(飯田彩乃)
〇 きみの指とわたしの膚(はだ)のあわいにも他人という名の層があるのだ
恋人と熱烈な愛撫を交わしている最中に、「きみの指とわたしの膚のあわいにも他人という名の層があるのだ」などと無粋なことを仰ってはいけません。
既に一線を越えているのですから、「たにんという名の層」は克服させている筈ではありませんか?
表記及び表現上の問題点について指摘すれば、「膚(はだ)」という振り仮名付きの表記は無用であり、また、一首全体が口語調で終始しているのでありますから、三句目を「あわいにも」とせずに「間にも」とした方が宜しいかと思われます。
〔返〕 くれなゐに胸乳染めたる抱き合ひ君と我とはもはや合体 鳥羽省三
「合体」なんて言うと、『釣りバカ日誌』みたいな感じになってしまうのでありますが、一首全体をお笑いにしてしまうのも宜しいかと思いますが、もう少し露骨に言いますと、次のような一首ともなりましょう。
くれなゐに胸乳染めての四つ相撲 琴と稀勢とはもはや同体 鳥羽省三
(螢子)
〇 嘘ひとつ隠すためまた嘘をつく君の言葉は層と成りゆく
「嘘」を吐いてばかり居る不実な彼に対する、本作の作者・螢子さんの感情が剥き出しにされている一首である。
「嘘」と「嘘」の間に、また別の「嘘」が挟まっていたりして、「君の言葉」は「嘘」を幾つも重ねた“ミルフィーユ”状態になっていることを、逸早く見破ったのでありましょうか?
〔返〕 吐いた噓かくすため吐く嘘も在り彼の心は嘘のミルフイユ 鳥羽省三
(砺波湊)
〇 「ざわめきって層になるんだ緞帳の脇から暗い客席見れば」
場末のストリップ小屋の“演出家兼幕引き”になって一生を送ることが、十代の頃の私の夢でありましたが、こと志しとは異なり、国語教師という極めて詰まらない職業に従事して老いる結果となってしまいました。
本作は、そんな若い頃の私が、舞台の袖に居て、ふと漏らしてしまった溜息のような作品である。
一首全体を「鍵カッコ」で囲むなど、名手・砺波湊さんとしても、それなりに工夫を凝らした、棄て難い作品でありましょう。
〔返〕 「踊り子の流せる汗と涙とが乾く間も無く次の出番が!」 鳥羽省三
(梅田啓子)
〇 わがこころの断層写真に映りいる埋まることなき若き日の孔
未だに「わがこころの断層写真に映り」居て、永久に「埋まることなき若き日の孔」とは、巧まずして、よく言い得た言葉である。
歌詠み特有の感情の激しさと情熱的な言行ゆえに、ぽっかりと空いた心の「孔」でありましょうか?
〔返〕 若き汝のMRIに映り居て永久に消し得ぬ感情の襞 鳥羽省三
(原田 町)
〇 わが乗りし電車は地下何層目この上下にも線路あるらむ
“東京メトロ”の各駅の窓口で貰える“メトロネットワーク”というパンフレットを眺めていると、東京都内の地下には、“東京メトロ”や“都営地下鉄”の電車が縦横無尽に走っていて、一種複雑な錯綜状態を極めていることが解るのであるが、それらの中で、最も多くの地下鉄電車が止まるのは“大手町駅”である。
同駅には、東京メトロの千代田線・丸ノ内線・東西線・半蔵門線の電車に加えて都営地下鉄の三田線の電車も止まるので、駅の地下は、少なくとも五層を成しているものと判断される。
本作、即ち「わが乗りし電車は地下何層目この上下にも線路あるらむ」という、首都圏の住人でなければ解らないような一首を為したのは、恐らくは、本作の作者・原田町さんが、久しぶりに日本橋の三越本店の宝石売り場にお出掛けになろうとした際に、乗車なさった電車が“大手町駅”乃至は“永田町駅”の辺りに差し掛かった時でありましょうか?
