2023年5月のブログです
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立原正秋さんの長編小説『その年の冬』(1984・講談社文庫)を再読する。
立原さん最後の長編小説。
1979年(昭和54年)10月18日から読売新聞朝刊に連載され、翌年4月18日に第一部完となる。
この間、立原さんは、1980年(昭和55年)2月に肺気腫ということで入院、3月1日にいったん退院をするが、4月7日に再入院、肺がんと判明する。
立原さんは再入院後もこの作品を書き続け、しかし、さすがに、当初、9月までの連載予定を4月で第一部完という形にして、責任を果たす。
すごいプロ意識と責任感に感動する。
同年8月12日死去。
立原さんらしい最後であった。
この小説もあらすじはあえて書かないが、本物の生き方を求めるものと虚飾の世界を生きるものとの対比を厳しく描く。
美しいものには温かく、優しいが、醜いものやずるいものにはとことん厳しい立原さんの世界はここでも健在だ。
男の友情も楽しく描かれる。
そして、立原さんの描く男女の世界は、やはり美しさと醜さの対比が厳しい。
理想と現実、しかし、その中でもがく人たちにも、以前よりは温かいのは気のせいだろうか。
厳しいが、読後感のよい小説である。 (2023.5 記)