「先生、わたしね。いい人になりたいなって思ってて、自分のためじゃなくて誰かのために泣いてあげたいなって、ずーっと思ってて、そんなのってすごく嘘っぽいから、なんかけっこう厭になっちゃったりするんだけど、そういうのっていいな、って」なに言ってるんだろう。先生も困った顔で、うん、まあ、それは大事だよな、とぼそぼそと言う。....あ、いまなら泣けそうだ、と思った。顔を上げたら、きっと。でも、先生は最後に嬉しそうに言った。「笹岡、笑えるようになったんだな。もう、だいじょうぶだな。お父さんもお母さんも心配してたもんなあ、よかったなあ、もうちょっとだな。」(重松 清著 「未来」より引用) 心の傷が癒えない少女がやっと、自分の気持ちを言葉にした時、先生の返事が、お見事です。私は、こういうデリケートな感性が堪えるのです。