ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

中井久夫『「伝える」ことと「伝わる」こと』2012・ちくま学芸文庫-ていねいな精神科治療に学ぶ

2024年07月01日 | 精神科臨床に学ぶ

 たぶん2018年ころのブログです

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 中井久夫さんの『「伝える」ことと「伝わる」こと』(2012・ちくま学芸文庫)を再読しました。

 おそらく3~4回目、単行本の時も含めると、数回は読んでいると思うのですが、なぜか今回も新しい発見が数多くあって(?)、新鮮な驚き(?)をたくさん経験できました。

 記憶力がだんだんあやしくなってきているお年寄りの特権(?)です。

 本の内容は中井さんのご専門の統合失調症や神経症の治療論が中心ですが、いずれもあくまでも中井さんご自身の体験に基づいた丁寧な治療のあり方を述べられていて、心理臨床に携わる者にもたいへん参考になります。

 中でもじーじが今回、参考になったのが「意地」の問題。

 ここのところ、「うらみ」や「意地」のことについて考えているので、いろいろと参考になりました。

 特に、「意地」を張っていることをそっと汲んであげると「うらみ」になりにくい、というご指摘はすごいと思いました。

 他にも、初期のロールシャッハテストには枠があった、とか、びっくりするような話題ものっています。

 博学で、しかも、地に足の着いた中井さんの治療と文章は、本当に素敵ですし、貴重だと思います。

 今後もさらに学びつづけていきたいと思います。      (2018? 記)

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 2021年4月の追記です

 心理療法における「枠」の重要性や不思議さということを考えます。

 中井さんの考案した風景構成法という心理テストでは、治療者がまず紙に外枠を描きます。

 そうすることで統合失調症の患者さんでも心理的に安全に絵を描くことができます。

 風景構成法のもとになった箱庭療法でも、統合失調症の患者さん用の箱庭は、木の枠が通常より少し高くなっていて、患者さんを心理的に護るようです。

 不思議ですが、「枠」が大切なポイントになっているようです。

 さらに、心理療法では、「枠」としての時間の重要性も挙げられます。

 決まった時間だからこそ、治療者も患者さんも護られるようです。

 もっともっと、勉強を深めたいと思います。     (2021.4 記)

 

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村上春樹『一人称単数』2020・文藝春秋-死の影、邪悪なるもの、そして、黒ビール

2024年07月01日 | 村上春樹を読む

 2020年夏のブログです

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 村上春樹さんの新しい短編集『一人称単数』(2020・文藝春秋)を読みました。

 6年ぶりの短編小説集ということで、8作からなります。

 面白かったです。

 短編小説集というのは、いろいろな小説が入っているので、それぞれに感じるところがあって、面白いです。

 いわば、日替わり定食みたいで、どれもそれぞれにいいです。

 ここで、突然、日替わり定食のたとえが出てきたのは、おそらくは、最近、読んだ原田マハさんの『まぐだら屋のマリア』(2014・幻冬舎文庫)のせいだと思うのですが、そういえば、マハさんのこの小説も、死、邪悪、そして、生き残ることなどがテーマだとも読めます。

 さて、村上さんの短編集。

 それぞれに味わい深い小説が並びますが、そこに流れている共通なもの、それは、死の影、邪悪なるもの、などでしょうか。

 もちろん、これは、あくまでも、じーじの今の感じ方ですが、ただ、村上さんの小説といえば、『羊をめぐる冒険』以来、死と邪悪なるもの、がテーマの一つではないか、とじーじは思っていて、この短編集でもそれを感じてしまいます。

 そんな中で、「クリーム」に出てくる関西弁の不思議な老人、知恵を授けてくれるかのような「老賢者」のような老人、ここの場面でわたしはなぜか河合隼雄さんを思い浮かべました。河合さんが大切なことを関西弁でしゃべっている…。

 そして、黒ビール。

 これは、「ヤクルト・スワローズ詩集」という短編に出てくるのですが、村上さんは、自分の書いている小説を、みなさんの好まれる普通のラガービールでなく、黒ビールにたとえます。

 ちょっと苦いけど、奥の深い黒ビール。

 いいですねぇ。じーじも大好きです。

 文字通り、味わい深い短編集です。      (2020.7 記)

 

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