私の予測が的中しているか否かは、原田町さんのコメントに拠らないと判りませんから、ご多忙中、大変失礼には存じますが、原田町さん、何卒、宜しくお願い申し上げます。
〔返〕 勝手なる予測を立てし魂胆は貴女のコメントの誘引にあり 鳥羽省三
きのふ我が銀座で見惚れし貴婦人は恐らく原田町さんならむ
きのふ我が築地の市場で出会ひしは買ひ出し姿の町さんならむ
なんちゃって、勝手なことばっか書いてる“71歳4ヵ月半”である。
(藤田美香)
〇 二層めに閉じ込められた時間からあたしのルーツを嗅ぎ出している
藤田美香さんの御作中の「層」は、原田町さんの御作中の「層」とは異なって、地下鉄電車の線路の「層」では無く、藤田美香さんご自身の存在の「層」でありましょうか?
だとしたら、その「層」は地下鉄の線路以上に錯綜を極めていて、先ず、全体が「過去・現在・未来」と三層を成していて、それらの三層も亦、それぞれ幾つかの「層」を成しているのでありましょう。
作者・藤田美香さんが「二層めに閉じ込められた時間からあたしのルーツを嗅ぎ出している」とお詠みになっておられる「二層め」とは、恐らくは、三層を成している「過去」の「層」の中の「二層め」のことでありましょう?
最近、何かと話題になっている“ニュートリノ”は光速を超えているということでありますから、それに乗って、
藤田美香さんご自身の存在の“過去の層”の「二層め」に遡って行けば、ご自身が仰る通り、恐らくは「閉じ込められた時間からあたしのルーツを嗅ぎ出」すことも可能なことでありましょう。
そういうことでありますから、どうぞ頑張って下さい。
でも、貴女の過去が“醜いアヒルの仔”であったとしても、そんなにがっかりすることはありませんよ。
〔返〕 飾り窓に閉ぢ込められし夕べから娼婦の君を救ひ出したい 鳥羽省三
玉ノ井の「抜けられ桝」の袋路で吾と出遭ひし過去世の汝よ
玉ノ井の「抜けられ桝」の袋路で娘らの遊べる大波小波
〇 きみの指とわたしの膚(はだ)のあわいにも他人という名の層があるのだ
恋人と熱烈な愛撫を交わしている最中に、「きみの指とわたしの膚のあわいにも他人という名の層があるのだ」などと無粋なことを仰ってはいけません。
既に一線を越えているのですから、「たにんという名の層」は克服させている筈ではありませんか?
表記及び表現上の問題点について指摘すれば、「膚(はだ)」という振り仮名付きの表記は無用であり、また、一首全体が口語調で終始しているのでありますから、三句目を「あわいにも」とせずに「間にも」とした方が宜しいかと思われます。
〔返〕 くれなゐに胸乳染めたる抱き合ひ君と我とはもはや合体 鳥羽省三
「合体」なんて言うと、『釣りバカ日誌』みたいな感じになってしまうのでありますが、一首全体をお笑いにしてしまうのも宜しいかと思いますが、もう少し露骨に言いますと、次のような一首ともなりましょう。
くれなゐに胸乳染めての四つ相撲 琴と稀勢とはもはや同体 鳥羽省三
(螢子)
〇 嘘ひとつ隠すためまた嘘をつく君の言葉は層と成りゆく
「嘘」を吐いてばかり居る不実な彼に対する、本作の作者・螢子さんの感情が剥き出しにされている一首である。
「嘘」と「嘘」の間に、また別の「嘘」が挟まっていたりして、「君の言葉」は「嘘」を幾つも重ねた“ミルフィーユ”状態になっていることを、逸早く見破ったのでありましょうか?
