日、日経新聞ウェブ版より)
(引用以上)
簡単に言えば、ロシアはエネルギーをダシに、EUを支配しようと考えているのです。ここにアメリカが安定した石油供給を申し出たりなどしたら、せっかくの構想が台無しというわけです。
アメリカ、フランス、イギリス、そして日本も含めた各国が、核開発が疑われるイランに対して、これ以上馬鹿な真似はやめろと言っているのにも関わらず、ロシアは「イランと一緒になってウラン濃縮をやりたい」などととんでもないことを主張しています。
その動機は簡単です。イランまでアメリカの手に落ちたら、ロシアは窮地に立たされるからです。イランはカスピ海最大の油田、バクー油田を擁するアゼルバイジャン共和国の隣国です。つまり、イランを取られれば、アメリカの「石油力」が増大し、自分のそれが脅かされることになるのです。
このロシアの行動を見るに付け、もうすでに戦争は始まっているのではないかと思ってしまいます。
外国は中国、朝鮮だけではありません。みなさんも、是非ロシアの今後の動向に注目しましょう。
●暴走する露民族主義・・・相次ぐ外国人襲撃、アムネスティ警鐘
(以下引用)
国際的人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは四日、外国人排斥を旗印とするロシア民族主義の暴走に警鐘を鳴らす報告書を発表した。外国人が多数在住するモスクワやサンクトペテルブルクなどロシアの大都市部では、毎週のように外国系住民が襲撃されるが、保安当局が真剣に対策を講じる気配はない。こうした現状は、後に独裁者ヒトラーを生み出した一九二〇年代当時のドイツの状況に酷似すると警告する専門家も出てきた。
報告書「ロシア連邦・コントロールを失った暴力的な民族主義」では、暴力的な民族主義で昨年少なくとも二十八人が殺害され、三百六十六人が負傷したと言及し、「ロシア当局者には、故意に(民族主義に)目をつむる者もいる」として早急に対策を講じる必要があると訴えた。
ロシア民族主義者による外国人襲撃事件は、今年になってエスカレートする兆候もある。ロシアのNTVなどによると、先月二十二日午後六時ごろ、モスクワ中心部の繁華街に近い地下鉄プーシキン駅構内で、アルメニア人大学生、ビゲンさん(17)が友人とキリスト教の復活祭をお祝いしようと、プラットホームに集まっていたところ、地下鉄から降り立ったロシア人の若者の集団に突然襲われ、ナイフで刺されて死亡した。若者たちはそのまま逃走した。
白夜の季節を迎えて外は明るく、乗客らで込み合う地下鉄構内で発生した白昼の殺人事件に、モスクワ市民たちは衝撃を受けたが、ビゲンさんは今年十四人目の犠牲者にしか過ぎない。
その前の週の十四日には、サンクトペテルブルクでアフガニスタン人が治安当局の制服を着た男たちの集団に襲われ暴行を加えられたほか、十三日には、南部のボルゴグラード州でロマニ人(ジプシー)たちの家族が襲撃され二人が死亡、二人が重傷を負った。七日には、サンクトペテルブルクで、人種差別の撤廃を求めて活動していたセネガル人の人権擁護団体指導者が射殺された。
一昨年二月には、同じサンクトペテルブルクでタジク人の少女(9つ)=当時=が帰宅途中に自宅の目の前で十数カ所をナイフで刺されて死亡した事件が発生。今年三月二十二日には、同事件の容疑者の若者たち八人に対する判決公判が行われ、事実上の無実判決である狼藉(ろうぜき)の罪が言い渡された。陪審員たちは、殺害された少女よりも若者たちの将来に配慮した。
ロシアの人権擁護団体ヘルシンキ・グループの法律顧問、ナビツキー氏は、外国人排斥の根には貧困や失業など同国の社会問題があり、その責任を外国人に転嫁する風潮の表れであると指摘したが、「民族主義が要因の事件は、全体の犯罪の1%に過ぎず、それを強調して過剰反応するのはまだ早い」と述べた。
しかし、ロシアの著名なジャーナリスト、ムレチン氏は、ドイツ帝国が第一次世界大戦に敗れて帝政を廃止、ドイツ共和国(ワイマール共和国)の下で復興が始まった一九二〇年代とロシアの現状を比較。「帝国の威信が失墜し、失業者数が増大。そこに登場し人気を博したユダヤ人排斥運動をドイツの官憲は当時、野放しにした」と述べ、ファシズムが誕生する前のドイツと、現代ロシアには数多くの共通点があると警告した。
(引用以上)
それにしても、ロシアというのは相当外国人労働者が多い国のようです。
それもそのはずで、実はロシアはソ連崩壊してから初めてと言っていい好景気なのです。●こちらのニュースによると、最近のGDPが前年比5.4%も伸びています。
