臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(019:層・其のⅥ・雨よ、降り出せ)

2011年11月09日 | 題詠blog短歌
(五十嵐きよみ)
〇  乱層雲ひくく垂れ込め永遠にやむことのない雨よ、降り出せ

 五十嵐きよみさんらしからぬ、推敲不足の作品である。
 作者の創作意図は、至る所見えない身柄を拘束する現状の中から救済されるべく破れかぶれの心情のままに、「乱層雲ひくく垂れ込め」、「永遠にやむことのない雨よ、降り出せ」と叫び出したい点にありましょう。
 だとしたら、作中の“読点”は、もう一か所、即ち「乱層雲ひくく垂れ込め」という詠い出しの二句の後にも置いて、「乱層雲ひくく垂れ込め、永遠にやむことのない雨よ、降り出せ!」とするべきでありましょう。
 また、短歌とは、本来的には“三十一音ひと続きの韻文でありますから、本作は、いっそのこと“読点”も“びっくり記号”も用いずに「乱層雲ひくく垂れ込め永遠にやむことのない雨よ降り出せ」とあるべきでありましょう。
 〔返〕  過ぎぬれば世界の民の嘆きなり竜神様よタイの雨やめたまへ   鳥羽省三


(夏樹かのこ)
〇  「油絵は重ねて塗れば塗っただけ層の記憶が増してゆきます」

 「油絵」の特質は、「“水彩画”や“日本画”とは異なって、“重ね塗り”や“厚塗り”が可能なところに在る」とは、よく耳にすることである。
 本作の意は、「その『油絵』の特質の一つである“重ね塗り”は、『塗れば塗っただけ層の記憶が増してゆきます』」ということでありましょうが、だとしたら、「油絵」を描く人は、“重ね塗り”をする度ごとに、新たな絵を描いているような気分に浸っている、ということになるのでありましょう。
 「一枚の『油絵』の下に、それとは全く構図も描線も異なる絵が隠されていることがレントゲン写真によって解明された」といったニュースに接することがありますが、“重ね塗り”の究極的な到達点は、そうしたことに在るのでありましょうか?
 〔返〕  襖絵にはつか重なる描線は狩野派の絵師の苦労の跡か   鳥羽省三


(香-キョウ-)
〇  思い出は上書きじゃない重層になると思えば淋しくないよ

 「思い出は上書きじゃない重層になると思えば淋しくないよ」とは仰いますが、「いっそのこと、『思い出』も一回こっきりの、パソコンの『上書き』のようなものであれば救いがあるのに」と思ったりすることだってありますよ。
 〔返〕  思ひ出が思ひ出を呼び眠られずその場限りの思ひ出無きや!   鳥羽省三


(るいぼす)
〇  表層は笑ってたけどホントウは何を感じていたのだろうか

 ルイボスはマメ目マメ科植物だ。
 ルイボスはマメだ。
 ルイボスをマメに働いた。
 ルイボスは針葉樹みたいな葉を持つ。
 ルイボスは赤褐色になったとき落葉する。
 ルイボスは南アフリカ共和国のセダルバーグ山脈一帯にのみ自生する。
 ルイボスは乾燥した摂氏三十度以上の温度差の高い場所を好むため、セダルバーグ山脈以外の土地での栽培に適さない。
 ルイボスの乾燥させた葉はルイボス茶になる。
 ルイボス茶は甘みがあり、カフェインを含まず、タンニン濃度もごく低く、抗酸化作用を持つ健康茶である。
 ケープ地方の先住民・コイサン人は、古くからルイボス茶の効能を知って居て、薬草として採集していた。
 ケープ地方に入植したオランダ移民はルイボス茶を紅茶の代用品として用いた。
 南アフリカ共和国では、ルイボス茶に牛や山羊の乳と砂糖を入れてミルクティーにして飲むのが一般的であるが、世界のその他の地域ではそのまま飲むことが多い。
 南アフリカのカフェでは、ルイボスのエスプレッソやカフェ・ラッテ、カプチーノも人気がある。
 
 ルイボス茶は我が国にも輸出され、健康茶として人気がある。
 ルイボス茶を飲む人はよく働きよく笑う。
 ルイボス茶を飲む人は、表層では笑ってるけど心底で何を感じてるんだろうか?
 ルイボス茶を飲む人は、笑いながら自分だけが長生きしようとしてるんだろうか?
 ルイボス茶を飲む人は信用出来ない。
 ルイボス茶に限らず、一般的に茶を飲む人は信用出来ない。
 千利休は茶を飲む人だから秀吉に信用されずに殺された。
 ルイボス茶を飲む人は、表層で笑いながら心底で死と権力について考察しているのである。
 〔返〕  表層は乾いたみたいに見えるけど土の底ではいつも濡れてた   鳥羽省三
      唇を渇いたみたいに見えるけど膣の中ではいつも濡れてた


(新田瑛)
〇  射し込んだ光はやがて層を成しあなたを弛く固定してゆく

 月明かりの射し込む部屋のベッドで行われた情交の有様をそのまま詠んだのでありましょうか?
 「射し込んだ光」の「層」の中で「弛く固定」されている女性の女性自身を開かんとしている男性の男性自身の有様が彷彿とされる一首である。
 〔返〕  射し込んだ光の中で悶えつつやがて貴女は静かに眠る   鳥羽省三


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