カトウは激怒した。時間講師の仕事が、今年度もあるにはあるのだが、細かい内容がまだわからない。しかし、その学校から全く連絡が来ないのだ。
カトウには上層部のあれこれはわからぬ。カトウは最底辺の時間講師である。けれども4月に入っても連絡がないのは、講師と言う仕事があまりにも軽んじられているという事に他ならない。「忘れていた」などという言い訳は通用せぬ。
「こちらから連絡せよ」、そういう言葉が聴こえてくるが、カトウは連絡をしない。5日に職場に行くつもりだからだ。
どうせ春休みが終わって学校が動き出すのは5日からだろう。しかし5日は入学式だけで、授業がないかもしれない。授業が無ければ講師は来る必要はない。それでもカトウは行くのだ。どうせ暇だし、そこで今年度の授業の事をあれこれ把握してくるつもりなのだ。
それにしても、連絡来ないってどういうこと??と、改めてカトウは激怒した。
カトウは単純な男であった。怒りに身を任せ、駆け出した。カトウは激怒し、カトウは走った。そしてKATO'Sキッチンに到着した。
閑静な住宅街にひっそりと佇む隠れ家キッチン。そのアパートの外階段を上り、ドアを開ける。
「いらっしゃい」
変わらぬ大将。こちらも靴を脱いで、キッチンを抜けて和室へと進む。
腰を下ろすとすかさず出てくるお通し。
・ちくわきゅうり
シンプルなお通しがたまらない。いつものように発泡酒を注文する。
続いてはいつもの二品目。
・ポテサラ
これもシンプル。ポテサラに複雑な旨味はいらない。いや、それはそれで美味しいけど、このシンプルさがやっぱり好きだ。
お代わりはいつものレモンサワー。そして最後はお刺身をいただく。
・びんちょうまぐろ
「あれ、このお皿、初めて見ますね」、そう言うと、大将は
「ええ、ちょいと先日、偶然手に入れまして」と。
「器もやっぱり、こだわりがあるんですか?」と訊くと、大将は
「いや、こだわりなんて事もないですが、ふとね、偶然見かけた時に、あ、こいつに、刺身を盛りたい、って思ったりするんですよ。刺身じゃなくてもね、あ、この器にサラダを盛りたい、とか、この器にはお新香を盛りたい、とかね、思う事があるんですよ。そう思っちゃうとね、とたんにその器が、愛おしく思ってしまうんです」
そこまで言うと、大将は、急に照れたように
「ま、たまにですがね」
と言って、背を向けてしまった。大将から、こんなにたくさんの言葉を聞いたのは初めてかもしれない。
「そうか...」と、思わず漏れた。すると大将は
「料理をしていれば、自然と、ですかね」とポツリ。
お会計を済ませて店を出る。
帰り道を歩きながら、先ほどの大将の言葉を思い出す。
「料理をしていれば、自然と」
僕は何をしてきたのだろう。何をしているのだろう。
今までやってきたことを、低く見てはいけないし、もちろんうぬぼれてもいけない。
今これをやってみたい!という事があれば、それが今の自分にとって自然の流れなのかもしれない。
今やってみたいと思う事、とりあえずそれを一生懸命にやってみたらいいじゃない。
ありがとう、大将。
カトウには上層部のあれこれはわからぬ。カトウは最底辺の時間講師である。けれども4月に入っても連絡がないのは、講師と言う仕事があまりにも軽んじられているという事に他ならない。「忘れていた」などという言い訳は通用せぬ。
「こちらから連絡せよ」、そういう言葉が聴こえてくるが、カトウは連絡をしない。5日に職場に行くつもりだからだ。
どうせ春休みが終わって学校が動き出すのは5日からだろう。しかし5日は入学式だけで、授業がないかもしれない。授業が無ければ講師は来る必要はない。それでもカトウは行くのだ。どうせ暇だし、そこで今年度の授業の事をあれこれ把握してくるつもりなのだ。
それにしても、連絡来ないってどういうこと??と、改めてカトウは激怒した。
カトウは単純な男であった。怒りに身を任せ、駆け出した。カトウは激怒し、カトウは走った。そしてKATO'Sキッチンに到着した。
閑静な住宅街にひっそりと佇む隠れ家キッチン。そのアパートの外階段を上り、ドアを開ける。
「いらっしゃい」
変わらぬ大将。こちらも靴を脱いで、キッチンを抜けて和室へと進む。
腰を下ろすとすかさず出てくるお通し。
・ちくわきゅうり
シンプルなお通しがたまらない。いつものように発泡酒を注文する。
続いてはいつもの二品目。
・ポテサラ
これもシンプル。ポテサラに複雑な旨味はいらない。いや、それはそれで美味しいけど、このシンプルさがやっぱり好きだ。
お代わりはいつものレモンサワー。そして最後はお刺身をいただく。
・びんちょうまぐろ
「あれ、このお皿、初めて見ますね」、そう言うと、大将は
「ええ、ちょいと先日、偶然手に入れまして」と。
「器もやっぱり、こだわりがあるんですか?」と訊くと、大将は
「いや、こだわりなんて事もないですが、ふとね、偶然見かけた時に、あ、こいつに、刺身を盛りたい、って思ったりするんですよ。刺身じゃなくてもね、あ、この器にサラダを盛りたい、とか、この器にはお新香を盛りたい、とかね、思う事があるんですよ。そう思っちゃうとね、とたんにその器が、愛おしく思ってしまうんです」
そこまで言うと、大将は、急に照れたように
「ま、たまにですがね」
と言って、背を向けてしまった。大将から、こんなにたくさんの言葉を聞いたのは初めてかもしれない。
「そうか...」と、思わず漏れた。すると大将は
「料理をしていれば、自然と、ですかね」とポツリ。
お会計を済ませて店を出る。
帰り道を歩きながら、先ほどの大将の言葉を思い出す。
「料理をしていれば、自然と」
僕は何をしてきたのだろう。何をしているのだろう。
今までやってきたことを、低く見てはいけないし、もちろんうぬぼれてもいけない。
今これをやってみたい!という事があれば、それが今の自分にとって自然の流れなのかもしれない。
今やってみたいと思う事、とりあえずそれを一生懸命にやってみたらいいじゃない。
ありがとう、大将。
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