私は、一升瓶を抱いて母親の胎内から出て来たという質の悪い伝説の持ち主であるうえ、ご承知の通りの怠け者の勉強嫌いなので、つい先日まで知らなかったのであるが、昨今の世の中には、甘ったれの女性どもが「ミルフィーユ」と呼んで好んで食べる、パイ生地を何枚も重ねたような気持ちの悪い物質の中にカスタードクリームやチョコレートや苺やジャムなどが包まれているフランス渡りの甘いお菓子が在るそうだ。
冗談はさて措いて、「ミルフィーユ」の本来の名称は「mille-feuille」であり、仏語発音で「[milfœj]ミルフーイュ」、英語発音で「[milfœj] ミルフーイュ」である。
また、その種類も、「ミルフイユ・ロン(mille-feuille rond)」、即ち<丸い形で、側面にはカスタードクリームを塗り刻んだフイユタージュをまぶして上面に粉糖をまぶしたミルフィーユ>。
「ミルフイユ・グラッセ(mille-feuille glacé)」、即ち<フォンダンがけにしたうえ、チョコレートで矢羽模様などを描き飾りとしたミルフィーユ>。
「ミルフイユ・ブラン(mille-feuille blanc)」、即ち<3枚のフイユタージュ生地を用いる代わりに、中央の1枚をスポンジケーキに置き換えたミルフィーユ>。
「ミルフイユ・オー・フレーズ(mille-feuille auxfraises)」、即ち<苺のミルフイユ、ナポレオン・パイとも言われ、クリームだけでなく苺も挟み込み、冷やして供されるミルフィーユ>など、多種多様であるそうだ。
更に申せば、「ミルフィーユに用いられるクリームとしては、カスタードクリームがよく知られているが、生クリームやバタークリームなども広く用いられ、クリーム以外にも、アプリコットジャムやリンゴのコンポートなどが使われる場合もある」ということでもある。
上記の記事中の中身のある事柄の全ては、フリー百科辞典『ウィキペディア』から得た知識であるが、それに加えて同辞典には、<パイ菓子以外のミルフィーユ>として、「薄切りの肉・魚や野菜を何層にも重ねた料理を“ミルフィーユ”または”ミルフィーユ仕立て”と呼ぶことがある」という、グルメ通の私でさえ知らなかった事まで記載されているのである。
不勉強な私・鳥羽省三が、居ながらにしてこのような該博な知識を得ることが出来たのは、ひとえにフリー百科辞典『ウィキペディア』のお蔭であり、この機会に、同辞典の関係者の皆様に篤く篤く御礼申し上げます。
さて、この度、「題詠2011」のお題「層」について皆様方がお詠みになられた作品をありがたく熟読させていただきましたが、それらの作品中に、上記「ミルフィーユ」関連の作品が数多く見られましたので、先ずは、それらを鑑賞させていただきたいと思います。
(星川郁乃)
〇 ささやかな好意の層を重ねあげやがてミルフィーユができあがる
「ミルフィーユ」の最大の特徴であり、“お題”ともなっている「層」に着目してお詠みになった、先ずは無難にして嫌味の感じられない作品である。
「塵も積もれば山となる」という諺が在るが、「ささやかな」ものであっても、「好意」を込めて焼き上げた“パイ”の「層」を三枚も「重ねあげ」れば、「やがて」は「ミルフィーユができあがる」のでありましょう。
〔返〕 三枚の悪意の層を積み上げたミルフィーユさえ時には甘い 鳥羽省三
私・鳥羽省三は、いかにも鳥羽省三らしい意地の悪い作品で以って、佳人・星川郁乃さんの佳作に対する返歌とさせていただきました。
(壬生キヨム)
〇 ミルフィーユはおいしいけれど(じゃなくって)骨が埋まった地層の話
壬生キヨムさん一流の“肩透かし”的な作品ではあるが、落とし穴に嵌ったような感覚、即ち“ブラックユーモア”として読めば、それなりに味のある作品でありましょう。
〔返〕 「ミルフィーユ、美味しかった」と礼言わず「虫歯が増えた」と悪たれる壬生 鳥羽省三
(冥亭)
〇 この星の熱き息吹きは刻々と古代地層をミルフィーユせり
「この星」、即ち、私たちにとっては掛け替えの無い“地球”の「熱き息吹き」は、数百億年前から「刻々と古代地層」を重ね上げて「ミルフィーユ」の如き、美味しく住み心地の良いものに、造物主がお造りになったのでありましょう、という意味でありましょうか?