その主な原因は、原油の世界的な高騰です。ロシアは世界第2位の原油生産国(1位はサウジアラビア)ですから、原油の希少価値が高まれば高まるほど、ロシアは利益を増やすことができるというわけです。
その好景気に引っ張られて、外国、特にCIS(独立国家共同体。要するに旧ソ連諸国)からの労働者の流入が著しいわけです。
しかし、外国人労働者がどっと押し寄せてくると、治安の悪化や住宅不足など、社会問題が増えるのはどこの国も同じです。ロシア政府は、どのような対応をしているのでしょうか。参考になるのは、●こちらのPDF資料です。
上記のリンク先にもあるように、ロシアも「一応」外国人労働者を管理しようとはしています。しかも許可制=原則禁止なので、かなり厳しいものと言えるでしょう。
しかし、おそらく実態は「ザル法」でしょう。その証拠は、●こちらのブログです。なにしろ、ロシア人の成人の3分の1が賄賂を公務員に渡したことがあるという統計がある(本当)というのです。外国人労働者を受け容れる企業が、内務省の「招待状」とやらをわざわざ請求する遵法意識があるとはとても思えません。
現実は、政府が発表する実態を大きく上回る外国人労働者がロシアの主要都市に流れ込んでいるわけです。
最も重要なことは、冒頭のニュース記事に、「ファシズムが誕生する前のドイツと、現代ロシアには数多くの共通点がある」ということです。
それもそのはずです。どちらも「ランドパワー」(意味は●こちらのサイトを参照)なのです。
ランドパワー(大陸型国家)の特徴は、勢力圏が陸続きになっているので、国境付近に本国とは異なる民族や集団がたくさん存在していることです。
第1次大戦前のドイツはポーランドやチェコを併合していたので、大戦後もそれらの国との国境地帯に「ドイツ人でないドイツ国民」がたくさんいました。また、今のロシアであれば、事実上ロシアの属国となっているCIS諸国がそうです。
これを言い換えれば、ランドパワーは常に国境付近に「反抗勢力」やそれに近い集団を抱えているということです。ロシアを悩ませている問題に、●チェチェン人によるテロがありますが、こういう少数集団による抵抗運動は、最近に始まったことではありません。1648年のボグダン・フメリニツキーの乱(ウクライナ・コサックの反乱)、1837年のケネサルの反乱(カザフ人による反乱)のように、ロシアの歴史では「恒例」といってもよいほどです。
重要なことは、歴史上このようなリスクを抱えずに成立したランドパワー国家は存在しないということです。それゆえ、ランドパワーが強権を振るっている時期には、必ずある行動を取ろうとする、いや、取らざるを得なくなります。
それが、「反対勢力の抹殺」です。
我々日本人には到底思い及ばない選択肢ですが、これこそがランドパワーの本質です。そして、忘れてはならないのは、彼らは悪趣味なのではなく、国家の安全保障という観点から、反対勢力を抹殺せざるを得ないということです。
ヒトラーは国会議事堂放火事件(1933年)後非常事態を宣言しますが、その後やったことは共産党の弾圧でした。その次にやり玉に挙がったのは社会民主党員です。ホロコースト(ユダヤ人根絶作戦)が始まったのが第2次大戦開始後です。実はまずナチスの標的になったのはいわゆる「左翼」だったわけです。
彼らが標的になった理由は簡単です。左翼政党、特に共産党は、ソ連がコントロールしている組織だからです。つまり、国境線付近にいる異民族集団と同じような位置づけにあるというわけです。ソ連からしてみれば、ソ連の国境線を侵しかねないドイツを内部崩壊させるために、ドイツ共産党を飼っているのです。まさに獅子身中の虫です。だからこそ、ヒトラーは共産主義を目の敵にしたのでしょう。
そしてナチスが軍拡、領土拡張、第2次大戦の惹起、ホロコーストといった風に、どんどんおかしな方向へ進んでいったのは、よく知られていることです。
しかし、これを「ナチスという特殊な連中」のやったこととして片づけるべきではありません。極論かもしれませんが、ナチスの歩んだ道こそが、ランドパワーの宿命なのです。
ナチス前後のドイツの歴史を、おおざっぱに抽象化してみるとこうなります。
1.敗戦で国外の領土放棄(外国人は国内に残る)
2.不景気と、それにともなう外国人排斥の動き
3.強硬派の指導者の登場(国民の熱狂的支持)
4.軍拡、領土拡張の野心をみせ、周辺国と対立
5.対立するランドパワー国家との大戦争
1.は「敗戦」を「ソ連崩壊」と置き換えてみてください。ぴったり合致しています。ドイツ帝国の場合と同じく、ソ連の崩壊も、ロシア人のプライドをいたく傷つけたことでしょう。
