○ 沖迷ふ靄のまにまに島山の裾廻つたうて船寄する浦
○ 海の波隔てて渡る南のゆくへもしらず後を隠して
○ 山水の下り来るあたり靑蕗はみずみずと生ひ森は野となる
○ 行く春は盡きなむとして奥庭に花を葬るをとめらの影
○ 山際に白き花落つ暗ければ何の花とも分かず踏み行く
○ 夏草のきざし日にけに踏み分けて草苺の實ほしいままにす
○ 誰知らぬところに暮らすよろこびは丘の邊の道どこまでも行く
○ 晝暗き廊下の奥に若猫はつくづく菊の花覗きをり
○ 刈りたての小笹の匂ふ土手道の細きところを犬に先立つ
○ 人のゐない方へと歩む午後三時犬うら若く鄙の野育ち
○ 三つ辻の小さき明かり草に落ちいづれの道も池へとつづく
○ ひとつある三つ辻のあかり遠く見てあらぬ方へと野を離りゆく
○ ここからは折り返しとなる道の末芒原には身をなげうたず
○ 朝日影しづかに落ちて野兎の一羽失せたるのちの冬空
○ しまらくは島に籠らむただよはず浮世離れの文讀む冬の夜
○ この島は去りがたきかも見も果てず歩きも果てぬ神々の庭
以上「第一歌集『海南別墅』」(書肆推車客刊)より抜粋
○ 海の波隔てて渡る南のゆくへもしらず後を隠して
○ 山水の下り来るあたり靑蕗はみずみずと生ひ森は野となる
○ 行く春は盡きなむとして奥庭に花を葬るをとめらの影
○ 山際に白き花落つ暗ければ何の花とも分かず踏み行く
○ 夏草のきざし日にけに踏み分けて草苺の實ほしいままにす
○ 誰知らぬところに暮らすよろこびは丘の邊の道どこまでも行く
○ 晝暗き廊下の奥に若猫はつくづく菊の花覗きをり
○ 刈りたての小笹の匂ふ土手道の細きところを犬に先立つ
○ 人のゐない方へと歩む午後三時犬うら若く鄙の野育ち
○ 三つ辻の小さき明かり草に落ちいづれの道も池へとつづく
○ ひとつある三つ辻のあかり遠く見てあらぬ方へと野を離りゆく
○ ここからは折り返しとなる道の末芒原には身をなげうたず
○ 朝日影しづかに落ちて野兎の一羽失せたるのちの冬空
○ しまらくは島に籠らむただよはず浮世離れの文讀む冬の夜
○ この島は去りがたきかも見も果てず歩きも果てぬ神々の庭
以上「第一歌集『海南別墅』」(書肆推車客刊)より抜粋