〔返〕 吐いた噓かくすため吐く嘘も在り彼の心は嘘のミルフイユ 鳥羽省三
(砺波湊)
〇 「ざわめきって層になるんだ緞帳の脇から暗い客席見れば」
場末のストリップ小屋の“演出家兼幕引き”になって一生を送ることが、十代の頃の私の夢でありましたが、こと志しとは異なり、国語教師という極めて詰まらない職業に従事して老いる結果となってしまいました。
本作は、そんな若い頃の私が、舞台の袖に居て、ふと漏らしてしまった溜息のような作品である。
一首全体を「鍵カッコ」で囲むなど、名手・砺波湊さんとしても、それなりに工夫を凝らした、棄て難い作品でありましょう。
〔返〕 「踊り子の流せる汗と涙とが乾く間も無く次の出番が!」 鳥羽省三
(梅田啓子)
〇 わがこころの断層写真に映りいる埋まることなき若き日の孔
未だに「わがこころの断層写真に映り」居て、永久に「埋まることなき若き日の孔」とは、巧まずして、よく言い得た言葉である。
歌詠み特有の感情の激しさと情熱的な言行ゆえに、ぽっかりと空いた心の「孔」でありましょうか?
〔返〕 若き汝のMRIに映り居て永久に消し得ぬ感情の襞 鳥羽省三
(原田 町)
〇 わが乗りし電車は地下何層目この上下にも線路あるらむ
“東京メトロ”の各駅の窓口で貰える“メトロネットワーク”というパンフレットを眺めていると、東京都内の地下には、“東京メトロ”や“都営地下鉄”の電車が縦横無尽に走っていて、一種複雑な錯綜状態を極めていることが解るのであるが、それらの中で、最も多くの地下鉄電車が止まるのは“大手町駅”である。
同駅には、東京メトロの千代田線・丸ノ内線・東西線・半蔵門線の電車に加えて都営地下鉄の三田線の電車も止まるので、駅の地下は、少なくとも五層を成しているものと判断される。
本作、即ち「わが乗りし電車は地下何層目この上下にも線路あるらむ」という、首都圏の住人でなければ解らないような一首を為したのは、恐らくは、本作の作者・原田町さんが、久しぶりに日本橋の三越本店の宝石売り場にお出掛けになろうとした際に、乗車なさった電車が“大手町駅”乃至は“永田町駅”の辺りに差し掛かった時でありましょうか?
私の予測が的中しているか否かは、原田町さんのコメントに拠らないと判りませんから、ご多忙中、大変失礼には存じますが、原田町さん、何卒、宜しくお願い申し上げます。
〔返〕 勝手なる予測を立てし魂胆は貴女のコメントの誘引にあり 鳥羽省三
きのふ我が銀座で見惚れし貴婦人は恐らく原田町さんならむ
きのふ我が築地の市場で出会ひしは買ひ出し姿の町さんならむ
なんちゃって、勝手なことばっか書いてる“71歳4ヵ月半”である。
(藤田美香)
〇 二層めに閉じ込められた時間からあたしのルーツを嗅ぎ出している
藤田美香さんの御作中の「層」は、原田町さんの御作中の「層」とは異なって、地下鉄電車の線路の「層」では無く、藤田美香さんご自身の存在の「層」でありましょうか?
だとしたら、その「層」は地下鉄の線路以上に錯綜を極めていて、先ず、全体が「過去・現在・未来」と三層を成していて、それらの三層も亦、それぞれ幾つかの「層」を成しているのでありましょう。
作者・藤田美香さんが「二層めに閉じ込められた時間からあたしのルーツを嗅ぎ出している」とお詠みになっておられる「二層め」とは、恐らくは、三層を成している「過去」の「層」の中の「二層め」のことでありましょう?
最近、何かと話題になっている“ニュートリノ”は光速を超えているということでありますから、それに乗って、
藤田美香さんご自身の存在の“過去の層”の「二層め」に遡って行けば、ご自身が仰る通り、恐らくは「閉じ込められた時間からあたしのルーツを嗅ぎ出」すことも可能なことでありましょう。
そういうことでありますから、どうぞ頑張って下さい。
でも、貴女の過去が“醜いアヒルの仔”であったとしても、そんなにがっかりすることはありませんよ。
〔返〕 飾り窓に閉ぢ込められし夕べから娼婦の君を救ひ出したい 鳥羽省三
玉ノ井の「抜けられ桝」の袋路で吾と出遭ひし過去世の汝よ
玉ノ井の「抜けられ桝」の袋路で娘らの遊べる大波小波