末尾の表現「ミルフィーユせり」の意味がやや難解ではありますが、言わんとするところは、短歌鑑賞に慣れた読者には、間違いなく理解されることでありましょう。
〔返〕 この星の地底のマグマはミルフィーユの苺が腐敗した証しでしょうか? 鳥羽省三
(東雲の月)
〇 何層も重なったものなんだろう僕はタマネギきみミルフィーユ
本作の作者・東雲の月さんは、彼の恋人と、厚い毛布の重なったベッドの中で、睦言を交わすみたいな気分で、「何層も重なったものなんだろう?」と、「何層も重なったもの当てゴッコ」をしているつもりになっているのでありましょうが、肝心要の彼女は、不感症なのか、それとも、濃厚な愛撫の余韻に浸っているのか、彼の問い掛けに対して、何ら関心を示さないので、彼ご自身が、「『僕はタマネギ』『きみミルフィーユ』」と、しきりに自問自答して、彼女の関心を惹こうとご努力なさっているのでありましょう。
〔返〕 「何層も重なったものなんだろう?」「僕のあそこと君のあそこの襞!」 鳥羽省三
(葉月きらら)
〇 好き嫌い重なりあったミルフィーユそんな感情層を突き刺す
本作の作者・葉月きららさんは、女性としては珍しく「ミルフィーユ」嫌いなのでありましょうか?
彼女は、今しも、パイ生地が「重なりあったミルフィーユ」を前にして、「この『ミルフィーユ』か、『好き嫌い』が幾層も『重なり』合って出来ているのであると思えば、とても耐え難いのであるが、『そんな』気持ちの悪い『感情』の『層』のような『ミルフィーユ』を、私はこの手に持っている鋭いフォークで『突き刺す』のである」と思っているのでありましょうか?
「ミルフィーユ」という甘くて高級なお菓子を題材としながら、その「層」に「好き嫌い」の「重なり」合いを感じて、「そんな感情層を突き刺す」とまで仰る、女の情念に注目するべきでありましょう。
〔返〕 情念の鋭きフォークで突き刺してミルフィーユ伯を闇に葬る 鳥羽省三
(はこべ)
〇 ミルフィーユ層のうつくし出来栄えにひとりほほえむ明日のパーティー
手作りの「ミルフィーユ」でありましょうか?
「明日のパーティー」では、何方も気持ちが悪いとか言って、食べてくれないのかも知れませんよ!
たから、今夜のうちに、自分一人で、その「出来栄え」の「うつくし」さに見惚れて、勝手に「ほほえむ」のが宜しいかと思われます。
〔返〕 ミルフィーユ甘さも甘し汚らし手作り品は食べる気もせず 鳥羽省三
手作りの「ミルィーユ」の一枚一枚の層には、作った人の指の汚れや指紋などがたっぷりと滲み込んでいるのでありましょう。
そういう訳で、私は、よそ様にお邪魔しても、手作り品は一切食べません
(嵐家 昇)
〇 食欲を興奮させる美しき見事な層よ苺ミルフィーユ
嵐家昇さんも亦、どうぞご勝手に「興奮」なさって居て下さい。
〔返〕 食欲を減退させるミルフィーユ作った人が美女なら未だしも 鳥羽省三
(北大路京介)
〇 チョコパイが幾層もあるミルフィーユいっしょに食べよ コーヒー煎れて
北大路京介さんも亦、嵐家昇さんやはこべさんとご一緒に、「チョコパイが幾層もあるミルフィーユ」をお食べ下さい、「コーヒー」の「煎れて」ね。
〔返〕 苺層が幾段もあるミルフィーユ仲間で食べよう。残しちゃ駄目よ。 鳥羽省三
(くろかわさらさ)
〇 白黒の写真を床でミルフイユの層をひとつひとつとはずす
私・鳥羽省三の鑑賞能力を超えること遙かなるものが感じられる作品かと思われます。
今どき、「白黒の写真」を持ち出すところから拝察させていただきますと、本作の作者・くろかわさらささんは、かなりの“カメラお宅”のように思われます。
昨今の“カメラお宅”の方は、「床でミルフイユの層をひとつひとつ」と外して、「白黒の写真」に収めるのでありましょうか?