また、2.はゴルバチョフ、エリツィン政権下での自由経済への転換期です。合理化に伴い、割安な労働力を得るために、外国人労働者が入ってきたのもこの時期です。
そして、3.はプーチン大統領誕生です。政敵を疑獄事件で葬り、テレビ局を支配し、NGOまで許可制にする・・・ヒトラーまでは行かなくても、相当に全体主義的な指導者であることは間違いありません。
プーチンが大量得票で大統領になれたのは、第2次チェチェン戦争で徹底的にチェチェンを叩いた(大量殺戮、大量強姦を行わせた)からです。失われた「強い(ランドパワーである)ロシア」のプライドを国民に取り戻させたわけです。
こういう指導者の姿勢が、偏狭な連中に妙な自信を付けさせたという面もありそうです。
では、4.はどうなのかというと、実はつい先日その動きが出てきました。
●ロシア大統領、軍事大国復活に意欲・年頭教書演説
(以下引用)
ロシアのプーチン大統領は10日、クレムリンで年次教書演説を行い、戦略核兵器の増強を軸にした軍拡路線を明確に打ち出した。従来は軍の近代化を重視してきたが、再び軍事大国化へカジを切る。資源外交の強化も打ち出しており、議長を務める7月の主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)を前に、西側との対立が鮮明になってきた。
上下両院議員らを前に演説した大統領は核兵器の宇宙配備の可能性や小型核兵器開発などに言及し「各国の軍拡競争は新しい段階に入った」と指摘した。そのうえで「戦略的な均衡を保たねばならない」と、軍備拡張を強く訴えた。
具体的には、ミサイルに迎撃されにくい大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めていることや、1990年以来となる核兵器搭載可能な新型原子力潜水艦二隻を近く配備することを表明。特に、戦略核については今後5年間でミサイル、長距離爆撃機、原子力潜水艦への配備を増強する考えを示した。
(引用以上)
この記事の中で重要なのは「核兵器搭載可能な新型原子力潜水艦二隻」と「小型核兵器開発」です。まさか、チェチェンのゲリラと戦うのにこんなオーバーな装備は必要ありません。
あくまで最悪の予想ですが、5.は「アメリカとの大戦争」になる可能性があるのです。
冷戦が終わったのに、どこで何をするのだ?と思うかも知れませんが、舞台になるとすればおそらく「黒海」か「中東」です。
黒海に関しては、●以前の記事でも紹介しましたが、ウクライナの問題です。仮にここに完全にアメリカ寄りの国が誕生してしてしまえば、黒海にアメリカの潜水艦や空母が入ってくることにもなりかねません。そうなると、ロシアの一大石油利権であるカスピ海油田が危なくなるのです。
そして、中東に関しては、やはり油田地帯だということです。ここの石油を全てアメリカが支配すれば、ロシアの「ある戦略」にとって致命傷になりかねないのです。
(以下引用)
欧州連合(EU)は天然ガスなどの安定供給を確保するため、包括的なエネルギー条約をロシアと締結する検討に入った。欧州委員会が作成するエネルギー共通政策の具体案に盛り込み、23日からのEU首脳会議で協議する。
現在は加盟国が個別にロシアと条約を結んでいるが、これをEU共通の条約に切り替える。対ロシアでは今年初め、ウクライナとの紛争や記録的な寒波で欧州向けの天然ガス供給が減少する事態が起きた。特にロシアへの依存度が高い中・東欧諸国は危機感を強めており、EU全体としての対応を求めていた。
(3月9日、日経新聞ウェブ版より)
(引用以上)
簡単に言えば、ロシアはエネルギーをダシに、EUを支配しようと考えているのです。ここにアメリカが安定した石油供給を申し出たりなどしたら、せっかくの構想が台無しというわけです。
アメリカ、フランス、イギリス、そして日本も含めた各国が、核開発が疑われるイランに対して、これ以上馬鹿な真似はやめろと言っているのにも関わらず、ロシアは「イランと一緒になってウラン濃縮をやりたい」などととんでもないことを主張しています。
その動機は簡単です。イランまでアメリカの手に落ちたら、ロシアは窮地に立たされるからです。イランはカスピ海最大の油田、バクー油田を擁するアゼルバイジャン共和国の隣国です。つまり、イランを取られれば、アメリカの「石油力」が増大し、自分のそれが脅かされることになるのです。
このロシアの行動を見るに付け、もうすでに戦争は始まっているのではないかと思ってしまいます。
外国は中国、朝鮮だけではありません。みなさんも、是非ロシアの今後の動向に注目しましょう。