超芸術と摩損

さまざまな社会問題について発言していくブログです。

いまなんつった? 連載143 「気持ちよかっただ」 宮藤官九郎

2011-05-19 03:03:44 | 週刊誌から
 ドイツからファンレターが来ました。事務所に届いていた郵便物の中に一通のエアメールを発見。はじめは海外留学中の日本人かなと思った。日本人でも「工藤」になってたり「官久朗」や「勘九郎」になりがちですが、しっかり『宮藤官九郎さんへ』と書いてある。開封すると、手紙は見たこともない原稿用紙に書いてあった。お世辞にも達筆とは言えない、不安を掻き立てる筆跡。ちょっと危ない系の人かもと身構えました。
「私は何か見つけた。ですか5今この手紙を書いている。ファンレターみたいだ。私には少し変ですけど書きたいんだ」
 独和辞典(?)と首っ引きで書いたんでしょう。その苦労に頭が下がります。「ら」が「5」になってるけど。以下なるべく本文を引用します。彼女(たぶん女性)はドイツのハンブルク在住で、大学の日本学科で学んだそうです。
「二つの日本映画を見た。SHONEN-MERIKENSACKやINSTANT-NUMAと」
 僕の監督作と出演作ですね。ひょっとしたら『インスタント沼』も監督したと思われているかもしれないが違います。三木聡さん。とにかく「冬の寒さのため、私の仕事の忙しさのため、ちょっと疲れる感じがあった」そうですが「見たら気持ちよかっただ」
 よかっただ?
 日本語って難しいんでしょうね。他国の方が書いた文章を読むとつくづく感じる。ドイツ語で思考し日本語で書く。想像を絶します。辞書に載ってるのでしょうが、ちょっと馴染みのない表現がたびたび出て来る。
「俳優たちの役は変だけど人好きのする役だ」
 人好きのする役? 「憎めない」とか「愛すべき」キャラクターというニュアンスなのかな。
「音楽はPUNKROCKだった。素晴らしいだ」
「だ」の使い方が難しいんだな。英語のTHEみたいに捉えているのかも知れない。不要なところにちょいちょい入って来る。そのわりに映画のテーマは意外と伝わっていたりする。
「話は速過ぎて全部の冗談は分からなかったが、好きな事があれば、友達がいれば、生活は素晴らしいことだ。かなー」
 ほぼその通りです!
「ときどき好きな事は馬鹿な事だ。しかし、馬鹿なのに、好きだから成功する」
 そうそう。だいたいそんな感じですよ。
「わからない。ごめんなさい。ぺらぺらだ」
 ぺらぺらだ? そもそもハンブルクで僕の作品をどうやって見るんだろう。
「公的図書館で借りる可能性がある。日本映画祭がある」
 そこで彼女は『GO』や『69』さらにドラマまで見てくれたそうで「大そんけいだ」と。
 嬉しいです。
 返事を書きたいと思うのですが……ドイツ語かあ。ダンケとグーテンモルゲンしか知らないや。
 とりあえずネットで翻訳ページを見つけました。試しに「いま、なんつった?」をドイツ語に訳すと「Mache, wie du nur sagtest?」
 それをさらに日本語に訳すと
「あなたが言うだけだったように、します?」
 うーん。難しいだ。

くどうかんくろう 1970年生まれ。脚本家・構成作家・俳優。「シロウト名鑑」(毎週金曜24:53~、テレビ東京)に出演中。グループ魂ライブ盤CD『実録!グループ魂全国ツアー「客vs俺!どっちがスケベか競争して来たど!15番勝負」』が発売されました。6月には作・演出・出演の舞台、ウーマンリブVOL.12「SAD SONG FOR UGLY DAUGHTER(サッドソング・フォー・アグリードーター)」を上演。

週刊文春2011年4月28日号
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