[佐佐木幸綱選]
○ 納豆をかきまぜながら見ておりぬ救出される人人人人 (香川県) 薮内眞由美
過ぎし日に地球の裏側の国・チリで発生した鉱山の落盤事故とその結末に取材した作品かと思われる。
逆の見方をすれば、ごく普通の日本人が「納豆をかきまぜ」るといった日常生活の中の、ごく普通の一瞬の間にも、この地球中の何処かで尊い人間の命が失われて行く、ということにもなりましょうか。
〔返〕 わたくしがこの文章を綴る間に春の準備をする水仙の芽 鳥羽省三
チューリップの球根やパンジーの苗を餓えた先日に続いて、一昨日は水仙の球根を植えました。
来春が楽しみです。
○ 指名され男子生徒は取り囲みグランドピアノを「せいの!」と運ぶ (奥州市) 大松澤武哉
中学校や高等学校の音楽の先生の大半は女性でしかも美しく、その学校の男子生徒たちからアイドル視されているのである。
したがって、学期末などの大掃除などの際に、そのアイドル先生から、「鳥羽君と三好君と中牟田君と万里小路君と松坂君は音楽室に来て下さい。安田君は来なくて宜しい」などとのお声掛かりがあろうものなら、「来なくて宜しい」と言われた安田君まで、待ってましたとばかりに音楽室に駆けて行って、お姫様を助けるナイトよろしく「せいの!」と声を上げて、運ばなくてもいい「グランドピアノ」を持ち上げてしまうのである。
と、ここまで書いて来て、ふと作者名に注目したら、其処に書かれていた名前は、<大松澤武哉>という、昨日熊の巣穴から出て来たような男性名であったので吃驚仰天。
私が期待していたのは、<木村かおり>とか<前田あんぬ>とか<松下奈緒>とか<城門芙美子>とか、いかにも美人女性ピアニストらしいお名前だったのである。
思うに、本作の作者・大松澤武哉さんは、その学校の体育科主任の先生か、教頭先生であり、彼も亦、年若いアイドル先生からのお声掛かりを密かに期待して、自分自身の持ち場を離れて、音楽室の前辺りを徘徊していたのかも知れません。
〔返〕 私なら一人で持てると大松澤武哉先生大張り切りだ 鳥羽省三
○ 我よりも大きい子のシャツ並べ干す洗濯物は反抗しない (川越市) 津村みゆき
そうです。
「洗濯物」はどんなに大きくたって、一切「反抗しない」ですからね。
また、近頃は、洗濯機の性能もぐっぐっぐっと向上していますから、本当に楽になりましたね。
それに較べて、子育ては時代が経つにつれて益々難しくなって行くばかりである。
〔返〕 乱暴な息子のシャツの袖からみ私のブラウス破けちゃったよ 鳥羽省三
○ 立ち飲みでホッピー二杯をぐいと空けわれを放てり神田駅前 (小平市) 桂木 遙
「われを放てり」とあるから、<女性解放>かと思って喜んでいたら、「立ち飲みでホッピー二杯をぐいと空け」、<急性アルコール中毒>になってしまった、というだけのことでした。
<女性解放>の場面としても、<急性アルコール中毒>に罹って暴れる場面としても、「神田駅前」という場面と極めて適切な場面である。
なにしろ、至るところ酒場だらけですからね。
〔返〕 立ち飲みで電気ブランを五杯飲み風雷神と格闘しちゃった 鳥羽省三
○ あて先は志布志市志布志町志布志 誤植にあらず乱視にあらず (奈良県) 秋野和昭
本作に登場する地名「志布志市志布志町志布志」については、夙に珍しく煩わしい地名として有名であり、インターネットで検索すると、「志布志市志布志町志布志の男性容疑者しぶしぶ自首す」などという、この地名に関わる珍談奇談が満載されている。
で、この「志布志市志布志町志布志」には、「志布志市役所志布志支所」という行政機関が在って、これをハガキなどに宛先として記せば、「志布志市志布志町志布志 志布志市役所志布志支所 御中」となって、そのややこしいこと、ややこしいこと。
〔返〕 宛先は「志布志市志布志町志布志 志布志市役所志布志支所」御中 鳥羽省三
○ 寂し気に啼きつつ獄庭(にわ)に餌を漁る鷗の群れよ今はもう秋 (アメリカ) 郷 隼人
「獄庭」に、「鷗の群れ」が「漁る」ような、どんな「餌」があると言うのだろうか。
それにしても、「寂し気に啼きつつ獄庭に餌を漁る鷗の群れ」に「今はもう秋」と密かに呼び掛ける、本作の作者のご心境の何と淋しく哀れなことよ。
〔返〕 郷さんよ今は詠うな詠わずに遥かに続く小説を書け 鳥羽省三
○ 熊楠の可愛がりたる「猫楠」が水木しげるのペンで跳ねおり (町田市) 田上 脩
『猫楠―南方熊楠の生涯』という<水木しげる>の著作が<角川文庫ソフィア>の一冊として刊行されている。
私は未見であるが、これも漫画なのでありましょうか。
〔返〕 「猫また」は「猫の経上が」るものなりと徒然草の八十九段 鳥羽省三
『徒然草』に登場する「猫また」と「猫楠」とは、何らかの関わりがあるのだろうか?