それは、一種の前衛芸術でありましょうか?
〔返〕 床上のミルフイユ嬢の布を剥ぎカラー写真にばっちり収める 鳥羽省三
冗談はさて措いて、「ミルフィーユ」の本来の名称は「mille-feuille」であり、仏語発音で「[milfœj]ミルフーイュ」、英語発音で「[milfœj] ミルフーイュ」である。
また、その種類も、「ミルフイユ・ロン(mille-feuille rond)」、即ち<丸い形で、側面にはカスタードクリームを塗り刻んだフイユタージュをまぶして上面に粉糖をまぶしたミルフィーユ>。
「ミルフイユ・グラッセ(mille-feuille glacé)」、即ち<フォンダンがけにしたうえ、チョコレートで矢羽模様などを描き飾りとしたミルフィーユ>。
「ミルフイユ・ブラン(mille-feuille blanc)」、即ち<3枚のフイユタージュ生地を用いる代わりに、中央の1枚をスポンジケーキに置き換えたミルフィーユ>。
「ミルフイユ・オー・フレーズ(mille-feuille auxfraises)」、即ち<苺のミルフイユ、ナポレオン・パイとも言われ、クリームだけでなく苺も挟み込み、冷やして供されるミルフィーユ>など、多種多様であるそうだ。
更に申せば、「ミルフィーユに用いられるクリームとしては、カスタードクリームがよく知られているが、生クリームやバタークリームなども広く用いられ、クリーム以外にも、アプリコットジャムやリンゴのコンポートなどが使われる場合もある」ということでもある。
上記の記事中の中身のある事柄の全ては、フリー百科辞典『ウィキペディア』から得た知識であるが、それに加えて同辞典には、<パイ菓子以外のミルフィーユ>として、「薄切りの肉・魚や野菜を何層にも重ねた料理を“ミルフィーユ”または”ミルフィーユ仕立て”と呼ぶことがある」という、グルメ通の私でさえ知らなかった事まで記載されているのである。
不勉強な私・鳥羽省三が、居ながらにしてこのような該博な知識を得ることが出来たのは、ひとえにフリー百科辞典『ウィキペディア』のお蔭であり、この機会に、同辞典の関係者の皆様に篤く篤く御礼申し上げます。
さて、この度、「題詠2011」のお題「層」について皆様方がお詠みになられた作品をありがたく熟読させていただきましたが、それらの作品中に、上記「ミルフィーユ」関連の作品が数多く見られましたので、先ずは、それらを鑑賞させていただきたいと思います。
(星川郁乃)
〇 ささやかな好意の層を重ねあげやがてミルフィーユができあがる
「ミルフィーユ」の最大の特徴であり、“お題”ともなっている「層」に着目してお詠みになった、先ずは無難にして嫌味の感じられない作品である。
「塵も積もれば山となる」という諺が在るが、「ささやかな」ものであっても、「好意」を込めて焼き上げた“パイ”の「層」を三枚も「重ねあげ」れば、「やがて」は「ミルフィーユができあがる」のでありましょう。
〔返〕 三枚の悪意の層を積み上げたミルフィーユさえ時には甘い 鳥羽省三
私・鳥羽省三は、いかにも鳥羽省三らしい意地の悪い作品で以って、佳人・星川郁乃さんの佳作に対する返歌とさせていただきました。
(壬生キヨム)
〇 ミルフィーユはおいしいけれど(じゃなくって)骨が埋まった地層の話
壬生キヨムさん一流の“肩透かし”的な作品ではあるが、落とし穴に嵌ったような感覚、即ち“ブラックユーモア”として読めば、それなりに味のある作品でありましょう。
〔返〕 「ミルフィーユ、美味しかった」と礼言わず「虫歯が増えた」と悪たれる壬生 鳥羽省三
(冥亭)
〇 この星の熱き息吹きは刻々と古代地層をミルフィーユせり
「この星」、即ち、私たちにとっては掛け替えの無い“地球”の「熱き息吹き」は、数百億年前から「刻々と古代地層」を重ね上げて「ミルフィーユ」の如き、美味しく住み心地の良いものに、造物主がお造りになったのでありましょう、という意味でありましょうか?
