臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

大室ゆらぎの短歌(其のⅠ)

2017年08月15日 | 諸歌集鑑賞
○  沖迷ふ靄のまにまに島山の裾廻つたうて船寄する浦

○  海の波隔てて渡る南のゆくへもしらず後を隠して
                      
○  山水の下り来るあたり靑蕗はみずみずと生ひ森は野となる

○  行く春は盡きなむとして奥庭に花を葬るをとめらの影
   
○  山際に白き花落つ暗ければ何の花とも分かず踏み行く

○  夏草のきざし日にけに踏み分けて草苺の實ほしいままにす

○  誰知らぬところに暮らすよろこびは丘の邊の道どこまでも行く                         

○  晝暗き廊下の奥に若猫はつくづく菊の花覗きをり

○  刈りたての小笹の匂ふ土手道の細きところを犬に先立つ

○  人のゐない方へと歩む午後三時犬うら若く鄙の野育ち

○  三つ辻の小さき明かり草に落ちいづれの道も池へとつづく

○  ひとつある三つ辻のあかり遠く見てあらぬ方へと野を離りゆく

○  ここからは折り返しとなる道の末芒原には身をなげうたず

○  朝日影しづかに落ちて野兎の一羽失せたるのちの冬空

○  しまらくは島に籠らむただよはず浮世離れの文讀む冬の夜

○  この島は去りがたきかも見も果てず歩きも果てぬ神々の庭

     以上「第一歌集『海南別墅』」(書肆推車客刊)より抜粋




コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。