超芸術と摩損

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聖カタリナ高野球部暴行 「学校が被害矮小化」 元1年部員 保護者 民事訴訟を検討

2023-11-04 03:12:24 | 新聞から
 聖カタリナ学園高校(松山市)が、2022年5月に野球部寮で起きた暴行を県高野連に1年以上報告していなかった問題で、被害者の元1年生部員と保護者=近畿在住=が「学校は聞き取りなどを十分せず、内容や経緯を矮小(わいしょう)化した」と訴えていることが2日までに分かった。保護者は愛媛新聞の取材に、特にひどい暴行や嫌がらせを受けたのは別の集団暴行で部活動が停止していた時期だったと明らかにし、学校の管理監督や対応が不十分だったなどとして民事訴訟を検討している。

 同校は取材に「保護者の申し出を受け、できる限りの調査をして確認した事実をお伝えした」とし、県高野連にも同様の内容を報告したと説明。事案の詳細や加害生徒への処分内容は「プライバシーに関わる」と明らかにしていない。
 野球部については、同年5月と21年11月に集団暴力があったと結論付ける学校の第三者委員会の報告書概要が22年11月に公表され「暴力行為が当たり前の空気感となり、罪の意識が希薄になっていた」と指摘された。今回問題となっているのはこの2件とは別の当時の2年生による暴力で、日本学生野球協会が今年10月中旬に野球部部長の教諭を、事実を把握しながら報告が遅れたとして3カ月の謹慎処分にして公になった。関係者によると、被害部員保護者から公にしないよう要望され、県高野連に報告していなかった。
 元部員の両親によると特にひどい暴行、嫌がらせがあったのは22年5〜6月で、元部員に知らされた母親が同6月17日、学校側に電話で相談。当時の部は暴行問題で全国高校野球選手権愛媛大会出場が危ぶまれていて、元部員が「3年生に迷惑をかけたくない」と考えていたこともあり、母親も「公にしないほうがいいと思う」と伝えた。学校から同日、3年生のみで出場すると保護者に一斉連絡があった。
 元部員は適応障害と診断され自宅で療養。同年8月に当時の副部長と担任の2教諭らが自宅に聞き取りに訪れた際、被害を伝えたが調査に関する連絡はなかった。元部員は寮に戻ったが学校にも通えなくなり、同年12月に自主退学。両親は今年8月下旬、学校に調査や関係者の処分をあらためて要望し、9月中旬に校長名の「ご連絡いただいた件について」と題した1枚の文書が郵送されてきた。
 文書では調査結果として当時の2年生2人に「元部員に頭をたたかれるなどしたので体をつねり、首も2〜3回絞めたがそんなに強く絞めたつもりはない」「元部員がちょっかいをかけてきたのでマスクにペンで線を引いた」などの事実が認められたと説明。それぞれ単独で計画性はなく、2人を厳重注意処分としたとしている。元部員に非があるともとれる内容に、両親は「先輩に手をあげられるわけがない」と反論。回数や強さが過小に認定され、ほかの上級生も関与していたと主張している。
 また在校時に副部長立ち会いの下、父親が加害部員2人や保護者と面談し「子どもが野球を辞めることになったら君たちも辞めてくれ。1人の野球人生を奪うことを受け止めて」と求め、2人も応じたが今年の大会に出場したと指摘。学校側は同文書で「当事者間のことで、本校として介入できない」と答えている。
 文科省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」では、被害生徒や保護者が公表を望まない場合でも、再発防止や新たな事実確認のため検証などをするよう義務づけている。

部活継続願い説得 自責 両親

 元部員の両親は、当初は学校側に問題公表を望まなかった理由を「何とか野球を続けられないのか、公になることで部への処分が重くなり、戻ったときに大会に出られないのではと思った」と語る。一方で母親は「息子の心は本当に壊れていた。どれほどもがき苦しんできたのか。どうすればよかったのかと毎日自問自答している」と自責の念にさいなまれている。
 両親によると2022年6月10日、初めて元部員から母親へのLINE(ライン)で2年生に暴力を受けていると明かされた。やりとりは毎日続き、17日午前2時ごろに電話中、息子が部屋で物に当たっているような気がして「ただ事ではない」と感じ、朝一番で学校に電話して当日のうちに寮を出るようにさせた。
 元部員は自宅で約2週間療養。寮に戻ろうとしたが電車内で動悸(どうき)と過呼吸でパニック状態になり、三つ手前の駅で歩いて寮まで行ったが4日後に再び自宅に戻り、適応障害と診断を受けた。
 それでも両親は学校に調査を求めず、自主退学を決めるまで約5カ月間、何度も「辞めたい」と言う元部員を思いとどまるよう説得した。母親は「やっぱり野球を続けてほしいと願っていた」と振り返り、部関係者の話で戦力として期待されていると感じ「乗り越えれば明るい未来が待っていると思った」と話す。
 学校を辞めた後、家庭では愛媛の話題はせず、学校側ときちんと話そうという気持ちも薄れていった。しかし3年生となった加害者が大会に出場していると知って今年8月、電話で学校側に問いただして調査を求めた。郵送された回答文書について両親は「加害者の一方的な言い分で、紙切れ1枚だけ。ばかにしているのかと思った」と憤る。
 元部員は今でもグローブを大事に手入れし、バットで素振りを続ける。「問題を起こした選手が表舞台に立ち、何もしていない選手が辞めさせられるなら、高校野球なんてつぶれてしまえばいい」とつぶやく父親。一方で「こういうことがどこの学校でも二度とないようにしてほしい。私たちが話すことがそのきっかけになれば」と力を込めた。