○ 耳(おなもみ)を付けて戻りし猫のこと書き留めて置く家計簿の隅に (山口市) 山本まさみ
本作に接し、詠い出しにいきなり「耳」という、見慣れない語が出て来た時、私は一瞬困惑してしまった。
何故ならば、この二字の語は、単に見慣れないだけでは無くて、私にとっては読めない漢字でもあったからである。
そこで、インターネット辞書『ウィキペィディア』を引いてみたところ、次のように記されてあったので、その要点のみを引用させていただきたい。
「オナモミ(耳、巻耳、学名:Xanthium strumarium)は、キク科オナモミ属の一年草。果実に多数の棘(とげ)があるのでよく知られている。また同属のオオオナモミやイガオナモミなども果実が同じような形をしており、一般に混同されている。」
「草丈は50~100cm。葉は広くて大きく、丸っぽい三角形に近く、周囲は不揃いなギザギザ(鋸歯)がある。茎はやや茶色みをおび、堅い。全体にざらざらしている。夏になると花を咲かせる。雌雄異花で、雄花は枝の先の方につき、白みをおびたふさふさを束ねたような感じ。雌花は緑色の塊のようなものの先端にわずかに顔を出す。
見かけ上の果実は楕円形で、たくさんの棘をもっている。その姿は、ちょうど魚類のハリセンボンをふぐ提灯にしたものとよく似ている。先端部には特に太い棘が2本ある。もともと、この2本の棘の間に雌花があったものである。」 以上、引用終わり。
上記、『ウィキペィディア』には、引用させていただいた記事の他に、「耳」の写真も掲載されていたが、一見して判ったことであるが、私にとって未知の言葉であった「耳」とは、私たちが子供の頃に野山などに出掛けた時によく目にし、身体にくっ付いたりして厄介な植物と思っていた<くっつき虫>のことであり、私の故郷では、これを<のさばりこ>と呼んでいたのである。
<のさばりこ>とは、<母親などに甘えて、いつもべたべたくっ付いてばかりいる子供>のことであり、私たちは、野山に行くと身体にくっ付いてくる「耳」を厄介な植物として敬遠し、これに<のさばりこ>という蔑称を奉っていたのであった。
本作の作者・山本まさみさんは、この<のさばりこ>たる「耳」を身体に「付けて」戻った「猫のこと」を「家計簿の隅」に「書き留めて」置いた、とお詠みになっているのである。
<所変われば品変わる>という言葉が在るが、その言葉とは異なって、日本という国は狭いから、本州の東の外れに近い私の故郷にも、本州の西の外れの山口市でも、身体中に「耳」即ち<のさばりこ>をくっ付けて帰宅する、甘えん坊の子供や猫が居たのである。
〔返〕 ワイシャツに溢した御飯をくっ付けて職場に行った<のさばりこ>かも 鳥羽省三
○ わが国の春夏秋冬ほどの良き春と秋とが削られてゆく (兵庫県) 陰山 毅
私も亦、つい先日、そんな気がして連れ合いに話したら、連れ合いも亦、そんな気がするということでした。
〔返〕 ボーナスは夏と冬とに貰うもの春と秋とを削ればお徳 鳥羽省三
○ カレンダーもうあと二枚になっちゃったサンタの家のももうあと二枚 (富山市) 松田わこ
<松田わこ>さんと言えば、私が言うところの<出来過ぎ姉妹>のお妹さんの方でしたか。
相変わらずの可愛らしく素晴らしい出来栄えの作品であります。
〔返〕 白鵬の五連覇決定すれば直ぐ我が家の暦はあと一枚になる 鳥羽省三
○ 納豆をかきまぜながら見ておりぬ救出される人人人人 (香川県) 薮内眞由美
過ぎし日に地球の裏側の国・チリで発生した鉱山の落盤事故とその結末に取材した作品かと思われる。
逆の見方をすれば、ごく普通の日本人が「納豆をかきまぜ」るといった日常生活の中の、ごく普通の一瞬の間にも、この地球中の何処かで尊い人間の命が失われて行く、ということにもなりましょうか。
〔返〕 わたくしがこの文章を綴る間に春の準備をする水仙の芽 鳥羽省三
チューリップの球根やパンジーの苗を餓えた先日に続いて、一昨日は水仙の球根を植えました。
来春が楽しみです。
○ 指名され男子生徒は取り囲みグランドピアノを「せいの!」と運ぶ (奥州市) 大松澤武哉