末尾の表現「ミルフィーユせり」の意味がやや難解ではありますが、言わんとするところは、短歌鑑賞に慣れた読者には、間違いなく理解されることでありましょう。
〔返〕 この星の地底のマグマはミルフィーユの苺が腐敗した証しでしょうか? 鳥羽省三
(東雲の月)
〇 何層も重なったものなんだろう僕はタマネギきみミルフィーユ
本作の作者・東雲の月さんは、彼の恋人と、厚い毛布の重なったベッドの中で、睦言を交わすみたいな気分で、「何層も重なったものなんだろう?」と、「何層も重なったもの当てゴッコ」をしているつもりになっているのでありましょうが、肝心要の彼女は、不感症なのか、それとも、濃厚な愛撫の余韻に浸っているのか、彼の問い掛けに対して、何ら関心を示さないので、彼ご自身が、「『僕はタマネギ』『きみミルフィーユ』」と、しきりに自問自答して、彼女の関心を惹こうとご努力なさっているのでありましょう。
〔返〕 「何層も重なったものなんだろう?」「僕のあそこと君のあそこの襞!」 鳥羽省三
(葉月きらら)
〇 好き嫌い重なりあったミルフィーユそんな感情層を突き刺す
本作の作者・葉月きららさんは、女性としては珍しく「ミルフィーユ」嫌いなのでありましょうか?
彼女は、今しも、パイ生地が「重なりあったミルフィーユ」を前にして、「この『ミルフィーユ』か、『好き嫌い』が幾層も『重なり』合って出来ているのであると思えば、とても耐え難いのであるが、『そんな』気持ちの悪い『感情』の『層』のような『ミルフィーユ』を、私はこの手に持っている鋭いフォークで『突き刺す』のである」と思っているのでありましょうか?
「ミルフィーユ」という甘くて高級なお菓子を題材としながら、その「層」に「好き嫌い」の「重なり」合いを感じて、「そんな感情層を突き刺す」とまで仰る、女の情念に注目するべきでありましょう。
〔返〕 情念の鋭きフォークで突き刺してミルフィーユ伯を闇に葬る 鳥羽省三
(はこべ)
〇 ミルフィーユ層のうつくし出来栄えにひとりほほえむ明日のパーティー
手作りの「ミルフィーユ」でありましょうか?
「明日のパーティー」では、何方も気持ちが悪いとか言って、食べてくれないのかも知れませんよ!
たから、今夜のうちに、自分一人で、その「出来栄え」の「うつくし」さに見惚れて、勝手に「ほほえむ」のが宜しいかと思われます。
〔返〕 ミルフィーユ甘さも甘し汚らし手作り品は食べる気もせず 鳥羽省三
手作りの「ミルィーユ」の一枚一枚の層には、作った人の指の汚れや指紋などがたっぷりと滲み込んでいるのでありましょう。
そういう訳で、私は、よそ様にお邪魔しても、手作り品は一切食べません
(嵐家 昇)
〇 食欲を興奮させる美しき見事な層よ苺ミルフィーユ
嵐家昇さんも亦、どうぞご勝手に「興奮」なさって居て下さい。
〔返〕 食欲を減退させるミルフィーユ作った人が美女なら未だしも 鳥羽省三
(北大路京介)
〇 チョコパイが幾層もあるミルフィーユいっしょに食べよ コーヒー煎れて
北大路京介さんも亦、嵐家昇さんやはこべさんとご一緒に、「チョコパイが幾層もあるミルフィーユ」をお食べ下さい、「コーヒー」の「煎れて」ね。
〔返〕 苺層が幾段もあるミルフィーユ仲間で食べよう。残しちゃ駄目よ。 鳥羽省三
(くろかわさらさ)
〇 白黒の写真を床でミルフイユの層をひとつひとつとはずす
私・鳥羽省三の鑑賞能力を超えること遙かなるものが感じられる作品かと思われます。
今どき、「白黒の写真」を持ち出すところから拝察させていただきますと、本作の作者・くろかわさらささんは、かなりの“カメラお宅”のように思われます。
昨今の“カメラお宅”の方は、「床でミルフイユの層をひとつひとつ」と外して、「白黒の写真」に収めるのでありましょうか?
それは、一種の前衛芸術でありましょうか?
〔返〕 床上のミルフイユ嬢の布を剥ぎカラー写真にばっちり収める 鳥羽省三