ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

大平健『純愛時代』2000・岩波新書-ていねいな精神科医の面接風景に学ぶ

2024年07月03日 | 精神療法に学ぶ

 たぶん2014年ころのブログです

     *  

 大平健さんの『純愛時代』(2000・岩波新書)を再読しました。

 『豊かさの精神病理』(1990)、『やさしさの精神病理』(1995)に続く、大平さんによる岩波新書の精神医学三部作の一冊。

 大平さんはあの有名な土居健郎さんのお弟子さんの精神科医ですが、その面接風景は確かです。

 本書は岩波新書らしからぬ(?)、くだけておしゃれな(?)題名ですが、内容はしっかりしていて、読みごたえがあります。

 どの章も、大平さんの、おそらくはふだんどおりの、ていねいな精神科臨床の面接風景を描写されているのだろうと思います。

 今回、じーじが特に印象に残ったのが、第3章の「マーガレットのある部屋」という文章。

 映画のクレーマークレーマーそっくりのストーリーで、奥さんに逃げられただんなさんと子どもの奮闘記です。

 そこに若い保母さんの少しだけ職業を超えた愛情がからみ、事態が複雑になります。

 だんなさんのがんばりの甲斐もなく、離婚裁判で子どもは奥さんに奪われ、だんなさんは疲れ果てて、発病します。

 保母さんに精神科病院に連れてこられただんなさんが大平さんとの面接の中で少しずつ状況や事態を理解していきます。

 その過程はとてもていねいで、精神医学的にも適切なようです。

 やがて、だんなさんは自ら、もとの奥さんへの「未練」や「うらみ」や「意地」に気づきます。

 さらには、保母さんとの愛情にもきちんと向き合えるようになって、自分らしく出発するところで話は終わります。

 人が人との関わりあいの中で、自分らしさを取り戻していくという過程がていねいに描かれていて、感動的です。

 他にも、「透明な膜に包まれて」とか、「ろ過された想い」「天使の仕業」などなど、興味深いお話が満載です。

 大平さんの症例報告は本当にドラマのようですごいです。

 じーじも少しでも見習えるよう、これからもていねいな面接をしていきたいと思います。      (2014?記)

     *

 2020年11月の追記です

 未練、うらみ、意地、といえば、じーじが裁判所に入って調査官補の時に指導官だった山野保さんの研究テーマでした。

 部屋の先輩たちと熱く議論をしていた山野さんを思い出します。

 その成果は、『「うらみ」の心理』や『「未練」の心理』、『「意地」の構造』、さらには、中井久夫さんらとの共著である『「意地」の心理』(いずれも創元社)などといった本になっています。

 じーじも、もっともっと勉強しなければなりません。     (2020. 11 記)

 

コメント

石井次雄『拓北農兵隊-戦災集団疎開者が辿った苦闘の記録』2019・旬報社-なつぞら・天陽くんの苦労を想う

2024年07月03日 | 北海道を読む

 2019年のブログです

     *

 石井次雄さんの『拓北農兵隊-戦災集団疎開者が辿った苦闘の記録』(2019・旬報社)を読みました。

 拓北農兵隊、あの天陽くん一家が十勝で苦労をした開拓団。

 そして、開高健さんの『ロビンソンの末裔』にも描かれています。

 本書を読むと、時の政府やお役人のいいかげんさと現地の困惑ぶり、その中でたいへんな苦労を強いられた人々の姿がよくわかります。

 著者自身も北海道の長沼町というところに開拓に入って、苦労をされたかた。その筆は重いです。

 感情に流されずに、たくさんの貴重な資料や書物をもとに、冷静に、客観的に、この農業政策の無謀さと無責任さを描き出しています。

 立案者には戦後、政治家や企業家になるかたもいますが、おそらくはきちんとした総括はなされていないでしょう。

 ましてや、組織の一員だったそれぞれのお役人の無責任さも追及されていないのだろうと思います。

 組織と官僚制、無責任体制の問題は今も大きな課題ですが、戦前はもっともっとたいへんだったと思います。

 その犠牲者、そして戦争を起こした軍人たちや政治家たちの犠牲となったのが、この開拓団だったといっても過言ではないのかもしれません。

 その体験は過酷で、簡単には読み進めません。二度と同じようなことが起こらないことを願うばかりです。

 なお、本書で引用されている書物の中には、じーじがすでに読んだことのあるものもあったのですが、拓北農兵隊のことだと気づかずに読み流していたものもあり、さらにきちんと読む必要があるな、と反省をさせられました。

 さらに勉強をしていこうと思います。     (2019.9 記)

     *

 2021年10月の追記です

 児童文学作家の加藤多一さんのエッセイ『北に行く川』(1990・北海道新聞社)を再読していたら、滝上町の拓北農兵隊の記述に出会いました。読み落としていました。まだまだ勉強不足です。     (2021.10 記)

     *

 2021年12月の追記です

 菊地恵一『もうひとつの知床-戦後開拓ものがたり』(2005・北海道新聞社)を再読していると、知床の拓北農兵隊の記述がありました。これも読み落としです。もっともっと勉強をしなければなりません。     (2021.12 記)

 

コメント (2)