中学校や高等学校の音楽の先生の大半は女性でしかも美しく、その学校の男子生徒たちからアイドル視されているのである。
したがって、学期末などの大掃除などの際に、そのアイドル先生から、「鳥羽君と三好君と中牟田君と万里小路君と松坂君は音楽室に来て下さい。安田君は来なくて宜しい」などとのお声掛かりがあろうものなら、「来なくて宜しい」と言われた安田君まで、待ってましたとばかりに音楽室に駆けて行って、お姫様を助けるナイトよろしく「せいの!」と声を上げて、運ばなくてもいい「グランドピアノ」を持ち上げてしまうのである。
と、ここまで書いて来て、ふと作者名に注目したら、其処に書かれていた名前は、<大松澤武哉>という、昨日熊の巣穴から出て来たような男性名であったので吃驚仰天。
私が期待していたのは、<木村かおり>とか<前田あんぬ>とか<松下奈緒>とか<城門芙美子>とか、いかにも美人女性ピアニストらしいお名前だったのである。
思うに、本作の作者・大松澤武哉さんは、その学校の体育科主任の先生か、教頭先生であり、彼も亦、年若いアイドル先生からのお声掛かりを密かに期待して、自分自身の持ち場を離れて、音楽室の前辺りを徘徊していたのかも知れません。
〔返〕 私なら一人で持てると大松澤武哉先生大張り切りだ 鳥羽省三
○ 我よりも大きい子のシャツ並べ干す洗濯物は反抗しない (川越市) 津村みゆき
そうです。
「洗濯物」はどんなに大きくたって、一切「反抗しない」ですからね。
また、近頃は、洗濯機の性能もぐっぐっぐっと向上していますから、本当に楽になりましたね。
それに較べて、子育ては時代が経つにつれて益々難しくなって行くばかりである。
〔返〕 乱暴な息子のシャツの袖からみ私のブラウス破けちゃったよ 鳥羽省三
○ 立ち飲みでホッピー二杯をぐいと空けわれを放てり神田駅前 (小平市) 桂木 遙
「われを放てり」とあるから、<女性解放>かと思って喜んでいたら、「立ち飲みでホッピー二杯をぐいと空け」、<急性アルコール中毒>になってしまった、というだけのことでした。
<女性解放>の場面としても、<急性アルコール中毒>に罹って暴れる場面としても、「神田駅前」という場面と極めて適切な場面である。
なにしろ、至るところ酒場だらけですからね。
〔返〕 立ち飲みで電気ブランを五杯飲み風雷神と格闘しちゃった 鳥羽省三
○ あて先は志布志市志布志町志布志 誤植にあらず乱視にあらず (奈良県) 秋野和昭
本作に登場する地名「志布志市志布志町志布志」については、夙に珍しく煩わしい地名として有名であり、インターネットで検索すると、「志布志市志布志町志布志の男性容疑者しぶしぶ自首す」などという、この地名に関わる珍談奇談が満載されている。
で、この「志布志市志布志町志布志」には、「志布志市役所志布志支所」という行政機関が在って、これをハガキなどに宛先として記せば、「志布志市志布志町志布志 志布志市役所志布志支所 御中」となって、そのややこしいこと、ややこしいこと。
〔返〕 宛先は「志布志市志布志町志布志 志布志市役所志布志支所」御中 鳥羽省三
○ 寂し気に啼きつつ獄庭(にわ)に餌を漁る鷗の群れよ今はもう秋 (アメリカ) 郷 隼人
「獄庭」に、「鷗の群れ」が「漁る」ような、どんな「餌」があると言うのだろうか。
それにしても、「寂し気に啼きつつ獄庭に餌を漁る鷗の群れ」に「今はもう秋」と密かに呼び掛ける、本作の作者のご心境の何と淋しく哀れなことよ。
〔返〕 郷さんよ今は詠うな詠わずに遥かに続く小説を書け 鳥羽省三
○ 熊楠の可愛がりたる「猫楠」が水木しげるのペンで跳ねおり (町田市) 田上 脩
『猫楠―南方熊楠の生涯』という<水木しげる>の著作が<角川文庫ソフィア>の一冊として刊行されている。
私は未見であるが、これも漫画なのでありましょうか。
〔返〕 「猫また」は「猫の経上が」るものなりと徒然草の八十九段 鳥羽省三
『徒然草』に登場する「猫また」と「猫楠」とは、何らかの関わりがあるのだろうか?