元部員が自宅療養から学校に戻った2022年7月上旬の母親とのLINEのやり取り(保護者提供)

      とりあえず普通に野球して普通に学校
      行ってみ
   既読
   0:33 誰も信用しなくていいよ

 信用出来ひんから学校も行かれへんね
 んて                0:33

 練習もしたくないし 0:34

 人に会いたくないねん 0:34
      
   既読 どっちにしても一回クリアしないと前
   0:35 には進まれへんよ

 クリアするまえに死んでまうわ 0:35
     
   既読 また同じようなことしてきたらその時
   0:35 は迎えに行くから

 するしないの問題じゃないんよ 0:36

 目合うだけで心臓バクバクなるし過呼
 吸なるしでこっちはしんどいねん   0:36

 そんなやつと練習出来るわけないやん 0:36


「死のうかとまで考えた」 甲子園 断たれた夢

 「楽しく野球をしている2人を見て、ばかにされていると思った。こっちは死のうかとまで考えたのに」―。2022年12月に自主退学を余儀なくされた元1年生部員は自殺を考えるまで追い込まれたと吐露し「野球を続けたかった。甲子園のためだけにやってきたんで」と涙をこらえる。
 元部員は中学時代、甲子園を夢見て野球漬けの日々を過ごした。21年春の甲子園に初出場した聖カタリナ学園高校に意気込んで進学。実力を認められて間もなくトップチームに入り、練習などを通じて上級生と話せる関係になった。用具片付け忘れなどがあるとバットのグリップエンドで頭を叩かれる「罰」を受けることもあったが「自分が悪いことをしたので。それが野球部という感じだった」と納得していた。
 ただ4月末の「罰」は違った。グラウンド整備をしなかったことでほかの1年生2人が寮の部屋で上級生5人の前で土下座させられ、グリップエンドで約2時間たたかれ続けた。元部員も偶然居合わせ「お前も受けて助けたれよ」とたたかれた。元部員は1年生の1人はトイレに駆け込んだとし「軽い脳振とうのような感じで吐いていたのに『お前大丈夫や』と言われ、連れ戻された。2人とも(暴行で)頭が真っ赤で、やり過ぎだと思った」と表情を曇らせる。
 元部員は3年生には、校則違反をしたときにかばってくれたこともあり「かわいがってもらっていた」と今も感謝している。一方で2年生には「何の理由もなくただ笑いながら、理不尽に暴行や嫌がらせをしてきた。絶対許せない」と語気を強める。
 寮の浴場では複数の2年生から熱湯をかけられたほか、数人がかりで溺れる寸前まで浴槽に沈められ「死ぬかと思った」と回顧。髪の一部をバリカンで刈られそのまま登校するよう強要されたこともあった。ほかにも日常的に胸を強くつねられる、肩を殴られる、飛び蹴りされるなどされ、何度も背後から首を絞められ失神しそうになり、スマートフォンの暗証番号を教えるよう脅されて個人情報を見られたとも証言する。
 元部員は、22年5月に別の集団暴行の加害者として退学勧告を受けた1年生のうち6人も、同様に2年生から暴行を受ける「的」だったと指摘。6人の転校後は自身に暴力が集中し「集団暴行で大会に出られるかどうかの時も『こいつやったら言わんから大丈夫や』と笑いながら言われた」。
 療養中、複数の1年生部員からLINE(ライン)で「自分が次されるんじゃないかと怖くて言えなかった、ごめん」などと謝罪されたという。親の「続けてほしい」という気持ちに応えようと寮に戻ったが気持ちの浮き沈みが大きく、練習や学校を休みがちに。食堂で同席した部員が別のテーブルに行くなど「避けられている」と感じるようになり、退学を決めた。
 「中学時代の友人からスタメンになったとか聞くと、自分も甲子園に出たら『おめでとう』と言われたのかなと考える」と漏らす元部員。「高校野球は戻ってこない。3年間でどれだけ成績や記憶を残せるか。自分には一番の華で、プロより魅力的なんです」


聖カタリナ学園高校を自主退学した元野球部員のバットとグローブ


愛媛新聞 2023年11月3日
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