伝説の歌番組・夜のヒットスタジオを語る

伝説の音楽番組「夜のヒットスタジオ」の22年間の足跡を通じて、日本の歌謡界が最も輝いていた時代を振り返ります。

夜ヒット・名シーン~久保田利伸「It's BAD」(87年10月14日放送)

2007-10-07 | 夜のヒットスタジオ/名シーン
今回の「夜ヒット・名シーン」シリーズは、久保田利伸の「It's BAD」を取り上げます。

このシーンは1987年10月14日放送での一コマです。

この曲は元々は、まだ正式なプロのアーティストとしてはデビューしていなかった1985年秋に、当時のトップアイドル・田原俊彦のシングル曲として久保田が作曲を手がけた曲であり、一般に「It's BAD」といえば、「田原俊彦がラップに挑戦した曲」として認知度が高い楽曲です。

夜ヒットのシーンとしては、久保田単独でのシーンよりも、むしろ87年末の「スーパーデラックス」での田原と久保田とのジョイントのシーンのほうが印象に強い方が多いのかもしれません。ただ、私管理人個人としては、田原とのジョイントでの場面よりも、初のマンスリー時の単独での熱演ぶりの方がかなり衝撃的でもあり、斬新でもありで、印象が強いです。

まず、このシーン自体の感想を述べる上で、彼がなぜ番組マンスリーに抜擢されたのか、という点にも触れておく必要があるかもしれません。

この1987年10月期における彼の夜ヒットマンスリーゲストへの抜擢は、当時の音楽・放送関係者の大半からは「ヒットスタジオは大きな賭けに出た」と理解されていたようです。

それまでの夜ヒットのマンスリーゲストの人選は、大抵は番組に多大な貢献をしてきた常連組のアーティスト(五木ひろし・布施明・西城秀樹・郷ひろみ等)が中心で、新人や番組に出演している頻度が少ないアーティストにはまず、順番が回ってくるということは有り得ないことでした。
他方、この当時の久保田の歌手としての位置づけは、プロアーティストとして正式にデビューしてからまだ1年足らず、夜ヒットへの出演実績もマンスリー起用の時点では1987年8月の「TIMEシャワーに射たれて」での初出演の1回のみ、といういわば「新人同然」のような格付けであり、それまでのマンスリーゲスト起用の原則からすれば、「論外」となるはずでした。

しかし、この頃、丁度プロデューサーが、長年番組を牽引してきた疋田拓から若手・中堅クラスの渡邉光男に交替。構成担当も「ドンドンクジラ」こと塚田茂が監修という位置づけとなり製作の一線から離れ、これも若手だった木崎徹に交替、といった具合に、番組中枢スタッフの新旧交替の流れが加速。木崎・渡邉らを中心とする若手スタッフの間では「夜ヒット」の番組イメージを変えたいという思いが強くあったらしく、その中で、それまで常連組の牙城となっていた「マンスリー」の人選の方針も「必ずしもこれまでのキャリア、番組への寄与度を重視せず、むしろ音楽的才能や話題性を重視すべき」という考えに改められ、その方針に沿う形で、新人に近い位置づけであった久保田がマンスリーに抜擢された、という事情が、その「意外性を以て迎えられた」ということの背景に存在します。

久保田はこの1987年と翌1988年の2回、同じく10月期にマンスリーを担当し、それぞれに時にはパワフルに、時にはシックに、変幻自在の質の高いパフォーマンスを展開し、それぞれに印象に強い場面を展開し、確実にこのマンスリーへの連続での抜擢が彼の音楽界での格を向上させる契機といっても過言ではありませんが、とりわけ最初の「大抜擢」と評された1987年のマンスリーゲストのときのパフォーマンスは、相当のプレッシャーを押し殺しての熱演の数々だけあって、その細部にはかなりの「緊迫感」が感じ取れます。

この「It's BAD」のときもやはり全般を通してみると、大胆なパフォーマンスの細部にはやはり、随所に彼の並々ならぬ緊張感が感じ取れます。
ただ、田原俊彦版とは異なりラップの部分を宮沢賢治の「雨ニモマケズ」をアレンジした詞で披露しています。そこは、やはり、どれだけ緊張していても、「音楽」というものを「楽しむもの」として理解することを忘れない、彼らしい「遊び心」がしっかりと盛り込まれています。

とにかく、1回見て感じた感想は「凄い」という言葉以外に説明がまずいらないだろうというぐらいの迫力がありました。「遊び心」と「緊張感」が巧みに交差しあった独特の雰囲気、そして、スタジオ狭しと歩きながら、熱演・熱唱をする久保田の軽快さ。そして随所から当てられるスポットライトの嵐。久保田の姿・歌声、そしてスタジオの演出を全体を通じて、さながら「異次元」に入り込んだかのような不思議な感覚を見ている側は感じ、一通り見終わると、若干の虚脱感を感じ、そしてすぐにもう一度この場面を見返したいという気持ちがわいてきます。まさにこの久保田のソロでの「It's BAD」は「名シーンとはかくあるべき」といえる絶妙なシーンであると思います。

「ラップ」に抵抗感を感じる人も結構多い(実際に私もそうですが…)と思いますが、彼のこの夜ヒットマンスリーで披露した「It's BAD」に関しては、ラップ嫌いな人でも「別腹」の感覚ですんなりと入り込めるんじゃないでしょうか。

今度、CSでもこのときの場面が再放送されるようなので、まだ見たことがない人は是非、この再放送を通じて、久保田の変化自在な歌の世界、「異次元」の世界に触れてみてください。とにかく、圧倒されること間違いなしだと思います。
(※動画リンクは下記番組ロゴ画像に貼ってあります。)


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