○ 耳(おなもみ)を付けて戻りし猫のこと書き留めて置く家計簿の隅に (山口市) 山本まさみ
本作に接し、詠い出しにいきなり「耳」という、見慣れない語が出て来た時、私は一瞬困惑してしまった。
何故ならば、この二字の語は、単に見慣れないだけでは無くて、私にとっては読めない漢字でもあったからである。
そこで、インターネット辞書『ウィキペィディア』を引いてみたところ、次のように記されてあったので、その要点のみを引用させていただきたい。
「オナモミ(耳、巻耳、学名:Xanthium strumarium)は、キク科オナモミ属の一年草。果実に多数の棘(とげ)があるのでよく知られている。また同属のオオオナモミやイガオナモミなども果実が同じような形をしており、一般に混同されている。」
「草丈は50~100cm。葉は広くて大きく、丸っぽい三角形に近く、周囲は不揃いなギザギザ(鋸歯)がある。茎はやや茶色みをおび、堅い。全体にざらざらしている。夏になると花を咲かせる。雌雄異花で、雄花は枝の先の方につき、白みをおびたふさふさを束ねたような感じ。雌花は緑色の塊のようなものの先端にわずかに顔を出す。
見かけ上の果実は楕円形で、たくさんの棘をもっている。その姿は、ちょうど魚類のハリセンボンをふぐ提灯にしたものとよく似ている。先端部には特に太い棘が2本ある。もともと、この2本の棘の間に雌花があったものである。」 以上、引用終わり。
上記、『ウィキペィディア』には、引用させていただいた記事の他に、「耳」の写真も掲載されていたが、一見して判ったことであるが、私にとって未知の言葉であった「耳」とは、私たちが子供の頃に野山などに出掛けた時によく目にし、身体にくっ付いたりして厄介な植物と思っていた<くっつき虫>のことであり、私の故郷では、これを<のさばりこ>と呼んでいたのである。
<のさばりこ>とは、<母親などに甘えて、いつもべたべたくっ付いてばかりいる子供>のことであり、私たちは、野山に行くと身体にくっ付いてくる「耳」を厄介な植物として敬遠し、これに<のさばりこ>という蔑称を奉っていたのであった。
本作の作者・山本まさみさんは、この<のさばりこ>たる「耳」を身体に「付けて」戻った「猫のこと」を「家計簿の隅」に「書き留めて」置いた、とお詠みになっているのである。
<所変われば品変わる>という言葉が在るが、その言葉とは異なって、日本という国は狭いから、本州の東の外れに近い私の故郷にも、本州の西の外れの山口市でも、身体中に「耳」即ち<のさばりこ>をくっ付けて帰宅する、甘えん坊の子供や猫が居たのである。
〔返〕 ワイシャツに溢した御飯をくっ付けて職場に行った<のさばりこ>かも 鳥羽省三
○ わが国の春夏秋冬ほどの良き春と秋とが削られてゆく (兵庫県) 陰山 毅
私も亦、つい先日、そんな気がして連れ合いに話したら、連れ合いも亦、そんな気がするということでした。
〔返〕 ボーナスは夏と冬とに貰うもの春と秋とを削ればお徳 鳥羽省三
○ カレンダーもうあと二枚になっちゃったサンタの家のももうあと二枚 (富山市) 松田わこ
<松田わこ>さんと言えば、私が言うところの<出来過ぎ姉妹>のお妹さんの方でしたか。
相変わらずの可愛らしく素晴らしい出来栄えの作品であります。
〔返〕 白鵬の五連覇決定すれば直ぐ我が家の暦はあと一枚になる 鳥羽省三